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上洛戦へ

―――――――――1568年7月1日 久留米城 松浦康興――――――――――

「殿、お急ぎくだされ」

部屋で身支度をしていると安経が入ってきて急かすように言ってきた。

「分かっている。しかしそう急がなくてもよいではないか。別に戦ではないそうだし」

「何を言われますか!戦でもないのに小国人すら集められているのですぞ。よほど大事なことが話されるに違いありません」

「しかし俺はいちおう兵站衆だがそんな話は聞いていないぞ」

「御屋形様は仕事の邪魔にならないように自分の用事を後回しにされることがあると聞いています。おそらく旧尼子領というあまり惟宗がよく思われていないであろうところであまりよく思われない検地の準備をされていたこともあってご遠慮されたのかと」

ほかの重臣方はここ10日ほど忙しく動いていたらしいが俺はつい4日前まで旧尼子領にいた。こちらに戻ってもその報告をまとめねばならなかったこともあって今日は何のために集められるのかは聞いていない。いったい何があるのだろうか。

「何があるにしろ、事前に御屋形様から話がなかったことを不満に思ってはいけませぬぞ。亡き父より殿を惟宗で一二を争う重臣にするよう言われているのです。なのに不満に思って仕事を外されるようなことになっては困ります」

「お前は本当に父親に似たな。安昌も先代のためにもしっかり仕事して出世してくれとばかり言っていた」

「それが殿のため、松浦家のためと思っておりますので」

確かに俺が出世することが松浦家のためだろうが・・・

「失礼します」

「いかがした」

小姓が入ってきて安経が尋ねる。そろそろ集められるのだろうか。

「御屋形様よりすぐに来るようにとの事です」

御屋形様が?まさかこんなくだらない会話をしていたせいで遅れてしまったのか?

「ほら、だから早くといったのです。さぁ、すぐに準備をしてください」

「それと書状を渡されたのですが」

「それは私が預かろう。殿は早く御屋形様のもとへ」



「御屋形様、康興です」

「来たか。入れ」

「はっ」

部屋の中から御屋形様の声がして促されたので部屋に入って一礼する。どうやら小姓たちはいないようだ。おそらくどこかで多聞衆が警備をしているだろうがどこにいるかは分からない。

「お呼びと伺いましたが」

「あぁ、今日の事でな。他の評定衆たちには事前に伝えておいたがお前にはまだだったからな。それより出雲・美作・伯耆はどうだった」

「問題なく進んでいます。検地の方は来年の2月には全て終わるでしょう」

「そうか、それは良かった。安芸や肥後の時は反抗的な者がいたからな。少し心配していたがやはり康興に任せておいてよかったな」

そう言って御屋形様が満足そうに頷かれる。

「勿体ないお言葉にございます」

「これからも頼むぞ。それで話だがな。いつものように兵糧の準備をしてほしい」

「かしこまりました。因幡・但馬攻めですか」

因幡・但馬は親尼子派だった勢力や山名などがいる。それを潰しておこうという御考えだろう。だとすると兵の数は多くても4万か。

「いや違う。上洛戦だ」

「おぉ、いよいよですか」

以前から御屋形様が上洛して三好を京から追い払うという話はあった。おそらく毛利を降す前でも上洛して三好を追い払うことはできただろう。だが御屋形様は慎重に時期を計っていた。三好長逸が使者に来た時に会わずに追い返されたからそろそろ上洛だろうと康胤殿や康繁殿と話していたがついにか。

「では今日集められたのは」

「あぁ、すでに兵法衆が上洛戦の計画を立てている」

「しかし一向衆はいかがしますか」

あれのせいで御屋形様の上洛が遅れたのだ。それをどうにかしたということだろうか。

「一向衆は義昭様が仲立ちで一揆をおこさないよう約を取り付けた。宣教師たちを抑えたことも効いたらしい。康興にはほかの兵站衆とともに武器・兵糧の準備を頼む」

「はっ。してその数は」

「まず四国の三好領に攻め込む別働隊2万。舅殿と河野・西園寺に任せる予定だ。それと備前・播磨・摂津を通って京に入る本隊8万。但馬・因幡の反惟宗派を抑えるため美作・伯耆に置く留守隊が計2万。相談役に任せるつもりだ。安芸の一向衆に備える留守隊が15000。こちらも相談役に任せる」

「それほどですか!」

ほぼ惟宗の全兵力ではないか。御屋形様は上洛戦がそれほど難しいものになると御考えなのだろうか。

「念のためだ。それに三好を追い払うだけでなく天下を取りに行くのだ。それほどの兵力はあった方がいいだろう」

「義昭様の上洛は御屋形様が上洛された後で」

「あぁ。いまは織田殿を頼るため尾張に移動しようとしているが朝倉が止めているらしい。まぁ、今月中には織田領に入るだろう。その後六角を潰したうえで上洛される予定だ。もしかしたら六角は織田に降るかもしれんが義昭様が認められるかどうか。征夷大将軍になるものの器量が試されるな。潰して武威を示すか、帰参を許して度量を見せるか。ま、結果は見えているか」

そう言って御屋形様が笑われる。しかし結果が見えている?

「御屋形様はどちらと思われますか」

「織田殿が許す限り帰参を許すのではないか。足利の将軍は大大名の存在を認めないのだ。惟宗を潰すには味方は多い方がいい。それに大大名は惟宗だけでなく織田もだからな。ま、そのことはあとでいい。武器・兵糧についてだが8月に出陣する。準備を頼むぞ」

「はっ」

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