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村上水軍

――――――――――1561年11月30日 久留米城―――――――――――

「父上、失礼します」

仕事が一段落して休もうとしていると都都熊丸と母上が入ってきた。母上は鶴を抱えている。政千代が妊娠してから母上が鶴の世話をしているらしい。乳母とかに任せておけばいいのに対馬の小大名時代の癖なのか何でも自分でやりたがる。しかし珍しいな。都都熊丸は俺が暇そうな時を見計らってよく来るが母上が来ることはそうない。

「いかがした、都都熊丸」

「父上、そろそろ元服と初陣をしたいです」

なにかと思えば元服と初陣か。おおかた傅役たちにまだ早いと言われて母上に口添えを頼もうと思ったのかな。だが自分で言いに行けと言われた。康正の時は母上が言いに来てだめだと言われたからな。母上は心配で一緒に来たと言ったところかな。


「だめだ、両方ともまだ早い」

「そんなぁ」

「ほら、言ったでしょう。もっと学んでからにしなさいと」

都都熊丸は残念そうに声をあげて母上は笑いながら都都熊丸を諭す。

「しかし父上は12の時に元服したではありませんか。私も12になりました」

「俺の場合は政千代と結婚するための元服だったからな。あの歳での元服は必要があった。だがお前にはまだ必要はないだろう」

「では結婚相手を決めましょう。そうしたら元服してもいいでしょう」

「許嫁にして当分は結婚も元服もさせん。第一、お前は惟宗ほどの大大名の嫡男なのだ。そんな簡単に決めれるような立場ではない」

そう言えば確かにそろそろ決めないといけないな。舅殿は俺の子は多い方がいいから側室をとれと言っているが都都熊丸の正室も決めないと。というか側室なんていいんじゃないかな。面倒というのもあるけど俺が側室をとれば側室の一族が増長するかもしれない。史実の信長や家康はどういった基準で選んでいたんだろうか。確か何人か側室がいたはずだ。


「ではせめて初陣だけでもお願いします。父上だって今の私よりかなり幼い時に初陣だったではありませんか」

「あの時にはすでに当主になっていたからな。お前とは事情が違う。そうだな3年ほどしてからでよいのではないか」

「そんなぁ。鶴も何か言ってやれ」

「ちちうえのいうことをききなしゃい」

「鶴、お前もか」

都都熊丸どこかで聞いたことがあるような台詞を言って頭を抱える。仕方ない、このままだめだと言っていても不満が溜まるだろうから少し条件を付けるか。


「仕方ない。俺に将棋で勝つことができれば認めてやろう」

「本当ですか!ではすぐに準備します」

もちろん手加減はしないけどな。穴熊囲いで固めてなぶり殺しにしてやる。


―――――――1562年1月30日 因島水軍城 村上吉充むらかみよしみつ――――――――

「殿、能島の武吉殿が来られましたぞ」

部屋の外から吉之が声をかけてきた。武吉殿だと?珍しいこともあるものだ。

「すぐに通してくれ」

「はっ」

しかし何事だろうか儂の配下には能島に喧嘩を売るような馬鹿はいないはずだ。だとしたら毛利に近づこうとしているのだろうか。いや、あの武吉殿に限ってそのようなことはないだろう。最近は三好とも連絡を取っていると聞いている。では何の用なのだろうか。


「失礼するぞ」

そう言って遠慮する様子もなく武吉殿が入ってきた。

「武吉殿、珍しいな。今日は何の用かな。毛利への取次はいつでもしてよいぞ」

「ふん、来島も因島もすぐにどこかの下につこうとするな。儂は当分の間はこのままでよいわ」

やはり毛利に近づこうという訳ではないようだな。

「では今日は何をしに来た。まさか世間話をしに来たわけでもあるまい」

「それはそうだが・・・本当に心当たりはないのか」

「ん?いや、全くないが」

よく見たら武吉殿の目つきはかなり真剣だな。いったい何事だろうか。

「惟宗が戦の準備をしている」

「惟宗が?その話は聞いているが三好と六角・畠山の戦に参加するのではないか」

「いや、三好と惟宗が連絡を取り合っている形跡があるからそれはないだろう。それに戦の準備は水軍が中心となっている」

「水軍が?では毛利と戦をするつもりか」

三好と戦するのであれば水軍はあまり必要ないはず。惟宗が水軍を使って戦をするのであれば毛利ぐらいだろう。


「いや、毛利でもない」

「ではどこと戦をするつもりだ」

「お前だ。惟宗は因島水軍を討伐するつもりだ」

「は?何を言っている。我らが何かしたか」

惟宗からの使者は一度たりとも来たことはないぞ。

「儂の妻は来島の娘であるのは知っているな。その縁で惟宗に味方せよと使者が来ている。その者が言うには因島は帝への献上品を奪おうと惟宗の船を襲ったと」

「馬鹿な。惟宗の献上品を乗せた船なら毎年見逃しているではないか。さすがに儂でもそれくらいの配慮はするわ」

「だが沈めた船から因島の旗印が出てきたと聞いているぞ」

「そんな・・・」

ええい、どこの馬鹿がそのようなことをしたのだ。このままでは因島は滅ぼされてしまうぞ。


「すぐに毛利に報告して援軍を」

「毛利は既にお前たちを見捨てるつもりだぞ。惟宗の使者が言うには毛利は関係ないとの釈明の使者が参ったと。どうするつもりだ」

毛利が我らを見捨てただと。そういえばそろそろ尼子と戦が始まると噂で聞いたことがある。まさかそちらを邪魔されないように見捨てたというのか。

「すぐに釈明の使者を送らねば」

「無駄だ。おそらく惟宗はこれを理由に瀬戸内を掌握するつもりだろう。瀬戸内は畿内に物を送るのに便利だ。それがよその家に押さえられているのが不安なのだろう」

くそっ、戦しかないのか。

「それで惟宗に抗うのか、それともおとなしく攻められたら降伏するのか」

「抗うしかあるまい。皆を守るためにもな」

そう言えばなぜ武吉殿はわざわざこれを知らせに来てくれたのだろうか。このようなことをしても何も利益はないはずだ。

「よかろう。我ら能島は因島に味方する」

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