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本願寺

―――――――――――1568年11月30日 久留米城―――――――――――

「失礼いたします」

そう言って頼久が入ってきた。

「来たか。今日は少し遅かったな」

「申し訳ございませぬ。こちらに来る前に妻の陣痛が始まりまして。産婆等を呼んでいましたら遅れてしまいました」

「おぉ、そういえばそろそろだったな。であれば仕方ない。子は国の宝だ。ではすぐに終わらせた方が良いな」

「いえ、いつも通りでいいです。どうせ近くにいてもできることはございませんので」

「だが子供にはすぐに会いたいだろう」

「それはそうですが・・・まだ生まれるまで時間はあるでしょう」

それもそうか。政千代が貞康を出産するときはいちおう近くにいたが部屋の前でうろうろしていただけで何もできなかったもんな。むしろ邪魔だよみたいに産婆に見られていたような気がする。そういえば頼久の嫁は誰だったかな。確か・・・そうだ、茂通の娘だ。茂通は財政の責任者のようなものだから各地から情報を集める多聞衆と情報を交換して惟宗が損しないようにしていたはずだ。その時に見初めたとか言っていた気がする。あとで茂通に知らせておかないとな。初孫はなかなかうれしいものだろう。あの舅殿でも孫に会いに来るときはいろいろ手土産を持ってきた。特に鶴には随分と手土産を持ってきて政千代にやんわりと怒られていたな。茂通もそうなるのかな。


そういえばそろそろ鶴の嫁ぎ先を決めないとな。どこがいいかな。敵国・仮想敵国に近いところか有力家臣か遠くの大名か。他の大名だった場合は家の大きさから言って織田・上杉・武田・北条あたりがいいだろう。だけど織田の場合は信長に嫁ぐのはおかしいし信忠はすでに武田の松姫と婚約している。その武田の勝頼には信長の養女が嫁いでいる。上杉はまだ後継者指名をしていないから景勝に嫁がせてもという感じだし北条はちょうどいい男子がいない。播磨・安芸等の有力家臣に嫁がせるのは本願寺の事もあって不安だ。あそこは本願寺の拠点の一つである英賀があるし安芸にも本願寺の別院がある。うーん、難しいな。あとは有力家臣だが適当な年齢の者はいたかな。そうだ、確か康胤が前妻が死んで今は独り身のはずだ。あぁ、でも30過ぎだしな。それに石井の娘と再婚話が出ていたはず。家久が確か20過ぎでちょうどいいが四男だしな。あとは・・・康広の息子が来年ぐらいに元服だったよな。そいつにするかな。でも器量がどれくらいか分からないし。いまは小姓だが度胸があって口がうまいだけで普通としか言いようがない。それなのに当主の娘を嫁になんてなると調子に乗るかもしれない。よし、後回しにしよう。


「では報告を聞くか。まずは三好から頼む」

「はっ。三好ですが義継と敵対したため名目上の当主は三好実休の嫡男である長治になりましたが実際は三好三人衆と篠原長房の合議によって決まっているようです」

三好三人衆は全員逃がしてしまったからな。厄介なことにならなければいいけど。

「ですが長治はそれにかなりの不満を持っているようです。また三人衆と長房の間でも主導権争いが起きているようであまりまとまりがありません。そして細川真之が讃岐の国人たちとしきりに連絡を取っています。場合によっては我らが攻めるのと同時に挙兵して讃岐支配を認めさせるつもりなのかもしれません」

「面倒だな。三人衆たちは気付いていないのか」

「いちおう気付いているようですが主家筋というのと今の三好では抑えがきかないので何もできていない状況です」

三好の力が大きいころだったらさっさと潰せただろうが今は惟宗という大大名を敵に抱えている。付け入る隙を作らせたくないのだろうか。適当なタイミングで真之を殺すのかもしれないな。

「それと本願寺から使者が来たようですがあまりうまく話がまとまらなかったようです」

あれ?意外だな。史実では反信長同盟陣営として一緒に戦っていたのに。

「長治が本願寺に対してあまりよく思っていないところがあるようです。一部の領民には強制的に法華宗に改宗させているとか。ただ三人衆と長房はかなり乗り気だったのでいずれは手を結ぶかと」

「そうか。引き続き監視を続けよ。それから真之が挙兵する時期を見極めよ」

「はっ」

「次は本願寺を頼む」

「はい。本願寺は各地の信者や大名と連絡を取っています。また来年の6月ぐらいに下間頼照や頼廉を播磨・安芸に派遣するようです。名目上はキリスト教に対抗するためとなっていますが実際は一揆をおこさせようとしているようです」

安芸・播磨で一揆か。史実での安芸では毛利に浄土真宗を信じている者が多かったこともあって一揆は起きなかった。播磨は三木城で飢え殺しにされた。この歴史ではどうなるかな。史実とは違って反惟宗派の中心になるだろう織田は無神論者。うまく連携できないだろうな。

「一揆は起きそうか」

「それが安芸の方は微妙でして。キリスト教を認める惟宗を討てと顕如が書状を送ったようですが安芸の浄土真宗の中心である仏護寺で意見が割れているようです」

あれ?どうした、戦国一の嫌われ者集団。

「どうやら噂がうまく流れているようです。それに年貢が減って暮らしも楽になり、むしろ怒らせて以前のような苦しい生活に戻りたくないとか。それにキリスト教のことは盛円殿がうまく処理したのと全く布教がうまくいかずに宣教師たちが事実上の撤退をしたことで全く脅威になっていないようです」

宣教師たち撤退したんだ。やっぱり無茶だったな。これで諦めてくれればいいけど。

「播磨はどうだ」

「播磨は多くの国人たちが残っているのと惟宗の支配下に入ってまだ間もないため反乱を起こそうとする可能性が高いです。本願寺は山名にも使者を出しているのでそこで連携をすればと考えてもおかしくはないかと」

さっさと上洛したかったから最小限の戦しかしていなかったからな。惟宗は見た目ほど強くないと思われているかもしれない。

「織田には使者を出していないのか」

「申し訳ございませぬ。まだなんとも言えません」

「そうか、引き続き本願寺の悪評を流してくれ」

「はっ」

これで敵対勢力が減ればいいけど。安芸で一向一揆が起きた時に備えて何か策を考えておくか。そうだ、史実の広島城に当たる場所に作っている城を使うか。ほぼ完成しているけど少し改造させよう。播磨は一回反乱を起こさせてまとめて潰した方がいいだろう。よし、そうしよう。

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