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壱岐制圧4

――――――――――1538年8月23日 生池城周辺―――――――――――

「うまくやれておりますでしょうか」

爺が生池城を心配そうに眺める。

「無理だろうな。あのような条件を認めることができる者はほぼいないだろう。主家からは疎まれ、下のものには自分が助かりたいがために和睦を結んだ腰抜けと蔑まれ他の家のものには舐められる」

「ではなぜあのような条件に?」

「今敵が恐れていることは我らが強引に城を落とそうとすることだ。兵の数は五倍近くあるからな、とても勝てるとは思えない。だから曖昧な返事をして時間を稼ごうとするはず。時間を稼げていると思えばそのうち油断するであろう。そこを突く」

しかしうまくいくかな。なにせ条件が酷い。怒ってより抵抗が強くなるかもしれない。


軍議を始める前に対馬の親父から手紙が来た。弟が生まれたそうだ。史実の俺は先々代の息子を養子にして家督を譲った。弟がいたならば養子を取らずに弟に継がせたはず。おそらく俺が史実より早く家督を継いだから親父に暇が出来たことが原因だろう。名前は熊次郎というらしい。

まぁ先々代が死んだ以上その子供を養子になんて出来ないから好都合だ。少なくとも一門衆として俺だけでなく俺の子供も支えることができるくらいには優秀であればいいな。


半刻ほど経ったころに小姓が康広が戻って来たことを伝えに来たのですぐに皆を集めて会うことにした。

「それで首尾はいかがであった」

「やはり弟君の養子入りは到底認められないとのことです。またそれ以外の事も波多城にいる波多下野守の子息の指示を仰がなければならないと返事はできないとのことです」

「時間稼ぎだな」

「某もそう思います。しかし家臣が勝手に和睦を結ぶわけにはいかないとの一点張りで」

「そうか、誰か波多下野守の子息とはどのような男か知っているか」

周りを見渡すが皆お互いの顔を見るだけだ。

「頼氏はどうだ」

「最近初陣をすませたばかりの若者で悪いうわさはありませんがよい噂も聞きません。おそらく父親より劣るかと」

「そうなると和睦をするか決めるのにも時間がかかるな。できればここで時間を取りたくない。よし、今夜奇襲で生池城を落とすぞ」

「「「はっ」」」


――――――――――――同日 丑の刻 生池城 日高資―――――――――――

割り振られた部屋で横になっていたが眠れない。どうも昼間の件が頭から離れない。

宗からの使者は法外な要求をしてきた。養子の件は人質という意味もあっただろうが皆にとっては波多を乗っ取ろうとしているとしか思えなかっただろう。その場はすぐに罵詈雑言の嵐となりとてもではないが交渉を続けることができるような状態ではなかった。

本郷殿に皆を抑えてもらったが宗からの使者には家臣が勝手に和睦を結ぶにはいかないと言って押し通したがおそらく周辺の城を攻め落とし武威を示した後また来るだろう。そのころには兵糧も少なくなっている、和睦を結ぶしかない。しかし皆を説得できるだろうか、いやなんとしてでも説得しなければ。兵の士気も低い、とてもじゃないが勝てないのだ。それに敵には余力がある。そうでなければあれほど強気な要求をしてこないだろう。

それに裏切り者の存在を示唆していた。時間を稼いでいる間に裏切り者を見つけ出し首を切らねば。裏切者がいなくなれば結束が強くなるだろうし士気も高まろう。その後はここと亀尾城に籠り援軍を待つしかない。


ドーン


な、あの音は鉄の球の攻撃が来る時の音だ。ということは敵襲か。

「誰か、誰かおらんか」

すぐに起き上がる。念のため鎧をつけておいてよかったわ。

「お呼びでしょうか」

やってきたのは立石図書だった。後ろに三人の兵が控えていた。思えば偽の内通も裏切り者が知らせたのかもしれないな。

「敵はどこから攻めてきている」

「東側の虎口ニか所から攻めてきています。西側からは来ておりませんが鉄の球の攻撃で兵たちがひどく混乱しており西側の虎口に逃げ込もうとしています。踏みとどまった者は少なくかなり押されています」

兵たちが逃げ出したか。もうこの城に踏みとどまることはできんな。

「すぐに集まれるだけの兵を集めよ。これより最期の奉公に参る」

「殿!」

立石が驚いた顔を上げる。

「なりませぬ、殿は壱岐の旗頭にございます。ここで討ち死なされば我らの敗北は必定。お逃げください」

「いや、ここで逃げても我らの負けは見えておる。今逃げたとて意気地なしと言われるだけだ。ならばいっそのこと討ち死にしてこれまでのご恩に報いた方がよい」

「しかし・・・」

「もうよい、決めたことだ」

「では某も御伴致します」

「いや、その方は逃げた兵をまとめて亀尾城に行け。そこで皆と籠城し援軍が来るまで耐えるのだ」

「はっ」

恐らくこの城が落ちればすぐにほかの城も落ちるだろう。逃げ延びる時に一人でも生き延びて盛様にこのことをお伝えする者がおればよいのだが。


中庭に出ると兵が20ほど集まっていた。やれやれこれだけしかおらんのか。

「これより敵に最後の攻撃を仕掛ける。逃げ延びたいものがおれば立ち去れ。このような有様だ、誰も責めることはせん。これまでのご恩に報いたいと思うものは儂に続けっ」

虎口に向かうとすでに宗のものが城に入り乱戦となっていた。死に場所としてはいささか不満があるがまぁ良い。

「日高資、推して参る」


―――――――――――1538年8月30日 亀尾城―――――――――――

「御初に御意を得まする、松本右近にございます」

「同じく牧山善右衛門にございます」

「牧山舎人にございます」

「下条掃部にございます」

「下條将監にございます」

「立石三河守にございます」

「石志三九郎にございます」

目の前で7人の男が頭を下げている。かなり変わっている光景だな。前世でもそうだがこの時代でもかなり特異な光景だろう。譜代の家臣は当たり前のようにしているからあまり違和感はないな。

「宗熊太郎だ。今回の戦では波多の勢いは強かっただろうがよく味方してくれた。壱岐をとることができたのもお主たちのおかげだ。礼を言うぞ」

「過分なお言葉痛み入りまする」

7人を代表して松本右近が返事をした。残りの6人は俺と家臣の方をちらちら見ている。おそらく俺は傀儡だと思っているのだろう。誰が実権を持っているのか、それを判断しようとしている。


それにしても生池城を落としてからはあっという間だったな。西の虎口から攻め入り、逃げ出す兵たちを東の虎口で待ち伏せして鉄砲で蜂の巣にした。ほとんどの兵はそこで死んだようで生池城内に入ると日高資の突撃以外はあまり抵抗はなかった。生池城攻略後は兵を進めるとすぐに降伏してくる城が多かったためほとんど損害が出ることなく壱岐を攻略できた。


「我らが宗家に服属する条件といて本領の安堵、交易の安全の保障をいただきたいと思っております。われらの服属お受けいただけるでしょうか」

「分かった、受けよう」

「ありがとうございまする。われら殿のため身命をとして働きまする。その証として人質を連れてまいりました」

「人質はいらん」

「よろしいのですか」

思わずというように爺が聞いてきた。これは打ち合わせしていたことだ。俺が実権を持っていることを示すためだ。そうとは知らない7人はお互いの顔を見合わせている。中庭に少し残念そうな顔をしているものがいる。大方人質に出してあわよくば正室にとでも思っていたのだろう。

「構わない、しかしこちらの統治に従ってもらうことを証としてもらうぞ」

つまり内政干渉だな。あまり快くはないだろうが後々のために従ってもらわないと。

「一つ、年貢は四公六民とすること。二つ、領内の関所を廃すること。三つ、二年以内に兵は全て銭で雇うこと。四つ、領内に撰銭令を出すこと」

「それは・・・。我ら国人たちの主な財源は年貢と関所です。それを減らされて兵を銭で雇うのはいささか難しいです」

「朝鮮や博多と交易で儲けることができるだろう。我らもそうして来た、その方らが出来ない理由はなかろう。石鹸の作り方や綿花の種を渡す、それらを作り交易せよ。そのために関所を廃するのだ」

「はっ、御配慮ありがとうございまする」

7人が頭を下げて下がる。少し不満が残ったかもしれないがこれから発展していけばその不満もなくなるだろう、しっかり発展させないとな。明からの船は呼べないかな。朝鮮との貿易だと物々交換になるから利益は出るが少し面倒なところがある。それに朝鮮は何かと貿易に制限をかけたがるし商人の事を蔑んでいる節もある。やっぱり南蛮や明との貿易の方に力を入れたいな。対馬や壱岐では朝鮮の影響力が大きい。少しづつ朝鮮の影響力をなくしていきたい。そのためにも力を付けないと・・・。

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