表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/402

赤井直正

―――――――――1571年4月10日 黒井城 赤井直正――――――――――

「叔父上、惟宗から書状が届きましたぞ」

「左様ですか。して、その内容は」

「20日後に惟宗が摂津・丹後より攻め入る、赤井も同時に攻め入る準備をせよとのことです」

「おぉ、いよいよですな」

「はい。いよいよ赤井が丹波の主になるのですね」

そう言って甥の忠家が惟宗からの書状を渡す。惟宗は山城経路と丹後経路の二つから波多野らを攻めるつもりらしい。丹後経路の総大将は惟宗康正殿、副将は武田康繁殿と柚谷康広殿が、山城経路の総大将は御屋形様が、副将は戸次鑑連殿と平田成幸殿が務めるようだ。そして朝廷から朝敵宇津・波多野を討伐するべしとの勅書を賜ったうえで丹波に攻め入るらしい。いよいよ赤井が丹波の主となるのか。一時は丹波から追い出されたこともあったが大きくなったものだ。亡き父上と兄上も草葉の陰で喜んでいることだろう。いや、惟宗の手を借りる以上何かしら言ってくるかもしれん。例えば丹波一国ではなく1郡の加増だけだとか。その時は大樹を動かして再び反惟宗同盟を作りだそう。

「兵の数は丹波経路と山城経路を合わせると4万になります。いかに波多野とて勝てるものではないですな」

「そうですね叔父上。しかし言い方はあれですがたかが丹波一国を制圧するためだけにこれだけの兵を使うでしょうか」

それもそうだ。丹波を制圧するだけならばせいぜい1万か2万もいれば十分だ。我らが敵になる可能性を考えているということだろうか。いや、今更波多野らと手を組めないのは分かっているはずだ。わざわざ警戒するようなことではない。ではなぜだろうか。待てよ、丹波経路の副将には武田康繁がいるな。

「もしかすると惟宗の狙いは波多野らだけではないかもしれませんな」

「それは赤井もということですか」

「いや、おそらく我らは大丈夫でしょう。惟宗は日ノ本の統一を狙っています。このようなところで時間をかけたくないと思っているでしょう。最悪の場合でも加増は1郡だけといったところかと」

「では惟宗の狙いとは」

「若狭とその地を支配している朝倉でしょう」

「朝倉?しかし惟宗と朝倉は和睦をしたのでは」

甥が不思議そうに首を傾げる。最近はよく考えられるようになったと思っていたがまだ足りないな。特に素直すぎて狡猾さが足りない。これでは俺が死んだ後の赤井家が心配だな。

「惟宗が和睦をしたのはあくまで大樹だけ。朝倉が兵を退いたのは惟宗と和睦を結ぶためではなく大樹の命令だったからという体裁をとれば和睦を結んだことにはならないはず。実際、織田はそこに気が付いたのか惟宗のもとに頻繁に使者を送っていると聞きます」

「しかし大義名分がありませんよ」

「副将の武田康繁殿。たしか彼は安芸武田家の出身だったはずです。そして若狭を支配していたのは若狭武田氏。その若狭武田氏は安芸武田家に連なっていたはず。若狭武田家の家督を康繁殿に与えてそれを大義名分に攻め入ることはできます。あとは朝倉が抵抗したとして越前に攻め入って滅ぼせば終わりです」

「なんと、では今回の大軍は若狭攻めのための兵も含まれていると」

「いや、朝倉が攻められれば浅井が援軍に向かうでしょう。そうなれば近江に攻め入る名目も手に入れることができます。浅井が参戦すれば織田も動かざるをえなくなる。そうなればまとめ役として大樹を担ぎ出そうとするはず。反惟宗同盟の復活です。それも今回は惟宗が仕掛ける側になって。それが惟宗の狙いかと」

「反惟宗同盟の復活ですか・・・。しかし惟宗は先の戦でかなりの損害を被ったと思いますが」

「それもすぐに回復可能だったということでしょう。先の戦の最大勢力である本願寺はかつての勢いはすでにありません。ここで攻勢に出ようと思ったとしてもおかしくないかと」

九州はすでに戦が行われなくなって久しい。さぞ人も田畑も増えただろう。それによって多少の損害もすぐに回復できる。反惟宗派の大名にとってみれば悪夢も同然だろう。

「叔父上、赤井はいかがすればよいのでしょうか」

「どうすると言われてもこれまで通り惟宗についていけばよろしいかと。少なくとも惟宗と敵対するようなことになってはいけません」

織田であればまだ敵対してもよかった。織田には惟宗という巨大な敵がいたし朝倉とうまくいくわけがないと思っていた。朝倉とうまくいかなければ大樹が味方するのは朝倉だろう。あの人が望むのは各大名の力を拮抗させて大名同士の仲介役として将軍の権威を高めることだろう。だから大大名の存在を認めることはできない。たとえそれが惟宗を追い払ったものだとしても。そうなれば織田は反惟宗同盟の中から孤立することになる。だが惟宗は違う。あの反惟宗同盟ぐらいでは揺らぐこともなかった。おそらく反惟宗の勢力があれ以上になっても大丈夫だっただろう。一つずつ確実に潰していくはずだ。そしてもし赤井がその時に敵対していたら真っ先に潰されるだろう。惟宗とは敵対できない。

「分かりました。では赤井は惟宗に従うということでいいですね」

「それだけでは足らないでしょう。まず戦では必ず先鋒を願い出ます。そして子ができた時は小姓としていただくよう頼むのです」

「それは人質ということですな」

「そうなりますな。某の子もある程度の歳になれば送りましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ