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丹波征伐

―――――――――1571年5月10日 二条城 大舘晴光―――――――――

「ええい、丹波はどうなっておる。朝廷もなぜ勅書を惟宗なんぞに。こちらには一切相談もなしではないか。その文句を言えばその前に内裏の修繕費を出せだの」

ぶつぶつと何かを言われながら大樹が上座で落ち着きなくうろうろされる。惟宗が丹波攻めを始めてから毎日のようにそうされている。惟宗に丹波を押さえられるのが気に食わないのだろう。

「大樹、落ち着かれませ。そろそろ和田殿より丹波攻めの様子が報告されます。その後の判断はそれから考えられればよろしいかと」

「分かっておる。惟政はまだか」

「もうそろそろかと」

本来ならばすでに和田殿はここにいるはずだったのだが何かあったらしく忙しそうにしていた。

「失礼します」

「やっと来たか、惟政」

「はっ。遅れてしまい申し訳ございませぬ」

「構わん。それより早く報告をせよ。丹波攻めで何かあったのであろう」

「はっ。丹後より丹波に攻め入っていた惟宗の別働隊が若狭に攻め入りました」

「なにっ」

惟政殿の報告に大樹が驚いたような声を出される。他の皆もあちらこちらでざわめきが起きている。惟政殿がここに来るのが遅れたのは若狭攻めの様子の報告をまとめていたからか。

「若狭に攻め入ったのは約2万の兵です。総大将は武田康繁、副将は吉弘康理」

康繁といえば大樹が挙兵する前までこの京にいたな。一度だけあったことがあるが戦で活躍するというより政で活躍するような人間だと見たが。

「しかし惟宗には若狭を攻める大義名分がないだろう。すぐに和睦を命じるぞ」

「それが惟宗が大義名分としているのは総大将の武田康繁です。若狭武田家はもとをたどれば安芸武田家。その生き残りである康繁を総大将とすることで若狭を正当な主のもとに返すと。朝廷も康繁を若狭守に叙官しました」

「ええい、また朝廷か。それで朝倉はどうしている」

「農繁期ですのであまり多くの兵を動かせないようです。しかし金ヶ崎城に5000の兵を集めています」

5000だけか。丹波攻めが終わった後は若狭を攻める兵は4万になるだろう。朝倉単独ではとても耐えられるとは思えない。

「朝倉は浅井・織田にも援軍を要請していますがなかなかうまくいっていないようです。織田は北畠が暴発するのを待っていますし浅井は惟宗が動かしていない残りの兵を気にして動けないようです」

織田は惟宗との和解をあきらめていないのか。ついこの間けんもほろろに追い返されたばかりではないか。

「それと浅井家中にはもう反惟宗の動きをやめた方がいいのではないかという意見もあります」

「なんだと。それは誰だ」

「浅井家当主、浅井長政殿にございます。父親の久政は朝倉・織田との協調をと言っていますが家中の意見は半々といったところです」

「ちっ。すぐに織田と浅井に惟宗討伐の密書を送る。朝倉の援護をさせるのだ。本願寺にも協力するよう伝えよ」

「はっ」


――――――――――――1571年6月30日 剛山―――――――――――

「お初にお目にかかります。赤井忠家にございまする」

「赤井忠家が家臣、荻野直正にございます」

そう言って二人の男が頭を下げる。荻野直正って丹波の赤鬼のことだよな。前世でのイメージでは赤井の当主だったと思うんだけど当主は甥の忠家らしい。ただ実質的な指導者は直正だとか。忠家に赤井をまとめるほどの才能はなかったということだろうか?


丹波征伐はうまくいっている。残りはいま囲んでいる八上城のみだ。敵の数は約2000。史実ではかなり抵抗したらしいから油断なく攻め落とさないとな。帝から勅書を賜ったのが良かったのかこちらの士気はかなり高く、寝返ろうとする波多野家臣が多い。少し無理を言ったがもらってよかったな。前久が妹の嫁ぎ先のために頑張ったらしい。赤井が加増されれば赤井からの援助が増えるからかもしれないけどな。

丹後経路で攻め入っていた2万の兵は若狭に攻め入らせた。今頃は若狭の大半を制圧しているだろう。朝倉は援軍を浅井に求めているがなかなか動かない。もしかしたら朝倉には滅んでもらってそのうえで越前を奪うつもりなのかもしれない。史実では信長が朝倉を滅ぼした後、加賀の一揆が越前を制圧したはず。加賀の一揆と協力すれば無理ではないかもな。


「よく参陣してくれた。面をあげよ」

「「はっ」」

俺に促されて2人が顔をあげる。あまり気の強そうでない顔立ちをしている。多聞衆からの報告でも何をするにしてもまず直正の意見を聞いてそれを取り入れているらしい。直正は忠家とまったく似ていない戦国大名らしい強面の男だ。何も知らない人にどちらが主かと聞いたら間違いなく直正の方を選ぶだろうな。

「この城を落とせば丹波征伐は終了だ。先の戦といい赤井にはよく働いてもらっている」

「もったいなきお言葉にございます」

「よって赤井は丹波一国を安堵とする」

「「はっ」」

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