表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/402

謝礼

――――――――1564年9月1日 月山富田城 尼子義久―――――――――

「面をあげよ」

「「「ははっ」」」

家臣たちが顔をあげる。その顔には以前まであった馬鹿にしたような感情は見えないな。父が死んでから約3年。ようやく認められつつあるようだな。今年の2月に行った因幡平定もうまくいった。この調子でいけば父上の頃とまではいかないがある程度は尼子の勢いを戻せるはずだ。

「さて、惟宗より使者が参った。今年の12月に石見攻めを行うそうだ。それに合わせて備中・備後に攻め入ってほしいとのことだ。それと隠岐割譲と謝礼3000貫の約束をさっさと履行するよう求めてきた。俺としてはついこの間戦をしたばかりなのだからせめて来年2月か3月ぐらいにと考えているのだが皆はどう思う」

そう言って皆を見渡す。隠岐は石高は少ないとはいえ明との交易の拠点になっている。それに隠岐を任せていた為清は毛利が攻めてくる少し前に寝返ったため俺の命令には従わないだろう。

「御屋形様、某は惟宗の要求を認められるのがよろしいと思いまする」

最初に意見を述べたのは秀綱だった。

「御屋形様、備中・備後に攻め入る件はこちらとしてもありがたい話ですが今年は厳しいでしょう。御屋形様のおっしゃる通り2月にした方がよろしいかと。それから隠岐の件は攻め取り次第勝手と伝えればよろしいでしょう。3000貫ですがさっさと支払ってしまった方がよろしいかと。ここで惟宗が毛利と和睦を結ぶようなことになれば尼子は再び窮地に陥るでしょう」

確かに惟宗が毛利と和睦をするようなことになれば厄介だ。長門・周防を惟宗が攻め取ったことで毛利の兵力は約2万になった。しかしその兵力ならば十分尼子に攻め込むことができるはずだ。場合によっては攻め滅ぼされるかもしれん。毛利もそれは理解しているはずだ。全力を持って惟宗と和睦をしようとするだろう。それを阻止するためにも惟宗の要求を認めるしかないだろう。

「しかし久包殿。隠岐はともかく3000貫もの金を払う余裕はありませんぞ。何とか先延ばしにした方がよいのではないでしょうか」

秀綱に反論してきたのは中井久包なかいひさかねだった。久包は父の傅役で尼子を財政の面から支えてくれている老臣だ。

「仮に3000貫を払う余裕があったとしても戦が終わってからの方がよろしいでしょう。惟宗とてここで毛利と和睦を結べばいずれ力を付けた毛利と戦わねばならなくなるのは分かっているはず。それに元就が隆元を殺したのは惟宗だと周囲に言っているとか。当主がそのような状態なのですからそう簡単に和睦を結ぼうとはしないはず。ならば適当に理由を付けて先延ばしにした方がよろしいかと」

「先延ばしということはいずれは払うのだな」

「はい。惟宗を敵に回すのは得策ではないでしょう。ですが3000貫も支払えば備中・備後攻めにも支障がでます。そのあたりをしっかり説明できれば惟宗も理解してもらえるでしょう」

「ふむ・・・よし、3000貫の支払いは後回しにして備中・備後攻めは2月にするよう交渉する。秀綱、国康殿のもとに言って説明してきてくれ」

「はっ」


――――――――1564年12月1日 吉田郡山城 宍戸隆家――――――――

「失礼しますぞ」

そう言って御隠居様の部屋に入る。部屋には御隠居様のほかに幸鶴丸様・元春殿・隆景殿がおられた。いかんな、私が最後のようだ。

「申し訳ございませぬ。遅れました」

「構わん。他の者たちも今来たところだ」

しかし今日はどういう話だろうか。元春殿と隆景殿がいるの分かるが私と幸鶴丸様がいるのはかなり珍しい。

「来年の正月に幸鶴丸を元服させる」

「本当ですか御爺様」

「おぉ、それはめでたいですな」

「幸鶴丸様、おめでとうございまする」

「おめでとうございまする」

「ありがとう、元春叔父上、隆景叔父上、隆家」

めでたいことだ。最近の毛利家は隆元様の死、出雲攻めの失敗、長門・周防を攻め取られるなど不幸ばかり続いている。ここでめでたいことがあるのは家中の雰囲気もよくなるだろう。

「それだけではない。幸鶴丸の烏帽子親には御供衆の細川藤孝殿が務めることになる。そして諱は大樹より偏諱していただき輝元と名乗ることになった。幸鶴丸、この意味が分かるか」

「えっと・・・分かりません」

「そうか」

幸鶴丸様は少し考え込まれたが思いつかれなかったらしい。御隠居様が少し残念そうな顔をされる。もしかすると亡き隆元様と比べておられるのかもしれないな。

「隆景は分かるな」

「はい。幕府の重役である藤孝殿が烏帽子親をして大樹より偏諱をしていただくということは幕府が幸鶴丸様の後ろ盾になるということです。惟宗は幕府に歯向かった毛利を討つという名目で戦を仕掛けてきたのでその大義名分を潰すことができます。惟宗さえいなければ尼子など恐れるに足りませぬ。いまの毛利の状況を好転させることになるでしょう。万が一攻めてきたとしても大樹の仲介が期待できます」

「うむ、その通りだな。最近の惟宗の動きを見ると大樹の仲介は期待できんかもしれんがないよりはましであろう。幸鶴丸も当主になるのだからこのようなことはすぐに思いつけるようにしておけ」

「はい。精進します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ