上洛戦2
―――――――――――1568年8月15日 置塩城――――――――――――
「お初にお目にかかります。小寺政職が家臣、小寺孝隆にございます」
「惟宗国康だ。面をあげよ」
「はっ」
そう言って顔をあげる。小寺孝隆といえばのちの黒田官兵衛じゃないか。いやぁ、こんなふうに歴史上の有名人と会えるのは楽しいな。直家は会いたくなかったけど。他にも本多正信を勧誘しているからこれからも楽しめそうだな。
備前を制圧した後は播磨の浦上領を制圧した。天神山城が落ちるころには国人たちから恭順の使者が訪ねてきた。主だったところは赤松義祐・三木通秋・小寺政職だ。義祐は分家の赤松政秀と敵対していたが浦上が政秀派に回ったことでかなり苦境になっていたから前々から援助をと言ってきていた。小寺は義祐に従っているから今回も同じ動きをしたようだ。そして三木は小寺と縁を結んでいるからそれに従ったらしい。
東播磨の有力者である別所はまだ来ていない。確か別所は赤松政秀に味方していたな。この城に入る前に政秀方の城を落としたが政秀は別所を頼ったらしい。家を存続させるには政秀の頸をとって俺に持ってくればいいのに義理立てしているのかな。ま、その場合は潰せばいいか。そういえば東播磨には下冷泉家がいるからできれば味方にしてほしいって言継殿が言っていたな。確か冷泉家の家格は羽林家だったはず。羽林家でも下向しないと食っていけないのか。世知辛いね。
「孝隆は確かこの間久留米城を訪ねてきた職隆の嫡男であったな」
「はい。家督の方はまだ継いでいませんが父からは上洛戦が終わったら家督を譲ると言われています」
「そうか。孝隆のことは噂で聞いている。なかなか優秀だそうではないか」
「恐れ多いお言葉にございます」
「そう謙遜するな。政職とともに俺を助けてくれよ」
「ははっ。必ずやお力になって見せまする」
「うむ、期待しているぞ。それで政職はいつ頃来るのかな」
今回は孝隆の配下300しか来ていない。赤松はこの城だし三木はすでにこちらに向かっていると報告を受けている。だが小寺はまだ御着城を出ていない。もしかして孝隆だけでいいと思っているのかな。いちおう当主が来るようにと伝えておいたはずなんだけど。
「ただいま出兵の準備をしておりますので。某より多くの兵を動かされるので時間がかかるのです」
「そうか、では楽しみにしておこうかな」
どうせ俺と戦うのは嫌だけど三好と戦うのも嫌だから出来るだけ時間をかけているんだろう。今はあれだが三好家は大きな家だ。俺が確実に勝てるという保証はない以上あまり敵対したくないのだろう。この後は仮病を使って出陣を取りやめかな。いや、確か嫡男が病弱だと聞いたことがある。そっちに家督を譲って病弱を理由に出陣しないとか。どっちにしろ、出陣しなかったら信用できんな。なんとかして小寺と孝隆を引き離したいな。
―――――――――1568年8月20日 三木城 別所安治――――――――――
「殿、早く惟宗に恭順すると使者を送るべきです」
「いや、ここはあくまで対等であるべき。恭順などもってのほか」
「兄上は現実が見えていないのです。惟宗は赤松・三木・小寺を味方につけたのですぞ。すでに兵の数は9万に達しているでしょう。我らはどんなに苦労して集めても1万には達しません。ここは恭順して父上が広げた別所の領地を守るべきです」
弟の吉親と重宗が言い争う。ここ5日ほど同じような議論を繰り返しているが結論はなかなかでないでいる。しかし惟宗に付くか三好に付くか。惟宗に付いたとしても恭順か対等か。別所は東播磨八郡を支配下に置いているが惟宗と敵対して勝てるかどうか。
「惟宗が我らの領地をそのまま認めるとは思えん。それに上洛して義昭様を征夷大将軍にすると言っているが義昭様は美濃の織田を頼っているではないか。本当に征夷大将軍にする気があるのか」
「惟宗は将軍家の忠臣です。おそらく織田殿と協力して義昭様を征夷大将軍にするつもりなのでしょう。領地もあの宇喜多ですら認められたのです。余計なことをしない限り認められるでしょう」
確かに悪名高い宇喜多でも認められた。おそらく誰であろうとも敵対しない限り領地を認められるのだろう。しかし敵対すれば一切容赦はしない。それが武家の名門である大友でも摂関家の血を継ぐ土佐一条でも、もとは主家である少弐でも名門赤松の血を継ぐ別所でも。そうやって惟宗は大きくなってきた。
「殿はどうお考えですか」
吉親がこちらを見るとほかの者たちもこちらを見る。
「儂は・・・少なくとも惟宗と敵対することはできんと思っとる。9万の敵を相手に勝てるとは思えんし、惟宗の調略の手が伸びて八郡の中から寝返ろうとする者が出てくるやかもしれん。そのような状況で戦をする決断をするわけにはいかん」
「では」
「重宗、すぐに兵を集めて置塩城へ向かえ。惟宗に恭順するぞ」
「「ははっ」」
重宗は嬉しそうに、吉親はしぶしぶ頭を下げる。なんとしてでも父から受け継いだ領地を守るにはこれが最善であったはずだ。あとで吉親に不満が溜まらないようにしておかねばな。




