三好
――――――――1560年11月1日 飯盛山城 柚谷康広―――――――――
「お初にお目にかかります。惟宗国康が家臣、柚谷康広にございます」
「三好長慶である。面をあげよ」
「はっ」
長慶殿に言われて顔を上げる。なんだか神経質そうな顔だな。御屋形様とは違う意味で大大名の当主らしくない。だがこの方が三好をここまで大きくした。油断はできないな。しかしなぜ三好への使者に選ばれたのだ。御屋形様の命とはいえ俺以外にも康繁殿とか鑑速殿とかいるだろうに。康繁殿は尼子に、鑑速殿は土佐一条家に行っているとはいえだ。
「それで惟宗の重臣で幕府と朝廷の交渉を担当している康広が何の用かな。確か惟宗は伊予を勢力下においたと記憶しているがそのことかな。あれには驚きましたぞ。家臣たちも九州探題殿は三好と敵対するつもりなのかと一時大慌てだった」
「左様でしたか。しかし我が主は四国に進出しましたが三好様とは敵対するつもりはございません。ですが三好様がそのように誤解しては意味がございませんので某が説明と相互不可侵の約束を取り付けるために参りました」
出来れば来たくなかったがな。なんで天下人と言っても過言ではない三好の本拠地に行かないといけないんだ。
「それはご丁寧にありがたい。家臣たちはともかく儂としては九州探題殿の四国攻めは仕方がなかったと思っている。配下の西園寺が攻められたのであれば助けようとするのは当然のこと。そして不穏分子である宇都宮を滅ぼすのもまた当然のこと」
よかった。意外と理解のある方のようだ。やはり一代で勢力を広げたからか御屋形様と同じような考え方なのだろう。
「だが河野氏を降したことはどうも納得がいかない。河野氏は惟宗とはもちろん西園寺とも敵対していなかったと記憶しているがその辺りのことはどう弁明されるつもりかな」
「河野は宇都宮に与して西園寺攻めに協力しました。ですので河野を降すのは当然のことと心得ています。もちろん河野領を通って阿波や讃岐に攻め入るために降したわけではござらん」
「しかしの、儂としては幕府の忠臣である九州探題殿が先祖伝来の地に近づいてきていると聞くとどうも心配になってしまう。大樹がまわりにいる奸臣どもに唆されて儂を倒すために九州探題殿を利用するのではないかとな」
嘘吐け。そんなことを言っている割にはニヤニヤしているではないか。どうせ九州の田舎者が来たところで変わらないと思っているのだろう。
「もちろん大樹の事も九州探題殿の事も信用している。だが家臣たちを守るために用心をするに越したことはないからな」
「我が主は三好様と敵対するつもりはないと申し上げたはずですし、そのようなことがないようにするための不可侵の約です」
「えぇ、それは先程聞いた。だが言葉だけでは信用することはできないということだ。以前の上洛の際も儂に挨拶をしに来なかったしの」
これはここでは何も言質を取らせずに後になって難癖をつけて惟宗を攻める口実にするつもりということだろうか。それとも毛利とも敵対する可能性がある惟宗とは手を組むより毛利と争っている間に漁夫の利を得るつもりなのかもしれん。あるいは人質を要求するのか。だがそのあたりは御屋形様も予想されていた。
「では誓紙でも書きましょうか」
「いかに重臣とはいえ康広だけの誓紙では意味がないな。九州探題殿の誓紙がなければ」
「では我が主が書いた誓紙があれば問題ないということですかな。ではこちらを」
そう言って懐から紙を取り出す。それを小姓が受け取り長慶に渡す。
「それは何かな」
「我が主、惟宗国康が書いた誓紙にございます。三好様が帝及び大樹を害そうとしない限り惟宗が三好様の領地を攻めることはないというものです」
「なっ」
これにはさすがの長慶も驚いたようだな。まさかここまで用意がいいとは思わなかったのだろう。それにこういうものは書いたものが持ってくるはずだ。しかもわざわざ帝及び大樹を害そうとしない限りと言っているところが手厳しい。これでは御屋形様が害そうとしたと判断しただけで破棄できる。しかしこれを断れば三好は帝や大樹を害そうとしているのかと言われかねない。正直これを渡されたときは突き返したくなったな。
長慶はしばらく誓紙を食い入るように見つめていたがやがて顔を上げた。
「確かに確認させてもらった。ここまでして貰ったのであれば儂も誓紙を書こう」
「御理解ありがとうございます」
「しかしそれだけではちと足りんの」
「と言いますと」
まだなにか要求してくるつもりか。
「なに、不可侵ではなく同盟を結ぶというのはどうだろうか」
「は?」




