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家臣たち

――――――――1562年12月31日 久留米城 佐須盛廉――――――――

「兄上、康広殿と成幸殿・調親殿が参られましたぞ」

部屋でゆるりと酒を飲んでいると盛円が外から話しかけてきた。はて、あと少しで年が変わろうという様な時間になにか話す様なことでもあっただろうかの。

「すぐに客間に御通しせよ。そうだな、酒と何かつまみでも作るよう命じてくれ」

「はい」

やれやれ、相談役になって少しはゆるりとできるかと思ったがそうではないようだな。さて、酔いがまわらぬうちにさっさと客間に移動せねばな。


「おぉ、盛廉殿。先に始めておりますぞ」

客間に行くとすでに康広殿と成幸殿・調親殿は酒を飲み始めていた。最初に私に気付いたのは成幸殿だった。

「む、少し顔が赤いようだが酒でも飲んでおられたかな」

「一年の最後ですからな。少しぐらい飲み過ぎてもバチは当たりますまい」

「確かにそうですな。ささっ、盛廉殿も座って飲みなされ」

「ではいただきましょうかな」

そう言って突き出された盃を受け取り飲み干す。うまいな。

「しかし今日はいかがしたので?」

「実は久しぶりに調親殿がこちらに戻ってきたので某の屋敷で少し飲もうということになりましてな」

「成幸殿の屋敷でですか」

「左様。しばらくしてから某の屋敷に調親殿がいると聞いた康広殿が訪ねてきてな。どうやら毛利の様子を聞きに来たようだが酒盛りに参加することになりまして。そこでどうせなら譜代の者たちで酒を飲みながら正月を迎えようという話になりましてな。ここに一番酒がありそうだと思いここに来ることになったという次第」

酒が一番ありそうと言われてもな。確かに清酒の大量生産を指揮しているのは佐須家だがここにあるという訳ではないのだがな。仕方ない、誰か人を倉にやって酒を購ってくるか。

「盛廉殿ぉ。酒はいずこですか」

康広殿がそう言って倒れこまれた。かなり酔っているな。正気ではない。

「全く、この程度の酒で酔ってしまうとは情けない」

そう言って調親殿が康広殿を揺らすが起きる気配はない。あとでどこかの部屋にでも運び込ませるか。


「しかし今年もよい年でしたな」

「左様ですな」

成幸殿が酒を飲みながらつぶやくように言った言葉に調親殿が応じられる。

「西の交通の要所である瀬戸内を勢力下におさめることができた。尼子や毛利といった大大名が御屋形様の機嫌を窺うように使者を出している。対馬にいるころには考えられなかったことですな」

「対馬の頃は機嫌を窺う方でしたのにな。惟宗の変化を一番感じているのは他の大名と会うことの多い康広殿でしょうな」

確かにそうだろうな。昔であればこちらがへりくだった態度をとらないと向こうの機嫌を損ねただろう。いまは九州探題の代理としてへりくだった態度をとる必要はない。

「あの頃には想像もできなかったことですな」

そういうと二人はしみじみと頷かれる。

「御屋形様が家督を継いだ時の事を覚えておられるかな」

「もちろん」

「某は傅役でしたからな。もっとも、なにか教える前に家督を継がれましたが」

あの時は不安しかなかった。果たして惟宗、あの時は宗か。宗はどうなってしまうのだろうかと。

「御屋形様が家督を継がれるとき九州をとると言われた。あの時は雰囲気にのまれてしまったが屋敷に帰って大丈夫だろうかと不安になったものです。だがいまは九州どころか四国にまで領地を持っている。毛利と尼子の戦次第では山陰・山陽にも領地を持つことができる」

「壮大なことを言ってそれ以上の成果を残されましたな。我らは良き主を持ちました」

「その通りですな」

「しかしこれから御屋形様はどうされるおつもりなのでしょうな。門司城にいた兵は引き揚げさせましたが」

確かにそうだ。皆は尼子にかなり厳しい条件を付けていたが門司城の兵を中心に毛利領に攻め入ると思っていたのだが御屋形様は全ての兵を引かれた。

「もしや御屋形様は今の領地で満足されたのではないだろうか。だから毛利に味方するようなことを」

「いや、それはないと思うが。御屋形様は毛利の事を信用していないように感じた。だから瀬戸内を勢力下におさめようとされたのだろう。それに以前天下をという話になったことがある」

「天下を?それは初めて聞きましたな」

「某もだ」

二人が興味深そうにこちらを見る。そういえば調親殿は門司城に、成幸殿は自身の領地にいたため呼ばれていなかったな。

「今の惟宗のままではいずれ現れるであろう天下人が危険視して攻めてくるのではないか、そして天下を敵に回して勝つことはできるだろうかと。それなら御屋形様が天下人になった方がよいと。それも管領ではなく大樹以上の地位につくか新たな幕府を作るかと言われていた」

「御屋形様が大樹以上に」

「御屋形様が天下人に」

二人が顔を見合わせて呟かれる。驚いているだろうな。まさか御屋形様がそのようなことを考えているなど思いもしなかった。

「お二人はどう思われますかな」

「なかなか壮大な夢ですな。ですが・・・面白そうです」

「成幸殿もそう思われるか。某も同じようなことを思っていたところです」

「お二人もそう思いますか。実は某も年甲斐もなく心躍ってしまいました」

おそらく今は寝ている康広殿も盛円もだろう。天下取りは誰にもできるわけではないのだ。それができる主を持つことができた。

「では先頃お生まれになった双子もよかったのかもしれませんな」

「左様ですな。惟宗は親族衆が康正殿だけ。それでは頼りないでしょう。都都熊丸様を御支えする親族衆は多いにこしたことはございますまい」

御裏方様の最後の御子として生まれたのは双子であった。普通なら家臣に預けて御屋形様の知らぬところで育てるのだが御屋形様は悪しき習慣として実子として育てると言われた。ある程度大きくなれば先に生まれた虎千代様が大友家を、あとから生まれた辰千代様を土佐一条家を継ぐことにすると言われた。

「来年はどのような年になりましょうな」

「毛利攻めではござらんか。御屋形様が天下を目指されるのであれば毛利は邪魔でしょう」

「それとも阿波・讃岐かもしれませんぞ」

「いや、三好は混乱しているがいま攻めれば一つにまとまりかねない。やはり毛利攻めだな」

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