第二次吉田郡山城の戦い
―――――――――――1565年9月10日 風越山――――――――――――
うーん、どうしたものか。この城を囲ってからすでに5日が経つが落とせそうな気配がしない。敵の士気は高いし吉田郡山城はかなりの堅城だ。そしてそれを守るのは毛利元就と吉川元春・小早川隆景が率いる5千の兵だ。城に逃げ込んだ住民も含めれば1万以上になるだろう。昨日も近くの村を焼いたりして挑発したが出てこなかった。青田刈りでもすれば出てくるかと思ったらすでに刈り取られた後だった。
いまこの城を囲っているのは約4万の兵だ。残りの兵はいまだに抵抗を続けている城の抑えとしておいてきた。兵の数を考えればそこまで警戒しなくてもいいんだが念のためだ。こちらに付くと言ってきた赤川元保はまだ城の中にいるがいちおう連絡はとれている。しかし本当にこちらに付くのかな。世鬼はこちらに付くと言って俺の陣に来たし人質も出すと言ってきた。それに比べたら信用できない。まぁ、世鬼も過去には俺を殺そうとしていたからあまり信用できないが。世鬼には元保の事は聞いていない。もし元保が本当にこちらに付こうとしていて世鬼が本当は毛利に味方していたとしたらだめになってしまう。いかんな、毛利と戦う時は特に寝返ると言ってきた連中が信用できないし、何をしようにも罠ではないかと不安になってしまう。
「父上」
黙っていたからか、都都熊丸が心配そうにこちらを見てくる。いかんな、子供の前ではしっかりしていないと。やっぱり勝利が死んだと知らせが来た時に帰らせればよかった。
「都都熊丸か。どうした」
「いえ、何を考えているのかと思って」
「そうか。どうやってこの城を落とそうかと思ってな。お前ならどうする」
「私ですか?そうですね、城の中にいる赤川元保とやらに夜中に火を放つよう頼みます。そして混乱しているときに奇襲を仕掛けて一気に攻め落とします」
意外と考えているようだな。初陣とはいえ今のところ何もしていないから策ぐらいはと思って考えていたのかもしれない。だが元就を相手にするには少し素直すぎるような気がするな。
「確かにいい策ではあるかもしれん。だが赤川元保が本当にこちらに付くという保証はないぞ」
「えっ。しかし何かあれば手紙で知らせてきていますよ」
「元就の策かもしれんだろう。陶晴賢を毛利勢が討ち取ったときは桂元澄という偽の内通者を用意していた。尼子にこの城を攻められたときは祐筆の裏切りを察知して偽の情報をつかませていた。反間計だな」
「父上はそれを警戒されていると」
「あぁ、そうだ。何もないかもしれんがな」
ん?これって空城計のようなものじゃないよな。罠だと思わせて実は何もないとか。相手が元就だからなぁ。何をしてくるか分かったものではない。警戒するに越したことはないだろう。
「では父上はどうなさるつもりですか」
「何もせん」
「何もしない?」
「そうだ。これほどの兵力差があれば奇襲に警戒していれば負けることはない。もしかしたら敵はこちらの兵糧が切れるのを待っているのかもしれんがその心配もないしな」
毛利には伝わっていないかもしれないが兵糧は惟宗水軍や村上水軍が必要な量をしっかり運んできている。去年から大量に買い込んだせいでかなり金を使ったが石見銀山を手に入れて毛利を降すことができるのだ。安い買い物だろう。あとは元就がどう動くかだな。それさえ分かればいいのだが。
「お前が敵の立場ならどうする」
「敵というと毛利の立場であったらですか?そうですね・・・尼子と和睦を結びます。そして尼子が石見を攻めるよう仕向けます。あとは慌てて撤退しようとする我らに奇襲を仕掛けます」
「だが尼子は和睦を受け入れるかな。大樹の仲介ですら断ったのだぞ。備中・備後の割譲を条件にしても別に和睦をしなくても攻め取れる」
「うーん、それは」
いいところまで行っているんだろうけど少し甘いんだよな。まぁ、これから学んでいけばいいのだ。俺が死ぬにはまだ時間があるだろうしな。少しずつ当主としての力を付けていけばいい。
「父上はどうしますか」
「そうだな。基本的にはお前と同じだが尼子ではなく惟宗に不満を持っていそうな国人たちに調略を仕掛けるかな。だがうまくはいかんだろう。明らかに毛利の方が劣勢だからな。そうなると取れる手段は他の大名を巻き込むぐらいかな。惟宗が退くぐらいの大名となると三好ぐらいだな。だが三好は5月に大樹を殺した。惟宗と敵対する余裕はないだろうが油断することはできん。少なくとも毛利はそう考えるはずだ」
永禄の変は史実通り起きた。京を見張っていた多聞衆の報告では三好三人衆が義継を唆したらしい。惟宗が力を増している以上京の不穏分子を排除して畿内を安定させるべきだと。久秀は反対だったらしいが当時は大和国にいたため止めれなかったらしい。のちの義昭である覚慶は久秀が幽閉している。幽閉とはいっても外出禁止程度らしいが。ん?まさか覚慶がこっちに来るなんてことはないよな。しかし義輝を殺すのはいいけど俺をだしに使われるのは嫌だな。さっさと内乱を起こしやがれ。
「ではもし三好が攻めてきたら」
「攻めてこないぞ。絶対とまでは言わんが」
「攻めてこない?何故ですか」
都都熊丸が不思議そうにこちらを見る。そうだろうな、ついさっき誓紙を書いているからといって油断できないと言ったばかりだ。なのに攻めてこないと言われれば不思議に思うだろう。
「三好長慶は死んでいる。当主は義継とはいえ長慶殿ほどの人がなくなっていては惟宗ほどの大大名と戦をする余裕はなかろう」
「死んでいるのですか!そのような噂は聞いていませんが」
「多聞衆が調べた。昨年の7月に死んだようだ。間違いないだろう」
史実通り弟の安宅冬康を殺した2か月後に死んだようだ。この後の三好はどうなるかな。
「御屋形様」
「いかがした、頼久」
「赤川元保より書状が届きました」
そう言って頼久が俺のそばに寄ってきて懐から手紙を取り出す。どれ、何だろうか。
「頼久、皆を集めよ。毛利が動き出したとな」
「はっ」
「父上、手紙には何と?」
「元就が惟宗が青光井山に陣取れば他の城と連絡が取れず、兵糧を運ぶこともできない。甲山に陣取らないものかと言っていたそうだ。本陣を移すぞ」




