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反惟宗連合3

―――――――――1569年7月15日 若江城 三好義継―――――――――

「そうか、これが大樹の望まれることか」

大舘殿が渡した書状を読んで思わず溜息が出る。しかしこれは仕方ないだろう。惟宗を討伐するために兵をあげようか。


「左様。義継殿は大樹の手助けをすることと大樹の妹君を娶られることで義輝公を見殺しにしたことを許されたのです。当然、御味方していただけますな」

義輝公のことか。やはり何をするにしてもそのことが足枷になってしまうな。だがここで大樹を見捨てれば三好義継は保身のために大恩ある大樹を見捨てたと言われてはこれまでほぼなかった信用が完全になくなる。ここは従うしかないな。だが何とか説得して惟宗と敵対しないようにできないだろうか。


「もちろんだ、大舘殿。だが本当に惟宗を討伐することが大樹のためになるのか」

「もちろんです。惟宗は幕政を己が望むがままに操ろうとする奸臣にございます。ならばそれを討伐するのが幕府の忠臣のなすべきことでしょう」

「しかし某が言うのもなんだが義輝公のようになってしまうのではないか。確か京には1万の兵がいたはず。和泉には2万の兵が」

義輝公を殺した時は1万ほどだった。惟宗が丹波征伐と言って京に兵を集めだしたら警戒した方がいいだろう。


「大丈夫にございます。表向きは大樹は関係ないという体裁をとります。そしてこれが大樹の主導で行われたとばれた場合は先代・先々代の例に倣い朽木に落ち延びる予定です。あそこならそう簡単に攻め入ることはできないでしょう」

「反惟宗の兵をあげるのはほかにどこが」

「いまのところは本願寺・別所・三木・赤松・波多野・山名・阿波三好・宇津・朝倉・一色ですな。他にも織田・浅井・北畠・畠山・小寺・宇喜多・赤井とは交渉中です」

「左様ですか。少し皆と話したいのだが」

「分かりました。某はこれにて失礼させていただきます。よい返事を期待していますぞ」

そう言って大舘殿は一礼して下がった。あれは確かに幕府の忠臣なのだろうが大樹の命令に従うだけだからな。少し不安が残る。少なくとも国康殿相手に渡り合えるような奴ではない。


「殿、いかがしますか。この松永久秀、殿の御命令とあらば惟宗と敵対することも厭いませぬぞ」

「だがどちらかといえば」

「敵対したくありませぬな。負けますので」

久秀の言葉にほかの家臣たちもうなずく。やはり皆、大舘殿が言っていることには無理があると思っているのだろう。


まず今のままでは旗頭になる大大名がいない。一番大きくても本願寺だが惟宗が警戒していないはずがない。おそらくある程度は対策を立てているはずだ。それに朝倉は長年一向一揆と戦ってきた。そう簡単に信用しようという気にはならないだろう。山名も信仰しているのは浄土真宗ではなく臨済宗。積極的に本願寺を助ける理由はない。山名が参戦したのはおおかた惟宗の兵を分散させて自分のところに攻め入る時間を稼ぐためだろう。だが無意味だろうな。2万も兵が向かえばすぐに内から崩れて滅びる。旗頭になるならば畠山がいるが当主の秋高は意気地なしで1・2万の兵が近づいて来たらすぐに降伏するだろう。阿波三好もだめだ。すでに嘗ての勢いはない。もちろん我らにも。


だいたい大樹は表向き関係ないという立場にあるのがまずい。士気に関わるし、信用も落ちる。戦の時に敵の前に立てずしてなにが武家の棟梁、征夷大将軍だと言われるだろう。そうなれば大樹の影響力が格段に下がる。


「もし、もしもだが大樹が勝つとしたらどのような条件が必要だ」

「それは交渉中だと言っていた大名たちの参戦が必須でしょう。それと上杉・武田が和睦を守ってともに反惟宗につくのが条件かと」

「つまり無理か」

あの武田がそう大人しくしているとは思えん。今は徳川とともに今川攻めをしているがそれが終わればどうなるか。武田の基本方針は弱いところから奪う。次は徳川であろうな。そうなると徳川は織田か上杉と手を組んで武田に当たらねばならなくなる。織田としても今川ならばともかく武田が三河をとるのは不安だろうし、上杉にとっても抱えている信濃衆を戻すために戦をせねばならん。いずれは対武田に動かねばならなくなる。惟宗どころではないな。武田を中心に北陸・東海道で大きな戦が起こる。


「だが我らは動かないなどということはできまい。何らかの行動を示さねば惟宗の前に我らだ」

例えば畠山を焚きつけて河内の我らの領地に攻め入らせる、筒井を動かして大和を混乱させるぐらいのことはするはずだ。

「ではこういうのはいかがでしょうか。反惟宗にはこの松永久秀が戦に出ます。義継様はこの城におられてくだされ。それで惟宗が勝てば某を見捨てて御家を存続させられよ。大樹が勝たれましたら真っ先に挨拶に出向き久秀の行動は全て義継様の御命令だと言われませ。そうすればどちらにも角が立つことはありません」

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