降伏
―――――――――――1565年9月20日 烏帽子山―――――――――――
「お初にお目にかかります。毛利輝元が家臣、福原貞俊にございまする」
「惟宗国康だ。面をあげよ」
「ははっ」
貞俊が顔をあげる。こいつは確か毛利家の筆頭重臣で史実では元就の死後、元春や隆景・口羽通良とともに四人衆として輝元を支えていたはず。この歴史では安国寺恵瓊がいないから誰が交渉に来るかと思ったけどかなりの重臣が来たな。
「それで今日の要件は何かな」
「毛利家の降伏を認めていただきたく参上いたしました」
「ほう。降伏するか」
この間の奇襲の失敗で毛利は大きな損害を被ったからな。多治比猿掛城に逃げ込んだがこれ以上の抵抗は無理だと判断したみたいだな。
この間の奇襲で惟宗は3000近くの兵と赤川元保を討ち取った。吉田郡山城も攻略できたし十分な戦果だろう。敗走した毛利勢は多治比猿掛城に逃げ込んだ。どうやら奇襲の時に多治比猿掛城の城兵も出てきたらしい。その城兵たちが撤収するときに一緒に逃げ込んだようだ。てっきり吉田郡山城に逃げ込んだ方だと思ったのだがな。毛利を相手にしていたらどうもうまくいかない。今回の奇襲だって本当は元就か元春・隆景を討ち取ろうと思っていたのだがな。討ち取れた大物は赤川元保ぐらいだ。
「降伏か。ある程度厳しい条件となるが何かこれだけはというものはあるか」
「でしたら先祖伝来の地の領有と元就様の助命を願い出たく」
先祖伝来の地といえば高田郡吉田荘か。問題ないだろう。元就の助命は久留米城に置いて監視しておけば余計なことはしないだろう。
「では条件を伝える。まず領地だが高田郡・山県郡のみ。それ以外は惟宗のものとする。それから未だに抵抗を続けている安芸の諸城に抵抗をやめるよう説得すること。元就は相談役として久留米城に常駐すること。吉川・小早川は毛利家から独立して惟宗の直臣として働くこと。正月には久留米城に新年のあいさつに来ること。以上だ」
「吉川・小早川様の領地は」
「吉川は周防国玖珂郡で2万石。小早川は長門国阿武郡で2万石だ」
「よろしいのですか」
「何がだ?」
嫌がられることはあっても気を遣われるとは思わなかったが。あそこには何かあっただろうか?
「長門・周防は大内殿にお任せするのでは」
「それはない。それほどの大領を治めることができるとは思えんからな。周防国都濃郡と佐波郡だけにする予定だ」
だいたい俺の兵で里帰りできたのだから文句は言わせない。大内は惟宗配下のほどほどの名門でいいのだ。大きくある必要はない。
「分かりました。御隠居様やほかの重臣たちと相談のうえ、3日後に返事をさせていただきます」
「うむ、いい返事を期待しているぞ」
――――――――1565年10月1日 飯盛山城 三好長逸―――――――――
「毛利は惟宗に降ったか」
「これで西国のほとんどは惟宗の物となりましたな」
「面倒なことで」
儂が一言漏らすと宗渭殿と友通殿が返事をされた。しかし先代が亡くなられてようやく自由にできるかと思ったがうまく行かんな。
「いかがしますかな。惟宗とは不可侵の約を結んでいますが大樹を殺した以上破棄されてもおかしくないですぞ」
「嫌なことを言われるな。長逸殿。あれは仕方のなかったことだ。あのままでは将軍の命令という名目で長尾や六角や惟宗が三好と敵対しかねない。ならば将軍を挿げ替えるしかなかったのだ」
たしかに宗渭殿の言う通りだ。あの馬鹿が将軍の座に座り続ければ三好家の害悪としかならん。だから殺したのだ。
「それより三好家のことだ。久秀が我らのしようとすることに対して事あるごとに反対する。あれをどうにかせんことにはどうしようもないぞ」
「あれが何か失敗をしてくれれば良いのですがの。さすればあれの発言力も衰え、義継様も我らの言うことを聞き入れてくださるはずなのだが」
「しかしあの久秀がそう簡単に失敗しますかな?友通殿」
「失敗したではないか。覚慶様があれの監視をかいくぐって脱走された。それを責めれば多少なりとも」
あれか。確かにあれは久秀の失敗だな。幽閉していたといってもそれほど厳しいものではなかったからそれを責めれば発言力は減る。少なくとも義継様は我らの方を信用なさるはずだ。
「それより義栄様はどのような様子なのだ」
「将軍になられることには同意していただいた。あとは上洛して将軍宣下を待つのみですな」
「しかし覚慶様も同じだ。どうやら六角以外にも上杉・織田・一色・朝倉と連絡を取っている」
「上杉と朝倉は問題ない。朝倉が覚慶様を援助しているのは一向一揆との和睦のため。上洛にはそれほど興味がないはず。それより危険なのは惟宗が上洛に興味を示したときかと。友通殿、細川は動きだしそうにないですかな」
「問題ないですぞ。惟宗とて旧毛利領を纏めなければならないからすぐには動けないと思いますが。私としてはさっさと覚慶様にも死んでもらった方がよろしいと思いますぞ」
「では某が来年の2月あたりにでも襲いましょう。お二人とも、よろしいですな」
「構いませんぞ。長逸殿」
「お任せする」




