奇襲
―――――――――1565年9月10日 風越山 松浦康興―――――――――
軍議が終わり自分の持ち場に戻る。さて、すぐに準備をしなければな。
「殿、先程の軍議はいかがでしたか」
そう言って安経が近づいてくる。安経は父親の安昌と同じように俺の補佐をしてくれている。俺の代だけでなく今は若様の御側にいる源三郎の代でもしっかり支えてくれるだろう。
「本陣をここから青光井山に動かすことになった。準備をしてくれ」
「はっ。しかしそれだけではありますまい。なにか策でもあるのではないですか?」
「策はある。そもそも陣を動かすのはこちらに寝返ると約束している赤川元保の手紙に元就が兵糧を入れることができなくなるから青光井山に陣を移されないか心配していると言っていたと知らせてきたからだ」
「では兵糧が運び込まれるのを防ぐために青光井山に陣を移すということですか。しかしその赤川元保とやらは信用できるのですか」
さすが安昌の息子だ。他の者だったらすぐに信用して青光井山に陣を移す準備を始めるだろうな。
「御屋形様は全く信用されていなかったな。おそらく敵の策だろうと言われていた」
「では陣を移すのは」
「毛利を城から引きずり出すための策だ。毛利が城から打って出たのを確認して甲山に隠れていた別働隊8000に城を襲わせるようだ」
「なるほど。奇襲だと分かっていれば十分対応できます。それにたとえどんな堅城でも人がいなければ守ることもできないでしょう。別働隊の方は御屋形様が率いられるのですか」
「いや、御屋形様は青光井山の隊を指揮される。別働隊の方は康正殿と康胤殿が指揮されるそうだ」
それを聞いた時は皆が反対したが御屋形様は世鬼がどちらに付くか分からない以上、青光井山の方にいないと意味がないと言われていた。そして本陣には都都熊丸様もいる。なんとしてでもお守りせねばな。
「しかし思い切ったことをされますな。いかに世鬼がどう動くか分からないとはいえ、ご自身と嫡男の都都熊丸様を囮にするようなことをされるとは」
「確かにそうだな。もう少し身の安全について考えていただきたいものだが戦に勝つには最善手だと言われるとなかなか反論できない」
「殿には出来なさそうですな」
「誰にでもできるものではないだろう。ああいう考え方をされる御方が大成されるのだろうな」
「私としては殿にも大成して頂きたいと思いますよ。さっそく今回の戦で手柄を立てるべく出来るだけ敵が襲ってくるあたりにでも陣を構えましょう」
―――――――――――1565年9月15日 青光井山―――――――――――
「押せ!押し返すのだ」
「突っ込め。惟宗国康はこの先ぞ」
少し遠くで喚声が聞こえる。押し返せと言っている方が惟宗軍だな。どうやら押されているらしい。さっき来た使番によれば小早川・吉川・桂・赤川・毛利の旗印があるらしい。たぶん隆景と元春は出てきているな。桂といえば元澄かな。赤川は元保だな。やっぱり寝返りは嘘だったか。元就は出てきているのかな。
「父上、戦況はどうなっているのでしょうか」
「押されているのでないか。先程押し返せという声が聞こえた。なぁ盛廉」
「左様でございますな」
「それは分かっています。城攻めの方はどうなっているのかと」
「先程、長恵に様子を見に行かせた。すぐに戻ってくるだろう」
しかし思ったよりこちらに兵を割いているな。たぶん城に逃げ込んだ農民たちも参加しているだろう。7000は参加しているな。ここは守り難く攻めやすいからどうしても厳しい戦になるとは思っていたけどこれなら自分を囮にするような戦なんてしない方がよかったかもしれないな。
「さて、都都熊丸。この間は言っていなかったが三好などの大名を動かしたり、兵糧が切れるのを待つ以外に毛利が勝つ手がある。分かるか」
「いえ、分かりません」
「奇襲で俺の頸をとることだ。それだけで惟宗は引かねばならなくなる」
「えっ。でもかなりの兵力差がありますよ。それは無理でしょう」
「そうでもない。特に毛利は少ない兵力で大軍に勝つ戦をしてここまで大きくなってきた。有田中井手の戦い・厳島の戦い。いずれも兵の数では負けた方が上だった。毛利だけではないぞ。尾張の織田殿が今川を破った時もだ」
歴史上で兵が少ない方が勝つことは少なくない。いつ起きてもおかしくないのだ。そこを都都熊丸が分かっていればいいのだが。
「覚えておけ。戦で勝つのは兵が多い方ではない。兵を動かすのがうまい方が勝つのだ」
「はい」
「まぁ、戦が終わってからそのあたりは傅役たちに聞けばいい。傅役以外にも仕事の邪魔にならないようにするなら聞いてもよい。出来るだけ多くの者の話を聞いて知識を蓄えるのだ」
「はい。分かりました」
本当に分かったのかな?こいつは少し調子のいいところがあるからなぁ。
「御屋形様」
「戻ったか、長恵。どうであった」
「はっ。御味方、吉田郡山城の本丸を落としました」
よしっ。これで敵は背後を気にしながら戦をしないといけなくなる。敵の士気も下がるだろう。対してこちらの士気は上がるはず。これで勝ったも同然だ。
「そうかっ。すぐにほかの将兵たちに知らせよ。敵に聞こえるようにだ」
「はっ」
「盛円・盛廉。5000の兵を預ける。敵の側面をつけ」
「「はっ」」




