大友降伏
―――――――――――1558年8月30日 大友館――――――――――――
「ええい、放さんか」
外で義鎮が暴れているみたいだな。勝良に連れてくるよう命じておいたけどさっさと追放しておいた方がよかったかな。下座に座る元大友家臣たちは恥ずかしそうに下を向いている。
毛利の別働隊と毛利水軍を撃退したとの報告を受けるとわざとそれが長野城に伝わるようにした。数日前に大友を撃退したと報告を受けていたからそれも同じころに伝わっただろう。そしてすぐに康広を隆景のもとに向かわせて和睦を結んだ。条件は九州からの全面撤退と今後一切の敵対行為の禁止。もしこれが守られないのであればすぐに攻め込むというものだった。正直、兵の数では勝っていても戦って勝てる気がしなかったから和睦を結べてよかったよ。その後はすぐに筑後の康胤と麻生討伐に向かっていた惟豊と合流して豊後に攻め入った。それと同時に内通を約束していた大友家臣たちが一気にこちらに寝返った。
有力なものでいえば一万田親実・吉弘鎮信・志賀親度・田原親賢・戸次鎮連だな。そして寝返らないが敵対もしないというものが吉弘鑑理・一万田鑑実・臼杵鑑続、鑑速兄弟・角隈石宗・吉岡長増・田北鑑生、そして舅殿。
もちろん奈多親子のように俺と敵対する方を選んだものもいる。特にキリシタンになった将は義鎮に味方していた。清田鎮忠・柴田礼能とかだな。本当に何かの宗教にはまってる武将は厄介だな。キリスト教を信じるうえで俺より義鎮のもとの方がいいと考えたのだろうな。別に何を信じようが差別するつもりはないんだけどな。結局義鎮についた将は討死するか自害した。ただし、鑑信だけは九州から逃げ出したようだ。たぶん、どこかの大名にまた仕えるのだろう。あいつはいつまで俺と敵対するつもりなんだろう。
豊後に攻め入ると義鎮は慌てて兵を集めようとしていたけど、多くの将が惟宗につくか中立になったのとその前に筑後に攻め入って受けた被害のせいであまり兵が集まらずあっさりと豊後を制圧できた。大友館は立てこもるにはあまり向いていないのですぐに高崎城に逃げ込んだがすぐに惟宗に囲まれて落とされた。その報告を受けると中立を保っていた家臣たちも降伏した。もちろん有名な武将ばかりだったから受け入れた。いやぁ、これで九州の名将の多くが惟宗の家臣か陪臣になったな。さっそく舅殿を兵法衆に、長増を兵站衆に、鑑速を外交衆に命じた。鑑続にはこれを機に隠居すると言っていたので相談役に命じた。これで人手不足も解消されればいいな。
「失礼します。大友義鎮を連れてきました」
勝良はそういって何人かで引っ張りながら義鎮を連れてきた。そういえば義鎮の顔は戦場でちらっと見かけたぐらいでまともに顔を見るのは初めてだっけ。何でこいつは見たこともないようなやつを敵対するまで嫌ったのかな。
義鎮は部屋に入れられると惟宗についた元大友家臣たちを血走った眼で睨みつけている。
「おのれ、よくも裏切ってくれたな。貴様らが寝返らなければこのような様にならなくて済んだものを。そんなにキリスト教を優遇したことが気に入らなかったか。デウスの素晴らしい教えを理解しようとしない愚か者どもが」
うるさいなぁ。弱い奴ほどよく吠えるなんてよくアニメやドラマで言っていたけど本当みたいだな。
「鑑連、やはり惟宗に寝返っておったか。貴様のような奸臣が大友家を滅ぼしたのだ」
「義鎮、そのあたりにしておけ。お前が何を喚こうが何も変わらんぞ。それにお前が舅殿に蟄居を命じたころはまだ中立ですらなかった。今回の戦でも舅殿は戦に参加せず、大友家の存続をと言っていた。そのような家臣に向かって奸臣とは愚かだな」
「うるさいっ。よくもまあ、俺をこのような姿にした元凶がそのようなことを言えるな」
元大友家臣を睨みつけていた義鎮が今度は俺の方を見る。
「貴様がおとなしく肥前と肥後だけで満足して大友家に取って代わろうなどと考えなければよかったのだ。そうすれば九州の覇者となっていたのは俺だったというのに」
いや、たぶんそれは無理だろう。それは史実で証明されている。
「言いたいことはそれだけか。ではお前の処分を言い渡す」
「俺を殺すか。そのようなことをしてみろ。末代まで祟ってくれようぞ」
血走った眼をしているがそこには若干の恐怖がある。やっぱり死ぬのは怖いらしい。
「そうしようとは思ったのだがな、舅殿たちに命だけはと頼まれた。それにお前を殺しても何も利点はない。むしろキリスト教徒は死ねば天国とかいう場所に行けるようではないか。そのようなことはさせん。処分は惟宗領からの永久追放と今後、大友当主と名乗ることの禁止。二度と俺の前に現れるなよ。連れていけ」
「はっ」
勝良が一礼してまだ喚いている義鎮を引っ張りながら連れていく。命が助かっただけ感謝してほしいんだけどな。念のため多聞衆に監視を命じておこう。
「我らの願いを聞き入れていただきありがとうございます」
舅殿がそう言って頭を下げるとほかの元大友家臣たちも頭を下げる。
「面をあげよ。それで疎意なく惟宗家に仕えてもらえるなら構わんよ。あとは舅殿が言っていた大友家の存続だな」
「はっ」
舅殿たちが緊張したような顔になる。義鎮を助けたから大友家存続の話なんてと言われると思っているのだろうか。
「政千代は大友家の養女として嫁いできた。つまり俺にも大友家を継ぐ資格はあるということになるな。だがもちろん俺が大友家を継ぐわけにはいかない。なのでいずれ次男が生まれ元服してから大友の家督を継がせようと思う」
「それがよろしいかと」
舅殿が安心したように頷く。
「ではさっそくだが皆には働いてもらうぞ。まずは鑑速。大友も南蛮との貿易をしていたと聞く。その貿易で何を輸入して何を輸出しているのか調べてくれ」
「はっ」
「次は兵站衆。兵站衆は領内の街道の整備を頼む」
「「「はっ」」」
「最後に智正と盛廉・舅殿で領内の検地を行え。徹底的に頼むぞ」
「「「はっ」」」




