壱岐制圧の頃
今回は短めです
――――――1538年 那古野城 織田信秀――――――
「信秀殿、体調の方は如何かな」
わしが寝ているところにこの城の主今川氏豊が入ってきた。今に見ておれ。すぐに儂の城にしてくれるわ。
「これは氏豊様、わざわざ見舞いに来ていただき、ゴホッゴホッ」
「無理をするでない。まだそなたの病は治っておらんのだ。そのままで良い」
起き上がろうとしたわしを氏豊が止めた。
「しかしせっかくの連歌でしたのに某のせいで」
「よいよい。それより何か望むものはないか」
「家臣を。勝幡の家臣を呼んで構いませんでしょうか」
「家臣を?」
流石に怪しんでいるか。氏豊は今年で18になったばかり。騙せると思ったのだが。
「はい。某はもうすぐであの世へ行くことになるでしょう。家臣たちに遺言を残しておきたいのです」
「何を弱気な。それほど悪いのならば医者を呼んだ方が良かろう。誰か、誰かおらんか」
医者を呼ぶだと。冗談じゃない、医者を呼んでしまっては儂の仮病がバレてしまうではないか!
「いえ、腹に膈が出来ていたのです。不治の病ですので医者を呼んでもあまり意味はございません。それより家臣を」
「分かった。すぐに勝幡城に使いを出そう」
「忝うございます」
危なかったな。だがこれでこの城は儂のものよ。
「殿、お呼びでございますか」
「すぐに勝幡城に使いを出せ。信秀殿が倒れたゆえ見舞いに来るようにと」
「はっ」
「おのれ、信秀め。はかりよったな」
「お主が連歌ばかりやっておるからよ。これも戦国の世の習いだ。連れて行け」
「はっ」
兵たちが氏豊を連れて行く。氏豊は抵抗しているようだがすぐに取り押さえられた。
「殿、上手くいきましたな」
「そうだな、政秀。しかしこれから今川との戦が始まる。すぐに備えねばならん」
「しかし氏豊は生かしたままで良かったのですか?殺しておいた方が楽に終えることが出来ましたのに」
「奴の妻は斯波義達様のご息女だ。そのようなお方に頼まれては生かしておくしかあるまい。いま斯波家と拗れるのは面倒だ」
「そのようなことをお考えでしたか。某はてっきり綺麗な女子に頼まれたからかと思っておりました」
「そのようなわけがなかろう」
まったく、自分の主人をなんだと思っているのだ。・・・まぁ綺麗ではあったが。
「それよりこの城は誰に任せたものか」
「殿が入られるのでは?」
「いや、熱田を抑えるためにもう少し南に城を築こうと思っておる。じゃから儂は入らん」
「では、信広様はいかがで」
「彼奴は氏豊より若い。城を任せるには些か早い気がする。かといって他の家臣に任せれば余計な妬みを買う恐れがある。どうしたものか・・・」
「悩ましいですな」
ふん、他人事と思いよって。そうじゃ。
「吉法師に任せるか」
「殿!」
政秀が驚いた顔をしている。少しスカッとしたわ。
「吉法師は織田の嫡男、余計な反感を受けずにすむ。其方や秀貞がおれば今川にも遅れはとらんじゃろう」
「しかし・・・」
「いずれ吉法師は儂の跡を継がねばならん。今のうちにいろいろ学んでいた方がよかろう」
「御方様にはなんと」
「花屋は勘十郎に夢中だから反対はするまい。吉法師と比べると大人しいからかかなり可愛がっておったわ」
「左様でございますか」
「吉法師は最近どうじゃ」
どうも最近は戦ばかりで吉法師の話はろくに聞けていない。
「なかなかてこずっております。障子は破る、すぐに城の外へ逃げようとする、乳母が止めようとすると暴れるなど日常茶飯事です。すぐに癇癪を起こし皆を困らせています」
「はははっ、元気がいいのは良いことではないか。節度なんぞこれから覚えていけばよい」
「とても覚えそうにございませんが」
「それは其方の仕事であろう」
「はっ」
那古野城乗っ取りは1532年説と1538年説があるそうです。この話では1538年説を使います




