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義昭挙兵

――――――――1569年11月16日 二条邸 松浦康興―――――――――

「辰千代様。辰千代様」

「康興殿。いかがされた」

そう言って内基様が部屋から出てこられた。すぐに頭を下げようとしたが内基様が手でそれを制される。

「随分と急ぎのようですな」

「はい。大樹が反惟宗で挙兵しました」

「大樹が?二条城は惟宗が警備をしていたのではなかったのでは」

「気が付いたらもぬけの殻でした。今は槇島城にて兵を整えています」

「そうか」

そこまで動揺されていないな。予想されていたのだろうか。

「大弐殿はいかがされるつもりかな。あの大弐殿ならこの状況を読んでいそうだが」

「本願寺に手間取っている間に挙兵するだろうとは。どこが敵になるか分かりませぬが織田・朝倉・浅井が合流すれば敵の数は7万を超えましょう」

「畿内にいる惟宗の兵だけでは足りないですな。摂津の一揆もあるし赤井の援軍にもいかねばならん。三好・細川を潰したとはいえ厳しい状況には変わらない。それで和泉に退いて態勢を整えると。大弐殿も織田等が攻めてきたら無理をせずに和泉に退けと言われていましたな」

「はい。康正殿も同じような御判断をされました。辰千代様もこちらを離れますゆえお迎えに。内基様はいかがされますか。大樹が京に戻ってくれば内基様も追放されるやもしれませんぞ」

「ふむ、そうだな。大弐殿のもとに行くのも面白かろう。近衛殿も鷹狩などを楽しんでいるとか。しかし大弐殿の動向の情報が入ってきませんな。大弐殿が道を監視しているのかな」

よく分かられるな。さすがは摂関家の御当主といったところか。辰千代様も良きお父上を二人も持たれましたな。

「はい。御屋形様は現在播磨の平定を進めています。しかし情報を遮断しているのは惟宗だけでなく本願寺もです」

「ほう、坊主が」

「はい。はっきり言って安芸・播磨の一揆は失敗です。そのようなことが大樹の耳に入れば挙兵をやめかねない。そうなれば本願寺の挙兵は失敗。最悪の場合は浄土真宗本願寺派の滅亡になります。それを避けるためにも大樹や織田等の挙兵が必要なのです」

「身勝手よな。大樹も顕如も」

身勝手か。確かにそうだな。大樹は念願だった将軍になれたというのに自分の力で幕政を行えないからと反惟宗を掲げた。本願寺は南蛮の宗教や石山からの退去が気に食わずに挙兵した。大樹も少し我慢すればある程度自由にすることもできたかもしれない。本願寺も元の本拠地である山科に帰れたかもしれない。それなのに挙兵した。わがままだな。

「安心せよ。たとえ惟宗が京から離れても麿と近衛殿がいる限り朝廷がすぐに反惟宗になることはない。その間に惟宗の天下にしてくれれば問題なかろう」

「左様ですな」

辰千代様のためにも頑張らねばな。


――――――――1569年11月17日 遊佐信教 高屋城―――――――――

「ええい、弟は何であれほど弱腰になってしまったのだ」

そう言って高政様が乱暴に座られる。随分と苛立っておられるな。それもそうか。大樹が挙兵されて主力の一人として数えられていたであろう畠山の当主があのように弱気なことを言ったのだ。元畠山当主としても兄としても幕府の家臣としても苛立つであろう。


昨日、大樹が惟宗を幕府の敵として挙兵された。それと同時に織田・浅井・朝倉が近江で合流したうえで上洛する手はずになっている。実際に織田と浅井はほとんど準備が整った。そして惟宗を畿内から完全に排除するために我ら畠山家にも出兵命令が来た。使者には先代高政様。皆が河内の国人たちも同調している以上畠山も反惟宗で戦うことになると思っていた。それなのに秋高様は和泉にいる2万の兵と京にいる1万の兵、阿波・讃岐・淡路を制圧しつつある15000の兵と惟宗水軍を恐れて出兵に反対された。もし大樹の下に向かえば真っ先に攻められるのは四国に最も近い紀伊だ。そうなれば勝てるわけがない。確かに普段ならそうなるだろうが今の惟宗の最優先事項は一向一揆の制圧だ。すぐにはここに攻め入ることはない。なのにそれを恐れる。臆病な方だ。

「しかしどうしたものか。あれでもいちおうは畠山の当主。それに秋高の考えに賛同するものも少ないがいる。これでは義昭様に大軍を引き連れてくると言った儂の面目が立たん」

「ではもう一度畠山の御当主になられてはいかがてしょうか」

「なに?」

「たとえ説得に成功して秋高様が出陣されてもあれでは義昭様のお覚えもよろしくありますまい。このままでは畠山は頼りない。それより織田や朝倉・浅井を重用しようと考えられてもおかしくはありませんぞ」

「だからどうしたものかと考えておるのだ」

「ですから御当主の座に戻られるのです。高政様であれば義昭様も畠山を頼ろうと思われるはず」

「しかしそんなことを認めるか」

「秋高様は寺にでも出家させればよろしいのです。大切なのはいま畠山が一つに纏まることかと。ご安心くだされ。この信教に万事おまかせいただければ全て解決してご覧に入れます」

そして事が終われば義昭様のもとにいるであろう高政様に代わって私が河内・紀伊の実質的な主になるのだ。

「分かった。万事任せる」

「ははっ」

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