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崩御と践祚

―――――――――――1557年10月1日 久留米城――――――――――――

「では、失礼いたします」

小姓が報告書の束を置いて下がる。なんだか年々多くなっている気がするな。ガラスとか時計とかいろいろなものに手を出しているからな。どれどれ、ガラスの方はあまりうまくいっていないな。日本でのガラス製造は平安時代に廃れたはずだから一から作ることになる。大変だな。


さて、こっちは康正からの報告だな。鉱山の方はなかなかうまくいっているようだ。たしか対馬の時からうちで働いているベテラン達を送っていたはずだ。報告ではこの調子でいけば去年の四割り増しの採掘量になる予定らしい。

史実の西日本では金より銀の方が使われていたらしいがこの歴史ではどうなるだろうな。たしかこのころの金銀比価は1:10ぐらいだったはず。これは高いのかな?安いのかな?ヨーロッパではもう少し銀の価値が低かった気がする。つまり日本で銀を金に交換してヨーロッパで銀に戻せば金に交換した銀の量より多くの銀をもらうことができる。ただ明や朝鮮は日本と同じくらいか銀の価値がもう少し高いぐらいだったはずだ。うーん、俺としては菱刈・串木野のおかげで金を多く持つことになるからヨーロッパの方の比価にしたい。だがたかが地方の大名ごときではそのようなことは言えないし・・・これは天下を目指すと決めてからか、天下人がある程度決まってからでいいか。もし天下人を目指して今のまま勢力を伸ばせば最盛期の織田と戦うことになるだろう。もしかしたら信長包囲網の中核になってしまうかもしれない。だけど俺は正直そんな真似はしたくないな。まずは大友から。天下は本能寺の変が起きたら考える。うん、そうしよう。


康正の怪我の方は順調に回復しているらしい。これなら来年あたりにでも結婚式を挙げることができそうだ。今年は帝が崩御されたから祝い事は避けた方がいいだろう。言継殿も分かってくれるはずだ。そういえば御葬儀はどうしたんだろう?正月に献上した金銀が残っていたのかな。けどかなりの金額がかかるはずだし。たしか後土御門天皇の時の葬儀代は一万疋だったはずだ。円にすると1000万円ぐらいだな。それくらいならなんとかなりそうだけどあくまで最小限の金額だからなぁ。ま、史実でも多分うまくいっただろうから心配する必要はないか。


こっちの報告書は康範からだな。康範には惟宗の水軍の統一を頼んでいた。惟宗も大きくなったからな。対馬の時から俺に従っている対馬水軍。壱岐攻めかその前の嫌がらせでかなり減ったがまだ存続している壱岐水軍。五島列島に本拠を置く五島水軍。坊津に拠点を置き、肥後攻めの時に少し邪魔をしてきた坊津水軍。古代から有力な水軍として有名な宗像水軍。これらがバラバラの指揮系統で動いていたら無駄が多そうだから惟宗水軍として統一する。そして康範を兵法衆から外し、宗像・五島を加えた3人で水軍の指揮をする水軍衆を作る。壱岐は数が少ないし、坊津は数年前まで敵だったから今回は外す。ある程度したら加えることにしよう。そのあたりの調節もうまくいったらしい。


そうだ、兵法衆に人を追加しないとな。康範は抜けるし、盛長は討死したし、勝利も都都熊丸の傅役で兵法衆としての仕事ができなくなるから兵法衆を辞退したいと言ってきた。それと盛廉が家督を譲ったから公事奉行も決めないと。誰がいいかな。公事奉行は譜代の方がいいだろう。智正あたりにするか。そして智正が今務めている寺社奉行を盛円にしよう。兵法衆は忠平を入れてみるかな。戦上手になるのを知っているというのもあるが兄より立場が上になることで兄弟仲を悪くすることができる。少しずつ島津の結束がもろくなればいいな。それから惟豊も兵法衆に入れよう。肥後の国人で評定衆に入っているものはいないからな。そうだ、家久を小姓として出仕させよう。人手不足も解決に近づくし、兄弟仲を築かせる前にこちらに引き取ることができる。あまりうまくいくイメージがつかないがいいか。


「御屋形様」

小姓が困ったような顔をして入ってくる。

「いかがした」

「先程先触れがありまして。山科言継様が数刻後にいらっしゃるようです」

「は?この城にか」

「はい。いかがしますか」


―――――――――――1557年10月3日 高良大社―――――――――――

「言継殿、お待たせいたしました」

謝りながら部屋に入ると人のよさそうなおじさんがニコニコしながら待っていた。このおじさんが朝廷の財政の最高責任者の山科言継か。一昨日に急に来たからとりあえず一昨日は久留米城とその周辺を案内して昨日は宴会。このおじさん、いい歳してなかなかの酒豪だった。清酒なんて水のように飲んでいたな。そしてそれに触発されて家臣たちも酒を飲みまくった。もともと九州人だからかほとんどの家臣は酒に強い。飲み比べなんか始めたものだから一気に城の酒が減ってしまったわ。ちなみに俺は下戸だ。たぶん前世の高校生の時から舌が成長していないんだと思う。前世から味の好みも変わらないし酒も飲めない。


「いやいや、それほど待っていませんぞ。昨日は楽しかったですな。麿も久しぶりに羽目を外してしまいましたわ」

「お楽しみいただけたなら幸いです。ところで昨日も一昨日も聞き損ねましたが今回の下向はいったいいつ決まったので?この間まで今川領に下向していたと聞いていましたが」

たしか今川でもかなりの量の酒を飲んでいたはずだが。この時期にこのおじさんが来たということはたぶん・・・

「実はのぉ。帝が崩御されたのは聞いておられるな」

「えぇ、いつか上洛したいと思っていましたので知らせを聞いた時には驚きました。御葬儀の費用は大丈夫でしたか」

「国康殿が毎年いろんなものを献上してくれている故なんとか。しかしのぉ」

「践祚ですか」

「それと御大典でおじゃるな。践祚の方は何とかなる。じゃが御大典の方が厳しい。特に大嘗祭は近年、即位されてから数年後になってばかりで。4・5000貫文ほど、何とかならんかの。行われるのは来年なのじゃが」

やっぱりか。来年なら鉱山の採掘量が増えているはずだ。何とかなるな。


「分かりました。来年の正月にいつもの献上品とは別に5000貫文、献金させていただきます」

「おお。さすが朝廷の忠臣。帝もさぞ御喜びになられるでおじゃろう。実はの、もし献金をしてもらえるのであれば国康殿に官位をと帝が仰せられていたのじゃが」

「いえ、某は偏に帝の御為にしているのです。官位は無用にございますよ」

「ほほほ、国康殿は無欲でおじゃるの。じゃがこれで官位を授けねば帝が恩知らずと言われてしまうではないか。受け取ってもらわねば困る。正五位上太宰大弐を考えているのじゃが」

このおじさん口がうまいな。ここで官位を授けなければ俺が朝廷を見放してしまうと思ったのだろうか。そんなことはないけどな。ま、安心させるためにも受け取るか。太宰大弐は九州を統治する太宰府の実質的なトップだ。


「それに康正殿にも太宰少弐をと考えている。どうでおじゃろうか」

「康正にもですか。しかし康正はまだ若年にございます。いささか早いのではないでしょうか」

「しかし鉱山の責任者は康正殿であろう。献金にも少なからずかかわっているということ。ならば官位を授けられてもおかしくはないでしょう。それに麿の娘を娶るのでおじゃるからそれなりの官位は持っていてもらわねばの」

「はぁ。分かりました。お受けしましょう」

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