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援軍

―――――――――――1562年7月20日 久留米城―――――――――――

「久しいな、秀綱。面をあげよ」

「はっ」

促されて秀綱が顔をあげる。今日は何の用かな。確か毛利が史実通り尼子攻めを始めたとか聞いているがそのことだろうか。門司城には1万の兵がいるせいか毛利は長門・周防の兵の一部を残しているらしい。それを率いるのは毛利隆元だ。確か史実では途中までは元就たちとともに尼子攻めの軍に加わっていたが大友が攻め入ったことで引き返したはずだ。この歴史では初めから九州の備えとして下関に残ったみたいだな。


「それで今日はどうした。まさか尼子滅亡の危機と言ってもいい状況で機嫌を窺いに来たという訳ではあるまい」

「はっ、ご賢察の通りにございます。国康様には毛利の後ろをついていただきたくご相談に参りました」

やっぱりそのことか。でもあの毛利が油断しているとは思えないんだよな。無駄な犠牲を増やすぐらいなら攻めない方がましだ。ただ史実では来年の8月に隆元は死ぬはずだ。その隙をつけばある程度の領地を奪い取ることはできるだろう。しかし本当に死ぬかな?史実での隆元の死因はよく分かっていなかったはずだ。和智誠春の元で饗応を受けたその夜に亡くなったが暗殺とも食中毒ともいわれていた。もし食中毒だったら史実と同じように動かないと食中毒にならない可能性もある。俺としては隆元が史実通りに死んだら提案に乗るのもありかな。ただその後尼子と旧毛利領をめぐって争いになるかもしれない。それで泥沼になるのは御免だ。ここで交渉をしてしっかり支配地を確認しておかないとな。


「惟宗が毛利と敵対して果たして何か利点があるのかな」

「今以上の領地を得る可能性が出てきます」

「だが毛利と敵対することになるな。そして毛利を滅ぼすか降したとしてもその領地をめぐって尼子ともめることになるかもしれない。山陰・山陽方面で手間取っている間に三好が四国の惟宗領に攻め入ってくるかもしれない。そのような危険を背負ってまで毛利領を攻めるべきとは俺は思わん」

「我が主、尼子義久様は国康様に長門・周防・安芸・石見をお任せしたい、それらの領地を制圧する際は尼子からも兵を出すと」

長門・周防・安芸・石見か。石高でいえば70万石ぐらいか。今の毛利領の半分以上にあたるはず。石見は銀山もあるしなかなかいい条件だな。だが本当にその条件を守る意思が尼子にあるだろうか?もともと石見は尼子が支配していたし、いまでも石見奪還を願う家臣たちも多くいるだろう。義久に守る意思があったとしても家臣たちは破るよう義久にせまる可能性がある。どうせならもう少し押してみるか。


「少し足りないな。それだけでは危険を冒してまで援軍を送る理由にはならん」

「まだですか。しかしこれ以上は義久様に伺わなければなんともいえませんが」

「そうか、では希望だけ言わせてもらおう。隠岐国の割譲と3000貫の礼金。まぁ、こんなものでどうだ」

「それはいくらなんでも無理です」

「それを判断する権限はお前にないだろう。話を持って帰り義久殿の判断を仰ぐのがお前の仕事のはずだ」

「しかし、あまりにひどい条件ではないですか。国康様は尼子を見捨てるおつもりですか」

「それは義久殿の返答次第。無理だというのであれば月山富田城で飢えに苦しみながら滅びを待つことだな」

さて、義久はどう返事をするかな。かなり多くを要求したから初めは受けれないだろう。だが毛利に包囲されて飢えに苦しむ未来が見えてきたころには意地を張らずに受け入れるだろう。あるいは受け入れるふりをして援軍を送ってもらい隠岐と3000貫は支払わなければいいと自分に言い聞かせて承諾するかもしれない。いずれにせよ、援軍を送ってくれというのは間違いない。あとは適当なことを言って援軍を送るのを先延ばしにして隆元が死ぬのを待つだけ。その頃には尼子もかなり弱っているはずだ。毛利相手に戦は出来ても惟宗相手に戦をする余裕はないだろう。少し脅せばすぐに隠岐と3000貫を支払うだろう。


「・・・分かりました。一度この話は持ち帰らせていただきます」

「そうか、出来るだけ早く返事を持ってきてくれよ。返事を聞く前に尼子が滅んでは意味がないからな。あと毛利の使者が来て尼子より良い条件を出してくる前にな」

「毛利と手を結ばれるおつもりか。先代の時はともに毛利にあたろうと言っておきながら」

「言った記憶はないな。晴久殿がともにと言ってきたことはあったがそれに同意していなかったと思うのだが。なぁ、康広」

「尼子殿への手紙は某もすべて目を通しておりますが確かにそのようなことは言っておりませんな」

あ、そうだったんだ。尼子以外にも多くの大名に手紙を書いているから正直いちいち手紙の細かいところまでは覚えていないんだよな。よかった、本当に言っていないのであれば問題ないな。

「毛利も義久殿が尼子家の重臣を惟宗に送ったと知れば惟宗と敵対しないよう使者を送ってくる可能性はあるな。急いだ方がいいぞ」

「分かりました。今日のところは失礼させていただきます」

「朗報を期待しているぞ」

そうだ、適当な時期に門司城の1万の兵を引き上げさせよう。これで毛利は尼子攻めに全力を尽くすことが出来るようになる。尼子の尻をたたくにはちょうどいいだろう。

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