上洛戦1
――――――――――1568年8月1日 亀山城 宇喜多忠家―――――――――
「兄上、門司城に多くの兵が集まっているようです」
外を眺めている兄に報告をする。横に控えている戸川正利・岡家利・長船貞親が少し顔をこわばらせるが兄上の表情に変化はない。
「そうか。数は」
「約8万といったところでしょうか。すでに安芸・伯耆・美作には約35000の兵がいます」
「確か伊予・土佐に2万の兵がいたな。これが惟宗の全力か。武器・兵糧の準備も大変そうだな。火薬はかなりの量が必要になるからな」
「兄上。そのようなことを気にしている場合ではありませんぞ。惟宗がどういう進路をとるか分かりませぬが小寺が連絡を取っていたようですので備前・播磨を通る可能性がありますぞ。そうなれば真っ先に攻撃されるのは我ら宇喜多です」
さすがの兄上でも8万以上の兵に囲まれては勝てないだろう。このままでは浦上の時間稼ぎのために使い捨てられかねない。
「また暗殺でもするか」
「殿、それは難しいかと。尼子が攻めてきた時に同じ手を使っているので惟宗も警戒しているはずです」
兄上が呟くと家利がすぐに反応した。
「ふむ、惟宗が攻めてくるときは調略が来ると思っていたのだがな。どうやら嫌われたらしいな」
「そのようですな、殿」
「さて、どうしたものかの」
「城に籠って降伏を請いましょうか」
「認めてもらえるかな」
「さてどうでしょうな」
兄上とほかの三人がニヤニヤしながら話している。何をのんきな。
「さて、冗談はこの辺りにしておこう。忠家、すぐに籠城の準備を」
「惟宗と戦をするおつもりですか」
「どうも惟宗は浦上が義栄派だと認識しているらしい。領内でそのような噂が流れている」
「惟宗のいつもの手ですな。しかしだからと言って敵対する必要はないのでは。大義は惟宗にありますぞ」
「ふん、大義などどちらが勝ったかでしかないと思うがの。ま、殺せば問題ないな」
「兄上、先程無理だと言ったばかりではないですか」
ここで暗殺しようとして失敗したら宇喜多は徹底的に滅ぼされるだろう。
「なに、心配するな。殺すのは国康様ではない」
「国康様ではない?ではどなたを」
「惟宗と敵対することになった原因である宗景様だ」
―――――――――――1568年8月10日 天神山城―――――――――――
「お初にお目にかかりまする。宇喜多直家にございます」
そう言って目の前の男が頭を下げる。目の前には首桶があって格好は甲冑姿ではなく白装束だった。何だろう、伊達政宗も似たようなことをやっていたはずだけど信用できない。
「惟宗国康だ。面をあげよ」
「ははっ」
「して、その首桶には誰の頸が入っているのかな」
「浦上宗景の頸にございます。お確かめください」
そう言って直家が首桶を前に出す。中に武器が入っているなんてことはないよな。小姓が駆け寄って開けると武器ではなくちゃんと頸が入っていた。
「隆景、間違いないか」
確か浦上は一時期毛利についていたはずだ。たぶん顔見知りだろう。小姓が頸を隆景のもとへ運ぶと隆景は一瞥してこちらを向く。
「間違いございませぬ。確かに浦上宗景の頸にございます」
「そうか、御苦労」
報告では聞いていたけど本当に自分の主君の頸を取ってくるとはな。俺が出陣するころに天神山城にいた宗景を訪れて少ない手勢だけで天神山城を落としたらしい。まず宗景を毒殺して今後の対応を決めるために重臣たちが集まったところを手勢を率いてまとめて殺した。怖いなぁ。せめて俺に知らせてからにしてほしかったな。いや、それだと俺が宗景に告げ口する可能性があるからしないか。自分が捨てられる可能性を出来るだけ排除するなら一番妥当な判断か。
「それで直家。この頸を手柄に降伏をということでいいのか」
「ははっ。何卒惟宗家の末席にでもお加えくだされ」
何が末席だ。領地の大きさで言ったら上から数えた方がはやいだろうが。さて、どうするかな。ここで拒否するとほかの国人たちが降伏しにくくなるんだよな。信長より先に上洛したいから出来るだけ時間はかけたくない。播磨では小寺や赤松義祐がすでにこちらに付くと言ってきているがほかの国人たちがどう動くか分からない。仕方ない、認めるか。
「分かった。宇喜多は本領安堵とする。ただし我らとともに上洛するよう」
「ははっ。ありがとうございまする。我ら宇喜多を存分にお使いくだされ」
上洛が終わったら譜代の誰かを宇喜多の近くに国替えさせようかな。いや、性格的に宇喜多を毛嫌いしていそうな元春を移そうかな。元春だったら宇喜多が変な動きをした時にすぐ知らせてくれるだろうし、俺が動くまで宇喜多を抑えてくれそうだ。
「ではさっそく働いてもらおうかな。いまだ惟宗に敵対している浦上家臣の城を攻める。宇喜多のものには道案内をしてもらうぞ」
「ははっ」
信用はしないけどな。せいぜい徹底的にこき使って息子の方を惟宗に染めるか。確か史実でも秀吉は似たようなことをしていた気がする。




