黒田官兵衛
――――――――1569年11月10日 天神山城 吉川元春――――――――
「撃てっ」
儂の号令とともに大量の鉄砲が放たれる。このような戦は毛利では出来んだろうな。この城にあるだけでもだいたい1000といったところか。それに三好攻めを行うはずだった別働隊が3000を持ってきていた。それも火薬付きだ。兵糧も十二分にある。鉄砲を使うのはあまり好きではないが負ける気がせんわ。
「次。構え。撃てっ」
再び鉄砲が放たれる。昇ってこようとしていた農民たちが一斉に倒れる。それにしてもまさか一向一揆と戦うことになろうとはな。毛利家は父上の影響もあって一向門徒だったものが多い。そのおかげで安芸の門徒と敵対することはなかった。もし敵対していては尼子討伐はおろか陶を討つことすらできなかっただろう。
「弓隊、構え。放てっ」
それにしても敵対して分かったが一向一揆がこれほど厄介だとは思わなかった。いくら死んでも次々と新手がやってくる。この城を囲んでいる数は5万に達するらしいがそれより厄介なのは死を恐れないところか。
「出来るだけ指揮をしている坊主や武士を狙え。将さえいなければ一揆勢など烏合の衆ぞ。弓隊・鉄砲隊、構え。放てっ」
出来るだけ敵に聞こえるように大声で指示をする。農民は死を恐れないかもしれないが坊主や武士はそういう訳にはいかんだろう。ここで指揮をしている坊主は俗物だ。死を恐れないほど徳の高い坊主ならばそもそも争いで決着を付けようとは思わないだろう。武士は所詮は浪人。ここである程度武功をあげてそれを土産にどこかの大名に仕官したいはず。どちらもここで死にたいとは思っていないはずだ。坊主や武士を狙えと言えば逃げるために撤退を指示するやもしれん。
「殿っ。敵が昇ってきたました」
「石を投げよ。それから油をまけ。そこに火矢を放て。槍隊、援護に回れ。そろそろ御屋形様が援軍に来る。それまで持ちこたえるのだ」
しかし来るだろうか。この劣勢の中、宇喜多が何もしてこないというのが不安だ。御屋形様も信用していないのか今回の三好攻めにも宇喜多を参加させなかった。別働隊を率いてきた時忠殿の話では今回の事態をある程度予想されていたらしい。それで宇喜多を参加させていないということは信用していないのだろう。戦の最中に謀反を起こされるよりは本願寺と同時に挙兵しろということだ。しかし未だ宇喜多が動く気配はない。どうする、宇喜多直家。
「殿っ。一揆勢が乱れ始めました。後方には隅立て四つ目結の旗が。援軍です」
「数はっ」
「数千といったところです。しかし次々と増えています。おそらくまだ先鋒です。隅立て四つ目結の中に違い鷹の羽もあります。先鋒は阿蘇です」
「よし、我らも城から出て一揆勢を潰すぞ。時忠殿にもお伝えせよ」
――――――――――1569年11月15日 京見山――――――――――――
「申し訳ございません。某がいながら御着の殿があのような真似を」
そう言って官兵衛が頭を下げる。その御着の殿に姫路城を攻められていたのではなかったのか。
「面をあげよ。それでは話ができん」
「はっ」
「それで小寺と一向一揆はすでに撤退したのだな」
俺が援軍として播磨に入るまで小寺・一向一揆たちは官兵衛が籠城している姫路城を攻めていた。その数は約5000。俺が援軍として連れてきたのは3万だ。本当は天神山城にいた兵も含めて4万以上になるはずだったのだが備前を通った時に宇喜多に出兵を求めたら直家の病気と領内の一向一揆のせいで兵を出すことができないと言われた。信用できないな。もし播磨の一揆勢と宇喜多で挟撃をする作戦だったら困る。念のために備中に5000、天神山城に8000の抑えを置いておいた。少し厳しい戦になるかもしれないが武器は鉄砲から大砲を大量に持ってきた。火薬も博多や坊津の商人たちから買い占めてある。大火力を使って一気に制圧する。
「孝隆。姓を小寺から黒田に戻せ。そしてこれからは俺に仕えよ」
「もう一度、御着の殿を説得させていただけないでしょうか。必ずや開城させて見せまする」
「やめておけ。殺されるだけだ」
「なれど」
「孝隆。お前にはこのようなところで犬死してほしくないのだ。お前は小寺などのもとで力が発揮される器ではない。もっと大きな場所で力を発揮されるべきだ。それに御着城には一揆勢が入っているのだろう。そのような状況で降伏するなどできん。仮に今更降られてもはっきり言って小寺の事を信用することはできない」
「・・・分かりました。非才の身ではございますが存分にお使いくだされ」
「頼りにしているぞ」
官兵衛がいればこれから先はだいぶ楽になるだろう。対宇喜多のために島津四兄弟や康理を備前や備中に置いてきたからな。名将を犬死させるような余裕はないんだ。しっかりこき使ってやる。




