長宗我部氏
―――――――――1561年2月10日 岡豊城 吉田重俊―――――――――
「ふ、ふざけるなっ」
元親様の部屋に入ると元親様が叫びながら手紙を破かれていた。おそらくその手紙が来たことで呼ばれたと思うのだがいったい何事だろうか。
「殿、いかがなさいましたか」
「む、重俊か。惟宗から手紙が来た」
そう言って先程破かれた手紙を渡された。
「拝見します」
やはり読みにくいな。どれどれ。
「本山が惟宗に泣きつきましたか」
「そのようだな。しかしまさか和睦をと言ってくるとは思わなかったわ。よほど前の戦が堪えたと見える」
手紙には土佐一条と長宗我部は本山との和睦するべし。少なくとも3月までに和睦の交渉を始めるようにと書かれてあった。
「本山にとっては土佐一条家と誼を通じている惟宗が伊予を攻め取ったことで背後が気になって仕方がないのでしょう。実際に伊予には1万もの惟宗の兵がいますからな。いつどこに攻められるか戦々恐々なのでしょう」
「ふん、それでどうする。いかにふざけた提案とはいえあの惟宗の仲介だぞ」
「無視してよろしいのではないでしょうか。伊予の1万に増えたのは惟宗が三好に使者を送ってからです。おそらく何らかの交渉が行われて決裂したのでしょう。つまり伊予の1万は三好への備えでしょうからそれほど気にすることではありません」
「しかし惟宗の兵はあの1万だけではないぞ。確か大友攻めの時は5万の兵を動かしていたはずだが」
元親様がこちらを試すような目付きで見ている。下手なことは言えないな。
「仕方なく土佐一条家に付き合って戦をしていることにします。一条兼定様は惟宗のことを快く思っていないようですので今回の提案も拒否するでしょう。それに嫌々付き合っていることにすれば攻め込むとしても土佐一条家からです。和睦は土佐一条家が負けてからでよろしいでしょう」
「なるほど。和睦を蹴っても力を弱めるのは惟宗に攻められる土佐一条家と我らに攻められる本山だけか」
元親様はそう言って満足そうに頷かれる。
「では土佐一条家が惟宗の提案は受け入れないよう働きかけねばな」
「左様ですな。おそらく宗珊あたりが反対しているでしょうから早めに手を打って置いたほうがよろしいかと」
「はぁ、あまりあちらには行きたくないのだがな。俺が行ったほうがいいだろう。支度をしてくれ。それと戦の準備もだ」
「はっ」
―――――――――1561年3月1日 久留米城 北原頼氏――――――――――
「そうか、長宗我部は和睦をするつもりはないということか」
「はっ。戦の準備をしております。おそらく今月中には出陣するかと」
「面倒だな」
そう言われて御屋形様が溜息をつかれる。あまり土佐で時間を取られたくないということだろうか。
年が変わってすぐに本山から使者が来た。どうやら祖父の復讐を果たしたい長宗我部と御屋形様が伊予を攻め取ったことで土佐での勢力拡大を始めた土佐一条家に攻められかなり厳しい状況らしい。そこで土佐一条家と繋がりがある惟宗に使者を出したらしい。本山は援軍をと言ってきたが御屋形様は三好を刺激するようなことはしたくないと和睦の仲介をされた。
「土佐一条の方はどうだ。あれが和睦をすれば長宗我部もそれに同調すると思うのだが」
「宗珊などは和睦を主張していますが兼定は戦を望んでいるようです」
「ふん、どうせ長宗我部とは違ってまだ勝てていないからだろう」
「それもあるでしょう。それと土佐のことに御屋形様が口を出すのをあまり快く思っていないようです」
「土佐は土佐一条家のものとでも言いたいのなら馬鹿だとしか言いようがないな。少し脅しておいた方が良いかもしれん」
脅す?何をなさるおつもりなのだろうか。
「頼氏、出来るだけ早く土佐国中に噂を流してほしい。内容は長宗我部や土佐一条家が本山氏を攻めたら惟宗は大軍を率いて土佐を攻めるつもりだとな。本山領や安芸領にも流せ」
「はっ。それでも戦を行うようでしたらいかがしますか」
「その時は仕方がない。毛利や三好の備えを置いた上で土佐攻めを行う」
どうやら御屋形様は土佐攻めにはあまり乗り気ではないらしい。
「まずは水軍を使って土佐一条家や長宗我部の水軍や湊を壊滅させる。そこで一度降伏を促す。それに従わなければ肥後・日向・薩摩・大隅の兵を使って攻める。それだけの兵があればすぐに平定できるであろう。ま、おそらく土佐一条家なら水軍を動かした時点で慌てて降伏なり和睦なら言ってくるだろうな。そうなれば長宗我部も戦をやめるだろう」
「左様ですな」
長宗我部の当主の元親は初陣こそ遅かったがなかなかの器量と聞いている。引き際ぐらいはわかっているはずだ。
「頼氏、噂を流すのと同時に安芸氏に兵を出すよう交渉してくれ。南の海と北の伊予と東の安芸から攻めればすぐに終わるだろう」
「はっ」




