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和睦

―――――――――――1570年6月30日 尼崎城――――――――――――

「和睦、ですか」

「左様。受け入れてはもらえないだろうか」

俺の言葉に飛鳥井雅教殿が困ったような表情で返す。確かここに来たのは武家伝奏だからだったよな。雅教からしてみれば最悪のタイミングでの武家伝奏だっただろうな。俺と本願寺・義昭との和睦の仲介をしないといけないなんて。

「しかしここで和睦と言われましても」

「帝もあまり乗り気ではないのでおじゃるが織田がかなりの額の献金をしてくれての。それなのにその願いを無視をするというのは難しい。残念なことにいま京を支配しているのは大樹派の者たちだからの」

そうか、今年は義昭に利用されないように献金は見送っていたんだよな。それで去年までに比べて金に困っている朝廷を利用する手を考えたか。誰が考えたかな。やっぱり織田だろうか。史実でもよく朝廷を利用していた。それに伊勢の織田領に惟宗の兵15000が迫りつつある。紀伊も5000の兵と畠山が統一に向けて戦を続けている。和睦をするなら今しかないと思ったのだろうか。朝廷の窓口は二条だろう。朝廷としても献金は欲しいし戦が終わって惟宗の献金が再開された方がいい。

「位階も正四位下に昇叙する。来年には正四位上に、その一月後には従三位にと。官位は正四位上に昇叙するときに参議を従三位に昇叙するときに右近衛中将をと考えている」

「よろしいのですか」

「構いませんぞ。今回の戦の勝者は国康殿と朝廷は考えているということ。それに位階は大樹と同じになる。そのような昇叙を戦のあとにするということはどちらを重く見ているかは一目瞭然という訳です。ま、献金はしていただきますが」

今年献金がなかったのがよっぽど堪えたのかな。そこまでしてもらえるなら受けた方がいいだろう。

「大樹との和睦は条件次第では構いませんが。本願寺との和睦はまだ少し待っていただきたい」

「ふむ、別に本願寺が献金してきたわけではないからそれは問題ない」

多聞衆の報告では顕如が二条を使って和睦を考えていると聞いている。そしてそれに反対している者がいることも。このまま石山に立て籠もられたらどれほどの被害が出るか分からない以上、本願寺との決着をつける際は交渉の末にだろうと思っていたがまだその時ではない。出来るだけ抵抗する気を失せさせてからでないと。

「して大樹との和睦の条件はいかがする」

「そうですな。まずは織田・朝倉・浅井の兵が京から離れること、近衛様・一条様・山科殿の帰洛、大樹の謝罪、織田・朝倉・浅井の不可侵の約、京に惟宗の代官所を置くこと、北畠・織田の和睦を仲介すること、畠山尾州家当主は秋高であると正式に認めること、二度と惟宗討伐をほかの大名に命じないこと。とりあえずは以上です」

織田・朝倉・浅井の兵が京から離れれば本願寺攻略が一気に楽になる。今は3万で囲んで残りの1万は京の織田の備えとして置いている。和泉の4万も使えるようになる。本願寺は和睦ではなく降伏せざるをえなくなるだろうな。ここで厄介になるのは二条だが前久達が戻れば二条の勢いも衰えるだろう。

「とりあえずはというと」

「まだこれから何があるか分かりませんので。三好が降伏しようともしています。松永もじきにこちらに降るでしょう」

前世での久秀は極悪人みたいな扱いを受けていたがその評価は江戸時代の価値観のせいだ。実際は三好家の忠臣と言っていいだろう。領地も三好本家より大きくなったがまだ三好家の家臣だ。今回も戦わない三好家に代わって反惟宗派として戦っている。どちらが勝っても三好家が生き残るようにしたのだろうな。まぁ、三好家中での影響力を増やすという目的もあっただろうけど。三好には形で示せと言っておいたがどうするかな。和睦がなれば高政は幕府からも見放される。それを待って高政を攻めるかな。


代官所は康興に任せよう。京を追われるまでは京の治安維持を任せていたのだ。貞孝も付ければ問題ないな。伊勢一族を京に送るのは少し不安だからそこは本人たちと話し合って決めよう。

問題は北畠だな。あれは惟宗に降伏したという訳ではない。義昭がまた挙兵するときにそっちにつくかもしれない。名門だから扱いは面倒だろうな。


「大樹からは何か和睦の条件はありますか」

「もちろん。まずは惟宗は京に兵を置かないこと、高政の河内南半国領有を認めること、大和は松永の領地とすること。だそうだ」

「京には少なくとも5000は置かせていただきます。高政の河内南半国領有は構いません。ただしどこかから攻められたとしても我らは援軍を出すつもりはないとお伝えください。大和は認められません。大和の国主は筒井。松永は三好家預かりとしてもらいます」

「左様か。少し面倒な交渉になりそうですが何とかしましょう。弟が世話になっていますからな」

弟?あぁ、堯慧か。安芸では本願寺派で挙兵しなかった者たちを高田派になるよう口利きしたからな。

「しかし意外ですな。てっきり麿は大樹に征夷大将軍をやめろとか言われるかと思いましたが」

「いいのですよ。あれが何かをやらかすたびに征夷大将軍の権威は落ちていきます。その分某が天下を取った時に楽になるでしょう」

「そういうものでおじゃるか。ま、朝廷は基本的に親惟宗じゃ。楽しみにしていますぞ」

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