表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/402

細川藤孝

―――――――――1569年11月1日 二条城 細川藤孝―――――――――

「挙兵だ。本願寺が立った。波多野・一色も既に挙兵の準備をすませている。山名も惟宗との戦を始めた。今こそ惟宗討伐の好機」

「大樹の言う通りにございます。すぐに挙兵いたしましょうぞ」

「そうだ」

大樹の御言葉に皆が口々に賛成する。まずいぞ。このままでは本当に挙兵をしかねない。

「お待ちください。まだ情報が集まっておりません。今すぐの挙兵は待たれた方がよろしいですぞ」

「何を言うか、藤孝。安芸では広島城を一向一揆が乗っ取った。播磨は本願寺や反惟宗の国人たちが兵をあげた。山名は尼子の残党を使って惟宗との戦を始めた。一色・波多野は惟宗派の赤井と戦を始めようとしている。これ以上待ってはおれん」

「大樹のおっしゃる通りだぞ。兵は拙速を尊ぶという。今こそ挙兵の時であろう」

大樹も兄上もほかの家臣たちも周りが見えていないのか。

「大樹も兄上も御考え直し下され。京には惟宗の兵が1万もいるのですぞ。それどころかこの城の周りには城の警備という名目で惟宗の兵が5000もいます。そのなか挙兵してもすぐに失敗して京を追われるだけです」

「我が兄義輝も京から追われても反三好の行動をやめなかった。我らもそれも見習うべきであろう」

「あの時とは状況が違います。惟宗は本願寺に攻められているとはいえ上洛戦の時は10万近くの兵を動かしたのですぞ。すぐに総力を挙げて本願寺などを潰してこの京に大軍を引き連れてやってくるでしょう。それに惟宗は阿波を制圧したとか。阿波公方様を新たな将軍にすることも可能なのですぞ。それに誰が惟宗を倒して大樹を京に戻すのですか。惟宗に勝てる大名がこの日ノ本にいますか。いたとしてその大名は大樹の命令を聞きますか」

「余は征夷大将軍ぞ。誰が余の命を軽んじようとするか」

本当に征夷大将軍であるというだけで誰もが命令を聞くのであれば惟宗も聞いているはずでしょう。少しは現実を見てくだされ。

「だいたいこの反惟宗の動きは大樹とは無関係という形にするのではなかったのではないですか」

「織田が上洛する条件が余の挙兵だ。勝つためには多少の危険はやむを得なかろう」

「貞孝殿は。貞孝殿は何と言われているのですか」

あの人ならば反対するはずだ。それで大樹が挙兵を取りやめるとは思えないがないよりはましであろう。

「あれはすでに排除する手筈を整えた。我らが挙兵すると同時に伊勢一族を滅ぼす。あのような惟宗に尻尾を振る犬など必要ないわ」

「なんと」

挙兵の事と言い伊勢一族の事と言い、聞いていないことが多すぎる。まさか私の事も疑われているのか?

「大樹。どうか、どうか御考え直しを」

「くどいぞ。これは決めたことだ。織田と北畠の和睦交渉が終われば織田が朝倉・浅井とともに上洛することにもなっている。それと同時に挙兵だ」

そう言って大樹が下がられる。他の家臣たちも自分の部屋に戻っていくようだ。その者たちの大半はこちらを疑うような目をしている。我が兄もだ。まずい、このままでは幕府での居場所もないまま惟宗には幕府とともに惟宗に反抗してきたと思われかねない。どうしたものか。


自室に戻りどうするか考えていたがなかなかいい案が思いつかない。最善なのは大樹の挙兵を止めることだ。だがあの様子ではとてもではないが無理だろう。次善は惟宗に勝つことだがこれは大樹を説得するより難しいだろう。今はうまくいっていたとしても惟宗には九州という基盤がある。農民に軍役を負わせていない分、農民の数が増えて開墾もはかどっていると聞く。博多や坊津といった交易で栄えている湊も多い。何より惟宗にしか作れていないものが多くある。石鹸などは今や生活に欠かせないものになりつつある。それが途絶えては再び疫病がはやり国がやせ細ることになるかもしれん。どうしたものか。


「失礼します。政所執事様より書状をお預かりいたしました」

「貞孝殿から?すぐに入れ」

「はっ」

一礼して男が入ってくる。見慣れない顔だな。貞孝殿の配下だろうか。

「こちらが書状にございます」

そう言って懐から書状を取り出してこちらに差し出す。すぐに広げて目を通す。

「な、何だこれは。これは貞孝殿からの書状ではなかったのか」

書状の内容は寝返りを勧めてくるものだった。最後には国家安康の印章が入っている。これは惟宗からの書状ではないか。

「まさかお前は」

「それはご想像にお任せいたします。それとその書状は確かに貞孝様からの書状にございます。御屋形様から貞孝様に渡され、そののちに藤孝様に渡されたのです」

直接では大樹の疑いの目が向くと考えたのだろう。だが貞孝殿からでも十分怪しまれると思うが。

「表向きは三条西様からの書状を貞孝様経由で渡されたということにしています。ですがこの話は三条西様もご賛同いただいています」

「三条西様がか」

おそらく惟宗と敵対すれば私の命はないと思われたのだろう。そうなれば今受けている古今伝授が無駄になってしまう。場合によっては途絶えてしまう可能性すらあるだろう。それを避けたかったか。そこを惟宗がついて説得に使おうと思ったか。しかし三条西様までもが幕府は惟宗に負けると思っておられるのか。場合によってはそれは朝廷の意志と考えてもいいだろう。このことを大樹にお知らせするか?いや、それだと私がどういう目に遭うか分かったものではない。それに私自身この話をなくすのが惜しいと思っている。

「もちろんすぐにとは申しません。大樹が挙兵する前に返事をいただければ」

「お前は主が幕府に弓引くのをどうとも思わんのか」

急な質問だったからか男はきょとんとした表情をするがすぐに無表情に戻った。

「御屋形様がそれが最善だと判断されたのでしたらそれに従うまでです」

「そうか」

「それに御屋形様の最終目標は日ノ本の統一。幕府との敵対など想定内です」

「なっ」

日ノ本の統一だと。そんなことまで考えていたのか。果たしてそんなことを考えている大名がほかにいるのだろうか。

「では某はここで失礼させていただきます」

「待て、九州探題殿にお伝えしてもらいたい」

「はっ」

「この細川藤孝、以後の主を惟宗国康様とさせていただきたいと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ