筒井順慶
―――――――――――1570年9月30日 姫路城――――――――――――
「お初にお目にかかります。筒井順慶にございまする。この度は大和一国を安堵していただきまことにありがとうございまする」
「よく来たな。面をあげよ」
「ははっ」
俺に促されて順慶が顔をあげる。そこまでいかつい顔をしているわけではない。むしろ意思の弱そうな顔だが目だけはしっかりとしている。
顕如が俺が出した条件を全て認めて降伏したあと、本願寺を焼いて新しい居城を作り始めた。史実の大阪城と同じかそれ以上の城にしたいな。縄張りは黒田・島津・宇喜多・小早川に命じた。完成が楽しみだな。完成まではこの姫路城を新たな居城とすることにした。必然的に黒田は国替え。出雲で15万石だ。譜代がだいたい15万石から20万石だからなかなかの出世だな。他の将にも恩賞として領地を与えている。特に加増が多かったのは康胤だな。播磨・但馬で30万石に国替えだ。最初は10万石もないくらいだったから惟宗の中でも出世頭だろう。ちなみに親族衆筆頭の康正は和泉一国と阿波で5万石、舅殿は備後一国だ。
「しかし俺の支援があったとはいえよく松永と戦えたな。正直なところいつ大和で負けるかとハラハラしていた」
「我ら筒井の兵は精強にございますので。これからも必ずや御屋形様のために良い働きをしてご覧に入れましょう」
「楽しみだな。とはいえついこの間まで松永の領地だったところもある。しっかりと内政に精を出せ」
「ははっ」
まぁ、正直言って筒井が負けかけたところを惟宗の援軍が来て大和を制圧するというのが一番良かったんだけどな。大和は約45万石にもなる。織田にも近いし信用できるか分からない。筒井はもともと興福寺の有力信徒だから大和の寺社にも伝手を持っていたはず。せめて半国ぐらいが良かったけどな。仕方ない、もし敵対したら寺社ごと焼き払えばいい。敵対しなければ大和のうるさい寺社を抑えてくれるだろう。
「そういえば三好が畠山高政を攻めたのは知っているな」
「はい。万が一こちらに攻め込んでくるやもしれないと思い、迎え撃つ準備をしておりましたので」
「その戦で三好は高政を討ち取り河内を制圧した。それも知っているな」
「はい」
もう少し粘ると思っていたんだけどな。まさか一月も耐えられないとは思わなかった。いや、三好の方が戦がうまかっただけか。あんなに援軍をもらっておきながら紀伊を制圧できないような男だもんな。歴戦の三好に勝てるわけがないか。
「その戦で松永久秀も兵を率いて手柄をたてた。そのことで三好から使者がきた。松永に領地を与えてよいかとな」
「それは・・・」
順慶の顔が厳しくなる。順慶のとってはあまり愉快な話ではないからな。
「筒井が松永に攻められて苦しい状況になったのは知っている。しかし俺としては三好を味方に引き入れておきたい。それは分かるな」
「はい。しかし」
「筒井としてはあまりいい思いはしないだろう。家臣たちの中から反惟宗になるよう言ってくる輩も出てくるかもしれん」
「はい。ですので松永に領地をというのは」
「ところでお前は得度したと聞いているが間違いないか」
「えっ。はい。」
いきなり話が変わったことで順慶は少し困惑している。
「家臣の中には坊主に45万石も与えるのはどうかというものもいる。つい最近まで坊主と戦をしていたのだからな」
「それは大和一国安堵を取りやめにするという意味でしょうか」
「場合によってはな。還俗するか、松永に新たな領地が与えられるのを認めるか、大和一国をあきらめるか、惟宗と敵対するか。好きなのを選ぶといい」
「それはいま返事をした方がよろしいでしょうか」
「できればな」
さて、無理を言っているのは分かるがここで本当に信用できるかはっきりさせておこう。すぐに返事をするか、返事を先延ばしにするか。先延ばしにしたら信用できない。来年に予定している丹波征伐と同時に潰そう。
「・・・分かりました・松永の件、御屋形様の御意のままに」
「そうか。では三好の好きにするよう返事をしておこう」
「ははっ」
順慶は少し不満そうに頭を下げる。ここで不満を取り除いておかないとな。
「ところで順慶は嫁をどこからとるつもりだ」
「いえ、今のところはまだ。某はまだ早いかと」
「そうか、俺はもういいと思うがな。俺の娘はどうだ」
「は?」
「鶴というのだがそろそろ嫁ぎ先を考えねばならんと思っていたのだ。筒井ほどの大身ならば問題なかろう。筒井を信用できないと言っている者たちも黙るはずだ」
「いや、しかし」
「なんだ、不満だというのか」
確かにちょっとお転婆なところはあるかもしれないけど。気立てはいいと思うぞ。それに今のうちに惟宗の親戚になっておいた方が後々いいだろう。
「いえ、そのようなことは」
「では問題ないな。めでたい話だ」
多少強引だったかもしれないがよしとしよう。あとは息子たちの嫁を探さないとな。




