西園寺氏
―――――――――――1559年11月1日 久留米城――――――――――――
「お初にお目にかかります。西園寺実充が嫡男、西園寺公広にございます」
「惟宗国康だ。面をあげよ」
「はっ」
公広が顔を上げる。あまり武家らしくない雰囲気だな。どちらかというと公家に近い。まぁ、もともとは公家だったからそれもそうか。康正の婚儀の時に少しだけ話をした前嗣の方がまだ武家らしかったような気がする。
「それではるばる伊予からいかがした」
「御屋形様に援軍を送っていただくようお願いに参りました。今年に入りまして宇都宮氏が毛利の仲介で河野氏と和睦を結び、西園寺攻めに力を入れ始めました。このままでは我ら西園寺家は滅びを迎えることになりかねません。どうか数千だけでも援軍を送っていただけないでしょうか」
宇都宮が河野と和睦か。確か史実では宇都宮や一条や大友に攻められたりした後、長宗我部元親に降伏したはずだ。この歴史では宇都宮にしか攻撃されていないようだが河野と和睦を結んだことで全兵力を西園寺攻めにまわしているらしい。それにたしか鑑信が宇都宮に匿われていたはずだ。あいつはいつまで俺と敵対するつもりなんだろう。宇都宮が滅んだら次は三好か長宗我部か、あるいは一条かな。いや、一条はないか。俺が上洛している間に本山を攻めたらしいがぼろ負けしたらしい。そんな将来性のないところにわざわざ行こうとは思わないだろう。それに確か義鎮はもう四国を出ているはずだ。
「分かった。惟宗に従う西園寺を攻めるということは宇都宮は惟宗と敵対することを選んだということ。それを放置することはできん」
「では」
「できるだけ早く援軍を送ろう。とりあえず今年中に5000ほど。だがそれだけでは根本的な解決にはならないから来年の3月に宇都宮・河野討伐を行う」
「ありがとうございます」
そう言って公広が勢いよく頭を下げる。もしかしたら援軍を送ってもらえないと思ったのかな?そういえば少弐に援軍を求められた時はろくに送らなかったな。義鎮の時は見返りに筑後の半分をもらったし、薩摩の国人たちの時も初めはろくに送っていなかった。そのことがあったから、もしかしたら援軍を送ってもらえないと思ったのかな。
「援軍の総大将は舅殿に、副将は東時忠と秋月晴種に命じる」
「「「はっ」」」
伊予に兵を送るなら豊後からの方がいいだろう。それを率いるのは舅殿が適任だ。晴種は俺に付いたことで弟を死なせてしまったから重用してやらないとな。しかしあれは痛かったな。のちの秋月種実だから都都熊丸が元服して当主になった時に支えてくれる重臣になると思ったんだけど。ま、晴種が種実に負けないくらいの名将になってくれるのを期待しよう。
河野は三好の盾に使おうかと思っていたけど宇摩郡・新居郡に河野の分家の石川氏がいたはずだ。そっちを盾にするか。伊予は四国の中では石高は高かったはず。このまま毛利にくれてやるのも癪だし攻めよう。問題は三好だよな。三好にとって惟宗は六角と同じくらい危険視しているはずだ。なにせ京まで遠いとはいえ、惟宗は朝廷とも幕府とも繋がりを持ち8万以上の兵を動かすことができる。いまは義輝と和睦をしたからいいがまた三好討伐を呼びかけるのは目に見えている。この前会った時に言っていたことも三好は知っているはず。三好を討伐するために頼るのは六角と朝倉と惟宗といったところだろうか。そんな大名が自分の本拠地に近づいてくるのは面白くないはず。石川氏への援助は多少しても緩衝地帯として利用するために配下に加えようとはしないはずだ。俺としても敵対する可能性がある大大名と隣り合うのは毛利だけで十分だ。最盛期の三好と隣り合うなんて冗談じゃない。松永とか三好三人衆とか長慶の弟たちとやりあいながら毛利両川に備えるなんてとてもじゃないが俺の精神が持たない。せめて一つずつにしてくれ。
「ところで毛利や村上水軍の事だが宇都宮や河野にどれほど手を貸しているか分かるか」
「そうですね・・・毛利は和睦の斡旋等口は出していますが兵は出していないようです」
たぶんまだ和睦を破棄するつもりはないのだろう。もちろん俺が敵対行為だと判断すればそれで和睦は破棄だが出来るだけそれに触れないようにしながら邪魔しようとしているのかな。
「村上水軍は三島によって違う対応をしています。来島は河野の重臣として宇都宮を手伝っています。因島は毛利に最も近いので現在は小早川と行動を共にして伊予には関与していません。能島はほかの村上水軍とは違い独立領主として活動しているので毛利とも河野とも協力していません。以前は毛利に近づいていたようですが毛利の九州攻めが失敗したことを受けて距離を取り始めたようです」
同じ村上水軍なのに全然違うな。しかし能島水軍はこちらに引き込むことができそうだ。あとで頼氏に調略を命じておこう。
「そうか。うむ、よく分かった。今日はゆっくり休むとよい。伊予に戻るのは援軍の用意ができてからの方がよかろう」
「はっ。一日でも早い援軍をお願いいたします」




