上洛戦4
―――――――――――1568年9月1日 池田城―――――――――――――
「は?義栄様がなくなっただと」
頼久の報告を聞いて思わず聞き返してしまった。しかしおかしいな。義栄の死んだ時期についてはいろんな説があったが少なくとも信長が上洛するまでは死んでいなかったはずだが。
播磨を制圧すると摂津の国人たちは一部を除いて惟宗に付いた。有名どころでは茨木氏・伊丹氏かな。残念ながら池田勝正は史実通り抵抗をしてきた。三好三人衆たちは義栄がいる堺の方に逃げたらしい。とりあえず勝正が籠るこの池田城を潰してほかに抵抗を続けていた国人衆たちも潰した。いまは芥川山城など三好が支配していた城を攻めているところだ。三好三人衆たちはもう城を捨てたからそこまで抵抗はされないだろう。いまのところ上洛戦に問題はない。ここで問題が出てくるとすれば本願寺が挙兵した時ぐらいだろうが今のところはそのような動きはない。そんなところで義栄の死だ。
「間違いないのか」
「はっ。多聞衆・世鬼衆の両方が確認しました」
「そうか、病がひどいと聞いていたがそれほどだったのか」
「いえ、表向きは病死ですがおそらく三好三人衆が殺したものと思われます」
「なに?」
なんでまた三好三人衆がそんなことを。義栄を殺したら三好には戦をする理由がなくなるだろうに。理由がなければ余計に味方が減る可能性があるのになんでまた。
「義栄の死を確認した三人衆はすぐに四国に逃げる準備を始めたようです。おそらくこれ以上戦えないと判断して四国に撤退・和睦をしようとして義栄様が邪魔になったのでしょう。ちょうど義栄様は病を患っていましたので病死に見せかけるのは容易だったと思われます」
「そうか、では三人衆は四国に逃げるのか」
「おそらくは。鑑連殿の四国制圧は進んでいるようなので四国を優先したいのでしょう」
舅殿の阿波・讃岐攻めはうまくいっているらしい。三好郡・美馬郡・阿波郡を制圧したようだ。三好郡といえば三好氏が生まれた場所だな。道理で三人衆が義栄を殺してまで阿波に帰ろうとするはずだ。
「織田殿はどうしている」
「義昭様がごねたため本当は攻める予定ではなかった六角攻めのため28日ごろに出陣したようです」
「そうか」
史実通りの戦いになれば明後日ぐらいには決着がついているかな。よし、これで上洛戦は終わりだろう。問題はこれからだな。
―――――――――1568年9月10日 立政寺 細川藤孝―――――――――
「そうか、織田は六角を叩き惟宗は三好を四国に追いやったか」
「はっ。九州探題殿はすでに京に入って義昭様を迎える準備をしているようです。義昭様が京に入ってすぐに将軍宣下を行えるようにしておくと」
「そうかそうか。征夷大将軍の職は兄上が亡くなられてから随分と空位であった。そしてその前はほかの有力大名のせいで将軍の親政はできなかった。余は兄上が成しえなかった将軍の親政を行って見せようぞ」
そう言って義昭様が軽やかに笑われる。しかし将軍の親政か。果たしてできるのだろうか。
惟宗は三好より力が大きい。それに陪臣だった三好とは違って元から守護家、つまり直臣だった。そのせいでほかの家臣たちは惟宗を疎ましく思うことがあっても蔑むことはできない。そのことがどう影響するか。
それに九州探題殿は天下が安定するなら義昭様でも義栄様でもどちらでもいいと言っていた。九州探題殿は義昭様にしろ義栄様にしろ、自分が実権を握って天下を安定させるつもりなのではないだろうか。そうなれば義昭様と九州探題殿は敵対することになるだろう。それは天下の安定にはならない。征夷大将軍の職を埋めることが天下の安定にならないと分かった九州探題殿はどう動くか。分からない、分からないが幕府のためにはならないだろう。どうなることやら。
「そうだ、国康には副将軍の座を与えよう。それから桐紋を授けねば」
「左様ですな。織田殿には相伴衆にするのはいかがでしょう。織田殿も喜んで受け取られるでしょう」
義昭様の御言葉に大舘藤安殿が同調する。しかし相伴衆か。おおかた侍所などの重職を取られないように、かと言って機嫌が損なわれないようにといったところか。自分の力で上洛を果たすわけではないのだから少しは謙虚になってほしいものだが。
「九州探題殿の兵の中には一色など丹波・丹後の者もいるようです」
「そうか、その者たちにも報いてやらねばな」
「左様でございますな」
一色を優遇するのは名門だからであろう。せめてこういうところを直していけばいいのだが。
「それと九州探題殿からの書状には京の治安を安定させるために伊勢一族を送ってほしいと書いてありましたが」
なぜ伊勢一族だけなのだろうか。京の治安維持のためならば義昭様とともに我らが上洛してからの方が速いと思うのだが。
「そうだったか。貞孝、よいな」
「はっ、京の治安維持は伊勢一族が代々受け継いできたことにございますので」
「期待しているぞ。それと早く余を京に迎え入れるよう伝えておけ」
「はっ」
そう言って貞孝殿が頭を下げられる。この方もあまり信用できないと思うのだが・・・
「それと織田殿からの書状にまだ日野城に六角の重臣である蒲生が籠城しているようですが今は降伏するよう説得をしているようです。それが終わり次第ここを出て京にと」
「なに?降伏など認めてはならん。日野城はすぐに攻め落とすよう伝えよ」
義昭様は先程のご機嫌そうだったが急に不機嫌になられて仰られる。
「しかし蒲生は」
「絶対に認めるな。そう伝えよ」




