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本願寺挙兵

―――――――――1569年9月20日 勝瑞館 惟宗貞康―――――――――

「お初にお目にかかります。寒川元隣にございます」

「惟宗国康が嫡男、貞康だ。面をあげよ」

「はっ」

そう言って元隣が頭をあげる。少しがっかりしているようにも見えるな。父上でなかったことが残念だったか。


9月の初めに俺が率いる15000が阿波に攻め入った。阿波は半分近くを制圧していたからかそこまで苦労せずに制圧できた。讃岐には河野が、淡路には惟宗水軍と1万の兵が播磨から攻め入る手筈になっている。三好は讃岐で徹底抗戦をするつもりだったようで主要な家臣は讃岐に移っていた。だが抵抗に移る前に三好の主筋である細川真之が反三好で挙兵。讃岐の国人たちの多くが細川の挙兵に同調して三好長治・三好三人衆ら三好の主要人物を討ち取り三好に味方している国人たちを攻めて讃岐を統一してしまった。初めての総大将での出陣だというのに細川に横取りされるとは。情けない。副将として出陣した御爺も落胆しているだろうな。

とりあえず父上に書状を送ってどうするべきかを確認している。細川は管領にもなった名門。大樹がどう反応されるか分からない以上これ以上は父上の指示がない限り動けない。そう思っていたところに元隣がやってきた。寒川は三好に同調して細川に攻められたはずだが。


「して、三好に同調したとして細川に攻められた寒川が何用かな」

俺のすぐそばに座っていた御爺が厳しい表情で尋ねる。傅役たちや出陣した国人たちも表情は厳しい。

「はっ。すでにご存じかと思われますが某の居城である虎丸城や弟が守る昼寝城などを細川派である安富盛定に奪われました。しかしそれは盛定の策謀にございます」

「盛定の?」

「はい。安富氏は東讃岐守護代の家ですが東讃岐には安富以上の領地を持つ国人たちが寒川を含め多くいます。そのため安富は周囲の国人から分譲された土地をいくつか持っていました。その一部に寒川の領地もあったこともあり抗争が絶えませんでした。そして今回の細川蜂起の際に安富が仕掛けてきたのです。もともとは寒川も細川派として挙兵するはずでしたが先に安富が細川に近づき我らが三好派であると嘘を吹き込みました。そして細川家の命令という形で長年争ってきた我らを攻め滅ぼしたのです」

「そうだったか。大変だったな。それで我らのもとに来たということはその領地を奪い返してほしいということかな」

「はい。あのような無法を放置するような細川など信用できませぬ。九州探題様は国人たちに優しいと聞いています。何卒よろしくお願いいたします」

「分かった。期待に添えるか分からんが最善は尽くす。疲れておろう。休んでまいれ」

「はっ。御心遣い痛み入れます」

そう言って元隣は一礼して下がる。攻める名目はできた。これは細川攻めだな。


「も、申し上げますっ」

「騒がしいぞ。いかがした」

かなり慌てて伝令が入ってきた。あれは俺の配下の世鬼衆の者だな。御爺が怪訝そうな顔で尋ねる。俺も不思議だ。伝令が慌てるようなことを細川にできるとは思えない。いったい何があったのだろうか。

「本願寺が挙兵。摂津・播磨・安芸で一向一揆がおきています。播磨の一揆勢は和気郡に攻め入り天神山城が数万の一揆勢に囲まれています。安芸では広島城が1万ほどの一揆勢に乗っ取られました。摂津・播磨の国人たちは本願寺の動きに同調しています。また織田・一色・波多野・山名・松永・朝倉・浅井に挙兵の動きありとのことです。それと尼子の残党が月山富田城を攻めています」

「なに!?」

これはかなりまずいのではないのか。ここで織田たちが挙兵の動きありということは反惟宗ということに違いない。

「宇喜多は寝返っていないのか。宇喜多は播磨と安芸の間で最も力のある。あれが裏切れば」

「そのような報告はまだ来ておりませぬ」

「毛利は何をしている。それから吉川は」

「毛利は家中の一向門徒たちを抑えるので手一杯です。吉川は惟宗の兵たちとともに天神山城に籠城しています」

吉川がいるならばそう簡単に負けることはないだろう。父上が宇喜多と播磨の国人たちのにらみを利かせるために吉川を和気郡に移したのだ。兵もある程度は充実している。

「若様、いかがしますか。このままでは石見の益田なども敵につくかもしれませぬぞ。そうなれば惟宗の財源の一つである石見銀山が奪われてしまう可能性が」

康広が心配そうにこちらを見ている。

「失礼いたします」

そう言ってまた人が入ってきた。今度は頼久!?頼久は父上のもとにいたはずだ。

「頼久!なぜここに」

「御屋形様より書状を預かって参りました。内容があれですので某が」

「本願寺や織田たちの挙兵の話は聞いている。我らは戻るのか」

状況を考えれば撤退が妥当だろう。山陰を押さえられては京に向かうことができなくなる。それは虎千代や康正叔父上・康興・康繁を危険にさらすことになる。

「いえ、御屋形様はそのまま細川討伐を続けよとのことです」

「いいのか。安芸や播磨はかなり大変なことになっていると聞いているが」

「問題ありません。天神山城には別働隊の1万の兵がいます。御屋形様が救援に駆け付けるまで持ちこたえることはできるでしょう。広島城の乗っ取りは御屋形様の想定内です」

「しかし難攻不落の城にしたと聞いているぞ。確かに今回は落とされたがそれは城の兵が1000人ほどしかいなかったからだろう」

「問題ございませぬ。確かに本来の縄張りでしたら難攻不落と言っても差し支えなかったでしょうが少し縄張りを変えておりますので。あの城で1万の兵が籠城することは不可能です。まずあの城は2000人ほどしか生活できません」

「は?」

2000人だけ?父上はいずれあの城に居城を移す予定だったはずだが。

「広島城は乗っ取られてすぐに毛利・防長の惟宗の兵1万に囲まれています。城には兵糧も偽物を用意しておいたのですぐに飢え地獄になるでしょう。それと御屋形様が4万の兵を揃えつつあります。あと10日もすれば出陣できるかと。織田たちですがまずは足元を固めるのが優先とのことですので攻めてきたら一度は京から去りますが和泉にて迎え撃つとのことです。その後、落ち着いてから上洛戦の時と同じ規模で上洛するとの事です」

「そ、そうか」

まさか父上はそこまで読んでいたなんて。俺は三好をどう討伐するかしか考えていなかったのに父上はその間にどの大名や寺社がどう動くかまで考えてそれに備えている。とても追いつけない。

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