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鉱山

―――――――――1561年10月1日 久留米城 河野通宣―――――――――

「はぁ」

「殿、いかがなさいましたか」

通康が心配そうに小声で尋ねてくる。前を歩いている小姓には聞こえていないようだ。確か名前は千寿丸といったか。

「いや、何でもない」

何でもないわけがないだろう。降伏して以来、正月の挨拶以外では初めて呼び出されたのだ。いったい何が不手際でもあっただろうか、それとも何か言いがかりをつけられるのではないだろうかと不安で仕方ない。この間、惟宗主導の検地や領内視察が終わったばかりだ。もしも領内の城や地形を調べ上げたのが言いがかりをつけて攻めるための準備だったとしたら河野家は終わりだなぁ。検地や視察が入る前から家臣たちからそのような懸念があるのではと言われていた。もしこれで家臣たちの言っていた通りになったら心労で倒れてしまいそうだな。頼むから何も問題なく終わってくれよ。


「御屋形様、通宣殿と通康殿が参られました」

「そうか、入れ」

「はっ。失礼いたします」

そう言って御屋形様の部屋に入る。部屋の中は・・・書状やらいろんなものが適当に置かれていて意外と散らかっている。よく見たら石のようなものまである。

「千寿丸、人払いを頼む」

「はっ」

そう言って小姓が下がる。しかし人払い?どうやら難癖をつけられるとかではないようだが一体なんの話があるのだろうか。


「通宣、通康。よく来てくれたな。確か土佐攻めには来ていなかったから正月以来ということになるか」

「左様にございますな」

「領内や家中の様子はどうだ。関を廃したり年貢を下げたりしたはずだが」

どうやらそれなりに気遣っていただいているようだな。さすが九州の覇者といったところだろうか。なんというか余裕がある。

「御屋形様が様々な作物や技術を伝えて下さったおかげで何とかやっていけそうです」

「そうか。本山が少し不満を持っていると聞いたものでな。もし河野家でも似たようなことがあっては四国統治で何かと苦労しそうだと思ったが大丈夫そうだな」

いや、気遣いというより警戒されているようだな。本山が筑前志摩郡3000石に国替えになった。そのため河野家は惟宗直轄地を除けば四国最大の勢力で最も三好に近い。警戒されて当然だろう。

「もし四国にて戦がありましたら我らに先陣をお任せいただきたく」

「うむ、陸でも海でも河野家には期待している。しっかり手柄を立ててくれよ」

「ははっ」

しかしこれだけで終わりなのだろうか。これだけだったらわざわざ人払いをして話すようなこととは思えない。これから本題に入るのだろうか。


「ところで今日呼んだのは少し話が合ってな」

やはり本題があったか。厄介な話でなければよいのだが。

「話にございますか」

「そうだ。まずは分国法のことでだ」

分国法のこと?分国法というのは対州式目のことだろう。いまは惟宗式目とも言われている。何故そのことで呼ばれなくてはならないのだ?河野が違反したとしたら皆の前で咎めるはずだ。

「近々、新たな条文を追加しようと思っていてな。これは評定衆の者も同意している」

「それはどのような条文になるのでしょうか」

「惟宗の傘下に入っている土地の鉱山の採掘権は惟宗に帰属する、但し最初の3年間の取り分はその土地の所有者と半々とするというものだ」

「鉱山がですか?それは・・・」

それは反発もあるだろう。主要な鉱山は惟宗の直轄地にあるとはいえ小さいものはほかの国人や将の領地にもあるはずだ。そういえば視察の時も山師が付いて来ていたな。もっとも途中で見かけなくなったから脈無しと判断したのだろうか?


「分かっている。もしかしたら反乱を起こそうとする者が出てくるやかもしれん。それを抑えるためにも河野には少し協力してほしいことがある」

「えっ。協力ですか」

「なんなりと御命令ください」

協力とは何かを聞く前に通康がさっさと返事をしてしまった。どうせこのような話をされた時点で断れないのは分かっているがすぐに返事をするというのは不用心ではないだろうか。

「おぉ、そうか。河野ほど大きな家はあと阿蘇ぐらいしかないからな。都合上河野にしか頼めそうになかったのだ。引き受けてくれるか」

既に御屋形様はご機嫌のようだ。普段は感情を表に出されない方だと聞いているからよほど嬉しいのか断りにくい雰囲気を作ろうとしているのか。伝え聞く御屋形様の性格からして後者だろうな。あぁ、また心労に耐える日々に戻るのだろうか。


「それでどのような協力を」

いろいろ考えていると通康がさっさと先に進めようとする。

「先の視察の時に山師がいたのを覚えているか」

「はい」

途中で見かけなくなったがな。

「あれがかなり大きな銅山を見つけた」

「それはおめでとうございまする。金山に続き銅山ですか」

「あぁ。別子山で見つかったのでなければ素直に喜べたのだがな」

「別子山というと・・・河野家の領内ではございませんか」

近くに城はなかったが土佐と伊予の国境だったはずだ。ん?確か惟宗傘下の国人や将の土地で見つかった鉱山の採掘権は・・・


「先程話したように採掘権は惟宗に帰属する。だが反発は激しいだろう。だが惟宗傘下の者の中でも大きな河野が最も早くそれに従えばほかの皆も続くはずだ。今月中に惟宗傘下の国人や将を集める。その場で先程の条文追加の報告をすることになっている。そこで河野にはそこで別子山の銅山が見つかったこと、その採掘権を惟宗にゆだねると言ってほしい」

なんでそんな心労が溜まりそうなことをする羽目になるのだ。

「お任せくだされ。御屋形様のご希望の通りにして見せまする」

「おぉ、そうかそうか」

もちろん返事をしたのは通康だ。そう返事をするのが最もいいのだろうがそれを言うのは儂だというのに。

「では頼んだぞ」

「「はっ」」

「それでもう一つ頼みがあってな。これも河野にしかできんことだ」

えぇ、まだあるのか。儂を心労で倒れさせようという魂胆なのではないだろうかと思ってしまいそうだ。

「来年の朝廷への献上品を乗せた船を因島村上水軍の振りをして襲え」

「「は?」」

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