毛利攻め
――――――――――――1565年2月1日 門司城――――――――――――
大広間に入ると家臣たちが一斉に頭を下げる。はぁ、これにはまだ慣れないな。俺の後ろを歩く都都熊丸は慣れるのだろうか?
今回は都都熊丸の初陣だ。もう今年で16になる。俺としては元服してからと思っていたが政千代が早く初陣を飾らせてほしいと言ってきたので今回の戦での初陣だ。それと勝利が膈の病を患ったようだ。もうあまり長く無いだろう。その前に初陣を飾らせて勝利に安心してあの世に行けるようにしないと。
「面をあげよ」
「「「ははっ」」」
皆が促されて顔をあげる。しかし戦をするたびに人が増えていくな。惟宗の勢力が大きくなってきたという意味ではいいんだが3分の2より後ろにいる将はほとんど顔に覚えがない。これで天下人になったらどれだけの人の顔を覚えなければいけないんだろう。この間天下を取るって言ったけどこれは大変そうだな。
「さて、さっそく軍議を行うか。経治、頼む」
「はっ」
経治が俺に一礼をして皆のほうを見る。盛長が討ち死して康範が水軍衆に移ったことで経治が兵法衆筆頭になっている。
「今回の石見・安芸攻めですがこの戦で毛利を降す、または石見・安芸から毛利勢を叩き出すところまでする予定です。兵の方ですがこの戦では6万5千の兵を率いてきていますがこれを4つに分けます。第一の軍は5000の兵を率いて隠岐を制圧します。これはそこまで時間がかからないと思われますのでそれが終わり次第、第四の軍と合流します。第二の軍は2万の兵を率いて周防から安芸に攻め入ります。そして第三の軍は1万の兵を率いて伊予から瀬戸内を渡って安芸に攻め入ります」
隠岐は明との交易に使えるし、尼子と戦をすることになった時に日本海側から攻める拠点になるはずだ。
「そして第四の軍は3万の兵を率いて石見を攻めます。石見は尼子に近づこうとする国人もいるでしょうから尼子が介入してくる前にさっさと制圧します。すでに石見の国人の中には喜島宗勝・吉見正頼・益田藤兼・斎藤源吾・品川勝盛がこちらに寝返ると言っています」
「少しよろしいでしょうか」
質問をしてきたのは成幸だった。
「尼子が介入する前にと言われましたが本条・多胡・福屋ら尼子に付いて領地を失ったものもいるはずですが」
「それは尼子が替えの領地を用意すればいいことかと。それはすでに尼子も了承済みです」
「分かり申した」
確かにそのあたりで尼子ともめる可能性はないわけではない。だが今すぐ何か言ってくることもないだろう。毛利が滅んでから言ってきたとしても力の差は歴然だ。それを理由に尼子を攻めて中国地方を統一してやる。
「ほかに質問のある方はいますか?」
そう言って経治が周りを見渡すが誰も質問をする気配はない。
「では続けさせていただきます。これらの軍を率いる方ですが第一の軍の総大将を康範殿、副将を村上武吉殿と宗像康氏殿にお任せします」
「「「はっ」」」
宗像康氏は宗像の家督を争った時に俺が味方した千代松だ。まだ若いが宗像の当主として神事に戦に奮闘しているようだ。
「第二の軍の総大将は康正殿、副将を犬童頼安殿と島津義辰殿にお任せいたします」
この二人なら大きな失敗はしないだろう。頼安には頼房がいるし、義辰には史実では島津を九州統一直前まで発展させた優秀な家臣たちがいる。安心して任せられるな。
「第三の軍の総大将は戸次鑑連殿、副将を松浦康興殿と村上通康殿にお任せします」
「「「はっ」」」
通康は河野通宣の代理だ。本来なら通宣が来なければならないのだが3年前に中風で倒れてしまった。戦の途中に倒れてしまったら大変だから新たな当主が決まるまで通康が代理として戦に参加する。
「第四の軍は御屋形様が率いられます。また都都熊丸様もその軍に参加することになります」
しかしどうしたものかな。初陣とはいえどれくらいまで戦に参加させるべきか。俺の初陣は後方の安全なところで偉そうにしていただけだがそれでは都都熊丸も満足しないだろうな。
「ほかの方は紙に記しておきましたので後程お渡しいたします。何か質問のある方はいますか?」
「では某からよろしいでしょうか」
そう言ったのは康広だ。珍しいな。康広は交渉ごとに関しては結構質問してくるが戦の事に関してはあまり何も言ってこない。
「もし戦の途中で毛利が降伏をと言ってきた場合はいかがなさいますか。無視して戦か、降伏を認められるのか」
「それは・・・」
経治が困ったように俺を見る。経治は兵法衆だからそんなことを聞かれてもといったところだろう。ここは俺が答えるべきだな。
「もし降伏するとしたら領地は高田郡・山県郡のみ。小早川・吉川は俺の直臣となること。元就は相談役として久留米城に常駐すること。これが降伏の条件だ。もし俺以外のもとに使者が訪れた場合は俺のもとに行くように言え」
「はっ」
「ほかに質問はないか」
周りを見渡すが誰も質問をしない。
「では2刻後に出陣する。それまで体を休めるなりしておけ」
「「「ははっ」」」




