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幕臣

――――――――1563年10月1日 久留米城 細川藤孝―――――――――

「お初にお目にかかります。御供衆を務めさせていただいている一色藤長にござる」

「同じく御供衆を務めさせていただいております細川藤孝にございます」

「よくぞ九州まで来られた。面をあげられよ」

「「はっ」」

国康殿に促されて顔をあげる。家臣たちは訝しげであるが国康殿の表情は我らがいきなり押しかけてきたというのにあまり変化はない。以前お会いした時もそうであった。いったいこの方の表情が動くのはいつなのだろうか。

「藤孝殿と会うのは久しぶりですな。藤長殿とは初めてですかな。大樹をよくお支えしている忠臣と聞いていますぞ。それで幕府の忠臣である二人がなぜわざわざこのようなところまで来られたのかな」

「大樹より毛利殿と国康殿の間を取り持つよう命じられてきました」

「それは和睦をせよということで」

「はい」

国康殿の質問に藤長殿が答えられる。藤長殿は国康殿に対して成り上がりもの、武家のくせに商人のような真似をしているとよい感情を持っていない。最近は大樹が処分されようとしていた伊勢殿の弁護に回ったことにも僭越だと言ってたな。その件は結局国康殿の言い分が認められて伊勢殿は政所執事に戻った。もしかするとそれが災いして交渉がうまくいかない可能性がある。だから大樹は私にも九州に行くよう命じられたのだろう。私は国康殿と面識がある。それで交渉がうまくいけばと御考えなのだろう。しかしうまくいくだろうか。国康殿がわざわざ自分から和睦を破ったのだ。この毛利攻めにかける思いは強いはず。

「依頼をしたのは毛利ですかな。石見の銀山は良い銀が採れますから献金に必要なものには困らないでしょう」

「確かに和睦を依頼してきたのは毛利殿ですが大樹はそれより前から和睦の仲介をされようとしておられました。大樹はせっかく安定してきた山陰・山陽が混乱することに大変心を痛めておられます」

「毛利が尼子殿を攻め滅ぼせば三好と戦をと命じることができますからな。大変心を痛めておられるでしょう。四国に手を伸ばしてきた惟宗が三好と戦をするかと期待したが結局不可侵の誓紙をお互いが出すことになった。毛利に期待する大樹の御気持ちは分かっております」

藤長殿が大樹の御意志であるとお伝えするがそれを皮肉で返される。どうやら国康殿は我らが来たことに対してあまり快く思っていないようだな。

「もしかしたら大樹は誤解されているかもしれないが惟宗は己が欲のために毛利攻めを行ったわけではござらんぞ」

「と言いますと」

ちらりと藤長殿の方を見たが不機嫌そうな顔をしていたので私が返事をする。

「藤孝殿は因島の村上水軍が帝や大樹への献上品を乗せた船を襲ったことは覚えておられるかな」

「はい。その時は幕府の中でも話題になりましたのでよく覚えておりますぞ」

「その時毛利は自分たちは関係無いと言ってました。しかし因島の城から毛利が船を襲うよう指示したという証拠が出てきたのです」

「なんと」

「これは和睦を破棄すると言われたに等しい。惟宗としても帝や大樹への献上品を襲った毛利を捨て置くわけにはいきません。幕府や帝に歯向かおうとする不埒な輩には罰を与えねば。それで今回毛利攻めを行うことになったというわけです」

「しかし国康殿はすでに長門・周防を攻め取られた。この辺りで手打ちにするというのが妥当ではないでしょうか」

国康殿としては尼子とともに毛利を潰すことを望まれているだろう。だが大樹の御命令である以上なんとしてでも和睦を成立させねば。

「長門・周防を制圧したのはただの手伝い戦。いわば毛利に罰を与えるための準備ですな。大内の復権のことは大樹は認められたはず。そうでなければ偏諱をするはずがありませんよな。まさか貴殿らは大樹が偏諱をなさったというのに大内の当主を名乗ることを咎めるおつもりかな」

「いや、そのようなことは」

「では何も問題はありませんな。大樹にお伝えくだされ。山陰・山陽にいる不埒者を必ずや成敗して見せますると。話は以上ですな」

そういうと国康殿はさっさと立ち上がり部屋から立ち去ってしまった。それに続くように惟宗の家臣たちも立ち去ってしまい、残ったのは我らと康正殿だけとなった。

「康正殿。先程の話の事ですが」

「藤長殿、藤孝殿。今日のところは一度お引き取りになられた方がよろしいでしょう。御屋形様があの様子ではおそらく交渉もできますまい」

「・・・分かり申した。ではここで失礼させていただく」

そういうと藤長殿も部屋を出ていかれる。慌てて康正殿に一礼して部屋を後にする。


「ええい、くそっ」

「藤長殿」

「藤孝殿か。いったい何なのだあれは。毛利との和睦は大樹の御意思なのだぞ。それをあのような屁理屈で」

どうやらかなりの不満が溜まっているようだな。しかしそれを私にぶつけられても。

「藤長殿、そう言われるな」

やはり私一人の方がよかったのではないだろうか。それか惟宗に対してそれほど悪感情を持っていない方。そうでなければ交渉もうまくいかないだろうに。

「ここは一度大樹の元に戻りましょう。それから尼子にも交渉に赴かなければ。尼子が戦をやめて和睦をすれば惟宗とて考え直すでしょう」

「しかしだな・・・まぁいい。そうするとしましょう」

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