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誤算

――――――――1569年10月20日 石山本願寺 顕如―――――――――

「ふふふ、国康めは今頃慌てているだろうな」

「左様にございますな。このようなことができるのは日ノ本広しといえども顕如様ぐらいでしょう」

儂の言葉に鈴木重秀が相槌を打つ。そうであろう、広島城を乗っ取り播磨を我らの一揆で埋め尽くした。摂津は国人たちのほとんどが本願寺に味方すると言っている。

「雑賀衆も味方になった。安芸・播磨が混乱すれば備前の宇喜多も動き出そう。実際にそうすると書状が届いた」

「雑賀衆を送り込めればすぐに終わったのでしょうが。あのあたりには今回の三好攻めの一環で惟宗の水軍が多くいますので送り込めません。ですがそのうち撤収するでしょうからいずれは雑賀衆を送り込めましょう」

「そうだな。そこまですれば宇喜多や毛利が動き出すだろう。宇喜多は播磨や備中の惟宗領が欲しいだろうし、毛利も今は安芸の一部だけだがかつては山陰・山陽に覇を唱えた大大名。今の地位に甘んじようとは思っておるまい」

「そうでしょうな。そして山陰でてこずっていると知れば織田・朝倉・畠山・三好といった大名たちが一斉に反惟宗で団結するでしょう。大樹も反惟宗の立場をしっかりと示されるはずです」

そうだ、大樹は惟宗討伐を各地の大名に頼んでいるがうまくいっていない。それは大樹が明確に反惟宗であると言っていないからだろう。大樹は本当に反惟宗なのか、本当は惟宗が自分たちの敵を明確にするために大樹と共謀して惟宗討伐を呼びかけているのではないか。そう考えている者もいるだろう。義輝公の時は明確に反三好の立場だったが義昭公は違う。それも影響しておろう。

「大樹が惟宗討伐を求めれば多くの大名・国人が応じよう。各地の門徒たちも動き出すはずだ。そうなればもう勝ったも同然よ」

「あまり敵を侮られるな。相手は細川などとは違うのですぞ。九州では本願寺派の勢力は大きくないとはいえ少なくない数の門徒がいます。しかし顕如様の呼び掛けには応じなかった。それだけでなく高田派などの敵対している勢力に付くものさえいます。それだけ惟宗が善政を行っていた証拠です。油断なされぬよう」

「分かっておる。だがさすがの国康でもここからの逆転は難しかろう」

「だといいのですが。それに雑賀としましては瀬戸内と堺を惟宗に握られているのは少し厄介です。火薬が手に入りにくくなりますゆえ」

確かに火薬がなければ鉄砲を多く持つ雑賀衆も役に立たなくなる。これはすぐに何とかせねば。

「そうか。では堺の商人たちに協力するよう頼もう。惟宗の代官が来てから自由にできていないはずだからすぐに味方になってくれよう。そのあとは畠山や三好、いや細川だったか。細川の船を使って瀬戸内から惟宗を追い払う」

「それがよろしいかと。この石山はそう簡単に落とせる場所ではありません。火薬と兵糧さえあれば何年でも耐えることができるでしょう」

「頼もしいの。ま、そもそもここに攻撃を仕掛けるような余裕があればの話だが」


「失礼します。安芸の頼照様、播磨の頼廉様、四国の門徒より書状が届きました」

「おぉ、そうか」

「顕如様、某から読んでも」

「構わんぞ。内容はだいたい分かっておる」

書状を重秀が受け取って手早く広げる。さて、うまくいったという報告かな。

「な、なんだと」

「いかがした」

重秀の顔色が随分と悪くなった。何かあったのか。

「四国にいる惟宗ですが細川攻めを続行するようです」

「ほう、まさかそのまま続けるとは」

いまは四国にいる15000の兵も惜しいだろうに。ま、細川は前から敵対していたこともあったからどうでもいいか。

「それだけではなかろう」

「国康が九州の兵を率いて安芸と播磨の平定に向かったそうです。数は4万」

「なかなか多いな。だが足りるかな。安芸の広島城は難攻不落と聞いているし播磨の一揆は5万だ」

「それが安芸ですが重大な欠陥を抱えた城だったようで。とても住めるような場所ではないと。それに兵糧もほとんどなく」

「なにっ」

「小早川隆景と平田成幸と2万の兵を広島城包囲に置いて残りの2万と備後・備中の兵を入れた兵で播磨制圧に向かうようです。天神山城の兵を加えれば4万近くになるかと。それに惟宗の水軍が淡路を制圧しました。海を使って石山に兵糧を運び入れることができません」

「な、何だと」

まずいぞ。播磨は時間がかかろうがいずれは制圧されるだろう。安芸もいずれは終わるはずだ。そうなると次はここか。すぐに大樹を使って各地の挙兵を促さねば。

「重秀、この情報を出来るだけ大樹の耳に入らないようにせよ。その上で反惟宗の立場を表明して頂き、各地の大名を上洛させてくれ。朝倉・波多野・一色・織田・浅井を使えば京を制圧できるはずだ。惟宗の兵を分散させよ」

「でしたら北畠と織田の和睦の仲立ちをされてはいかがでしょう。織田の足元を固めてやるのです。長島を使えば容易なはず」

「そ、そうだな。すぐに長島の証意に頼もう」

「某はすぐに紀伊の門徒をこちらに向けるよう説得します」

「頼むぞ」

なんとしてでも惟宗の兵を分散させねば負ける。急がねば。九条の縁を使って急いでもらおう。大樹がこちらに付けば惟宗が幕府の敵となり今までより多くの反惟宗派が出てくるはずだ。

「ここは親鸞様の教えを受け継ぐ場所だ。負けるわけにはいかんのだ」

「もちろんです。必ずや勝ちましょうぞ」

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