切支丹
――――――――――1567年12月15日 久留米城―――――――――――
「御屋形様、盛円殿が参られました」
自室で手紙を書いていると千寿丸、いや元服したから康理か。康理が声をかけてきた。
「盛円が?分かった、通せ」
「はっ」
しかし今日は何かあったかな。盛円には今のところすぐに報告しないといけないようなことは頼んでいなかったはずだし・・・。
「失礼いたします」
「うむ、今日はいかがした」
「安芸の事でご相談が」
安芸の事?そっちの事は康正に任せていたんだけどな。
「御屋形様は安芸で一向衆の勢力が大きいことはご存知ですか」
「ああ。元就がこっちにいるからな。ある程度は話に聞いている」
なんだか尼子攻めが終わってから妙に協力的なんだよな。宿敵の尼子を滅ぼすことができたからだろうか。
「その一向衆がどうかしたか。俺の事をあまり快く思っていないと聞いているが」
「はい。それだけならよかったのですが」
いや、それだけって程の事ではないと思うんだが。
「安芸が惟宗の領地になったことで宣教師たちが安芸に入って布教を始めたのです。それも一向衆の事をかなり悪くいっているようで」
なにしてくれてんだよ、宣教師。惟宗の目が届きにくいところで布教したいのかな。九州ではあまり強硬な手段は使えないからな。史実ではキリシタン大名が何人かいたから楽だっただろうが俺が宗教に対して厳しくしていると思われているらしく、強引な布教は行えない。京での布教もあまりうまくいっていないしここらで九州以外にも拠点をと考えてもおかしくはない。それに一向衆は彼らにとっては神の敵だろう。出来るだけ勢力を削いでおこうと思っているのかな。一向衆の事を知っている者としては馬鹿だとしか思えないけど。
「そのことで不満が溜まっているということか」
「はい。いまは年貢が低くなったことなどで農民たちは乗り気ではないようですがいつ一揆になってもおかしくはないかと」
「そこまでひどいのか」
「特に僧侶が。強硬派の者たちをほかの者たちが何とか抑えている状態です」
「安芸で布教をしている者の名は分かるか」
「責任者はガスパル・ヴィレラとロレンソ了斎だったかと。ロレンソ了斎のほうはかなり反対したようですがガスパルが推し進めたようで最終的にはトーレスが認めました」
ロレンソにはもう少し頑張ってほしかったな。もし一揆がおきたらキリスト教の布教を考え直さないといけなくなるぞ。
「そうか、とりあえず俺からトーレスたちに注意をしておいた方がいいだろう。それから一向衆の僧侶にも」
「布教は認められるおつもりですか」
「まぁ、一度目だからな。注意ぐらいでいいだろう。それに安芸での布教の難しさを教えれば手を引くだろうしな。僧侶たちにはある程度の寄進をして黙らせる」
信仰を許してほしかったらほかの信仰を許すぐらいの広い心を持ってほしいんだけどな。宣教師はほかの宗教に対してかなり厳しいし一向衆は我が強い。天下を取るときには何とかしないとな。
――――――――1568年1月30日 天神山城 浦上宗景―――――――――
「小寺が惟宗に使者を出しただと」
「はい。職隆が向かったとのことです」
儂の言葉に延原景能は返事をした。まずいな。
「例の件が惟宗や小寺に伝わっているということか」
「可能性は高いかと。やはり政秀に鞍替えするのはやめておいた方がよろしいのでは」
「いや、西に惟宗がいる以上東に領地を広げるしかない。そのうえで一番楽なのは政秀を利用して別所・小寺・三木を潰したうえで政秀・義祐を潰すのだと思うのだが」
まずは政秀に味方するという口実で赤松以外の勢力を滅ぼす。その後赤松も滅ぼして備前・播磨の大名になる。これが今回の作戦であった。幸いにも政秀が義秋様に取り入っているようだしなんとかなるはずだ。
「それは惟宗を相手にするよりはましでしょうが・・・義秋様が関わっているとはいえきちんと惟宗には話を付けておいた方がよろしいかと思いますぞ。惟宗が上洛するのであれば備前・播磨を通る可能性が高いですから播磨の混乱は望んでいないはずです」
「分かっておる。景能、行ってくれるか」
「惟宗にですか。だとしたら宇喜多の方がよろしいのではないでしょうか」
「いや、あれは信用できん。奴の性根もそうだが惟宗の調略が入っていないとは思えん。あれを使うのは危険だ。景能もそう思うだろ」
「そうですが・・・ではすぐに準備いたしましょう」
そう言って景能が下がる。しかし惟宗といい宇喜多といい、面倒なことだ。惟宗は浦上を一気に攻め滅ぼすことなど簡単だろう。宇喜多も裏切れば播磨に手を出すことはできない。どちらにも気を遣わねばならん。不愉快なことだ。何とかして惟宗が我らに遠慮するほどの大きな勢力にならねば。播磨だけでは厳しいだろうが、まだ惟宗の手が伸びていない因幡・但馬も攻め取れば約100万石になる。それで何とか対抗できるだろう。あとは義秋様を連れて上洛した誰かを後ろ盾に少しずつ惟宗の領地を攻め取る。何とかなるはずだ。そのためにも今回の事は失敗するわけにはいかん。




