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毛利隆元死す

――――――――1563年8月10日 久留米城 松浦康興―――――――――

大評定を行うと言われてたので評定の間に入ったがまだほかの方たちは揃っていなかった。どうやら早く来てしまったらしい。さて、どうしたものか。


今回の大評定は毛利攻めの事だろう。すでに6万の兵が動かせるだけの兵糧を用意せよと命じられている。隆元が死んだことで混乱しているであろう長門・周防に攻め入るおつもりだろうか。

「康興殿」

声をかけられて後ろを振り返ると康繁殿がニコニコしながらこちらを見ていた。康繁殿とは同じ時期に元服と初陣をすませた縁で康胤殿とともに仲良くしている。

「おぉ、康繁殿か。久しいですな。確か昨年の9月以来ですかな」

「そうですな。今年の正月は京に向かっていたので会うことはできませんでしたからな」

「そうでしたな。今年は康広殿の代わりに康繁殿が行ったとか」

「えぇ、今回は幕府や朝廷への顔見世というのもありましたので。康広殿も歳を考えるといつまで京と九州を行き来できるか分かりませんので」

「そうですな。御子息の智広殿がそろそろ跡を継ぐのではと言われているようですが」

「本人はまだまだ働くおつもりみたいですぞ。この間、京の様子を報告に行った際に惟宗家は人が少ないのだからまだまだ隠居できるかと言っていました」

「それはそれは。我らも負けるわけにはいきませんな」

「左様ですな」

惟宗には譜代の方は少ない。だからこそ外様である我らが踏ん張らなければな。

「そういえば聞きましたか。すでに御屋形様が例の御子息たちの傅役を誰にするかお考えだとか。誰になるのでしょうな」

例の御子息たち。あの双子のことか。御屋形様が惟宗の子として育てると言われなければどちらかは養子に出されていただろう。だが御屋形様は自分の子として育てると言われた。そしてすでにその子たちに大友家と土佐一条家を継がせると言っている。とても私には同じ判断をすることはできないだろうな。

「さて、どなたになるでしょうな。やはり譜代の方ではないですか。事情があれですので」

「しかしほかの子と同じように育てると言われていたので都都熊丸様の時と同じように譜代・外様関係なく選ばれるのではないですか」

「だとすれば我らにも傅役に選ばれる可能性があるということですな」

「ですな」

しかし実際のところ傅役の人選にはかなり慎重になるだろうな。ああは言ったが正直なところ面倒なことに巻き込まれそうだから選ばれたくないな。


康繁殿と雑談をしているとほぼ全員が集まってきた。そろそろ御屋形様が来られるだろう。

「楽しみですな。あの御子息たちが元服するころの惟宗はどうなっているか」

「さて、肥前統一から九州を制覇するまで10年以上かかりましたからな。山陰・山陽を支配下におさめようとしているのではないでしょうかな」

「案外、京で三好のような立場になっているかもしれませんぞ」

「はははっ。それは夢があってよろしいですな」

山陰・山陽だけでなく畿内もか。康繁殿は面白いことを言われるな。む、足音がしてきたな。

「おや、来られたようですな」

慌てて頭を下げる。近くで人が通り過ぎる気配がした。

「皆、面をあげよ」

「「「ははっ」」」


―――――――――1563年8月25日 荒隈城 宍戸隆家―――――――――

「惟宗が長門・周防に侵攻してきただと」

使者の報告を聞いて思わずというように御隠居様が呟かれる。皆も同じようなことを思っているだろうな。門司城の兵を引き上げた惟宗が今になって攻めてくるとは。しかも惟宗から和睦を破棄するとは思わなかった。いったい、どういった名目で毛利を攻めているのだろうか。

「間違いないのか」

「はっ。赤間関街道と山陽道に兵を進めています。その数は赤間関街道に2万、山陽道に3万です」

総計5万か。毛利と尼子を足しても惟宗の方が多いな。だが惟宗は9万以上の兵を動かせるはず。残りは三好への備えだろうか。

「惟宗はどこまで攻め入っている」

「長門は豊浦郡の大半を押さえられています。周防は吉敷郡・佐波郡が」

「妙に早いな。誰が指揮をしている」

「山陽道の方は国康が、赤間関街道の方は康正が率いています。しかし康正の方には副将として大内輝弘が大内の旧臣を率いています」

輝弘か。道理で長門・周防が崩れるのが速い。元大内家臣の中には毛利の支配を望んでいないものが多くいるはずだ。

「高嶺城はどうなった。あの城は旧大内領支配の拠点ぞ」

「現在、国康の軍に囲まれています。ですが数の差を考えるとすでに落城している可能性もございます」

「くそっ。政時、惟宗の動きに気づかなかったのかっ」

御隠居様が世鬼の頭領を怒鳴りつけると政時殿がすこし前に出て深々と頭を下げる。

「申し訳ございませぬ。今年に入って惟宗領に潜り込ませていた手の者と連絡が取れておりませぬ。おそらく多聞衆が忍び狩りを行ったものだと思われます」

ということは惟宗は去年から毛利との和睦を破棄するつもりだったのか。だとすればこのままでは惟宗が長門・周防を制圧するのは時間の問題だろう。

「父上、いかがしますか」

「すぐに戻る。5万も動かされていては隆元が死んだばかりの留守組に対応できるとは思えん。それに惟宗にはまだ3万以上の兵を動かすことができる。その3万が安芸に上陸したら吉田郡山城を奪われかねない」

「しかし父上。尼子がそれを見逃すとは思えません」

さすが隆景様。このような時も落ち着いておられる。

「分かっておる、すぐに総攻撃の用意をいたせ」

総攻撃?退却の準備ではないのか。

「総攻撃が終わったら夜の間に安芸に引き上げるぞ。殿は元春に任せる」

「はっ」

そうか、総攻撃をした夜に引き上げるなど尼子を含め誰も考え付かないはず。だから総攻撃を仕掛けるのか。大内に従っていたころの月山富田城攻めは御隠居様が殿を務めてかなり大きな損害を受けた。撤退には気を遣われるだろう。

「おのれ、惟宗め。よくも邪魔してくれたな。尼子共々隆元の追善にしてくれる」

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