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天下

―――――――――――1562年6月10日 久留米城―――――――――――

「失礼いたします」

そう言って康広・盛円・盛廉が入ってくる。

「お呼びと伺いましたがいかがなさいましたか」

代表して康広が尋ねてくる。

「うむ、六角が三好と和睦をしたのは知っているな」

「はい。教興寺の付近で起きた戦で六角の同盟者の畠山が三好に敗れそれを知った六角が近江に撤退したと聞いています。完全な六角の負けですな。これで畿内に三好に対抗する勢力が無くなりました。これから三好の権勢は強くなるのではないかと」

「そうだな。大友の時のように内乱でも起きない限りそう簡単には崩れないだろう。もし俺が天下を目指すとしたら状況はかなり悪いな」

「天下ですか?」

康広と盛円が驚いたように俺を見る。そうだよな、今まで一度もそんなことは言っていなかった。それが急に天下なんて壮大、いや阿保なことを言い出したのだ。


「まさか御屋形様が天下を目指されるおつもりで」

「仮定の話だ。九州の石高は300万石以上、兵は8万以上を動かすことができる。さらに毛利と敵対すれば今以上に領地が増える可能性がある。しかしこれから大樹が天下を治めるにしろ三好やほかの大名が治めるにしろ、惟宗のような大身の大名の存在を許すとは思えん。必ず惟宗を潰しに来るだろう」

昨日検地の報告書が提出されたが想像していた以上に惟宗は大きかった。対馬だけでは潰されてしまうかもしれないと思って九州をとると言ったがまさかこれほどでかいとは思わなかったな。道理で7歳で壱岐攻めを始めたのに今はもう31になるわけだ。史実の織田は毛利を潰そうとした。豊臣は北条を潰した。徳川は何かしら理由を付けて減封や取り潰しにした。それが惟宗に起きないという保証はない。惟宗は史実の毛利や北条より大きいのだ。


「そのようなことになれば大戦になるだろうな。九州以外を相手にして勝てるかどうかは分からん。勝っても立て直すのにかなりの時間を必要とするだろう。そのようなことになるのであればいっその事惟宗が天下を取った方がよいのではないかと思うのだがお前たちはどう思う」

「それは・・・」

二人が顔を見合わせて考え込む。いかんな、変なことを聞いてしまったかな。

「御屋形様が天下を取るというのは管領になられるということですか」

「いや、大樹以上の地位につくか幕府を倒し新たな幕府を作る。日ノ本のすべての大名・国人を従えて惟宗当主を頂点とする新しい仕組みを作らねば天下を取ったとは言えないな」

「大樹以上にですか・・・」

盛廉が呟くように言う。不遜かな。幕府を潰すといっているのだ。そんなことは長慶もしようとはしていない。これから出てくるとすれば信長ぐらいだ。信長は本願寺と闘いながら幕府を潰したんだよな。本当にすごいよ。俺にはまねできないだろうな。俺がこれから天下を取るとしたら信長に幕府や本願寺をつぶさせた後に本能寺の変を起こさせて明智討伐を名目に攻め入るか、武田の西上作戦が史実より早く起きるよう働きかけてそれと同時に畿内に攻め入るぐらいしか思いつかない。それも成功する気がしないな。いかんいかん、今日はこんな話をするために呼んだのではなかったな。


「ま、まだ先の話になるだろう。それより目先の事だ。康広、政所執事の伊勢貞孝が先の戦で六角に味方したことで長慶に追放されそうになっていると聞く。それを阻止したい。弁護の手紙を持って京に行きなんとしてでも阻止せよ」

「はっ」

貞孝としては戦をするより京の治安維持の方が大事だと思ったのだろう。義輝が京から追い出された時も残って政所執事の仕事を続けていた。そのせいで長慶の怒りを買い、史実では更迭され今年の8月に挙兵するが松永久秀によって嫡男とともに討ち取られる。貞孝の幕府への絶大な影響力を考えるとぜひ味方につけておきたい。それと将軍の親政を目指す義輝や鎌倉幕府の北条氏のような立場を目指す三好の足を引っ張っておきたい。惟宗が中央に進出する足掛かりになってもらおう。弁護の手紙にはなんて書こうかな。貞孝殿は京の住民のために働いた、職務を果たしただけなのに処罰されるのは不当であると書いておこう。


「盛廉は少しずつでいいから開発等の仕事を盛円に引き継ぎ始めてくれ。引継ぎが終わったら盛円の補佐を頼む」

「はっ」

盛廉も随分と歳を取った。たぶん俺が天下をとれたとしてもそれを見ることはできないだろう。だが盛廉が主導して開発した技術や武器は惟宗繁栄のためにかなり役立っている。

「そういえば今は何の研究が進んでいるか分かるか」

「はい。いまは棒火矢が完成に近づいています」

棒火矢か。遠距離での攻撃を強化することができるな。棒火矢は原始的なロケット弾のことで江戸時代には射程が30町ほどあったと言われている。この時代の大筒の射程距離は8町程だからかなりの違いだな。本当にこの距離を出すことができるのであればだが。

「棒火矢はどれほど飛ばすことができる?」

「20町から25町程です。御屋形様が命じていた30町には届きませんが」

「いや、構わん。むしろよくやった。これで戦が大きく変わるだろう。とりあえずできるだけ多く生産するよう指示をしておいてくれ」

「はっ」

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