出陣
――――――――――1538年8月1日――――――――――
俺が家督を継いで4年がたった。そう4年である。つまり今年は壱岐侵攻の年である。一応調略や武器を増やしたりとそれなりに準備はしてきた。
初めは4年も待たなくていいかと思っていたが家督を継いだ1年目から問題ばかりが起きた。特に先々代である将盛が反乱を起こそうとした時はかなり焦った。
家督を継いでから知ったことだが先代である親父は結構強引な手段を使って家督を継いだらしい。それで先々代は対馬の各地を放浪。そんなときに親父の隠居と幼い俺の家督相続。当主に返り咲く好機と思ったんだろう。家臣たちに自分につくよう手紙を送っていた。親父からその話を聞いて慌てて多聞衆に探らせたらすぐに引っかかった。幸いにもかなり早い段階で発覚したためその後の対応は楽だった。すぐに誰が裏切るかを多聞衆に探らせ、挙兵と同時に奇襲で討ち取った。ここで初めて鉄砲を使ったがまぁ面白いように混乱していたらしい。先々代を蜂の巣にしたとか。もちろん俺はお留守番だ。さすがに3歳児に初陣はさせないよ。
小田盛長と津奈調親が代わりに指揮をとった。調親は将盛の異母弟だったが将盛の事はあまり好きではなかったらしく自分から志願してきた。それとも自分の疑いを晴らすためかな。今回は鉄砲隊の指揮をとってもらったがその威力にかなり驚いていた。ぜひこれを使って戦をしてみたいなんて言っていたから鉄砲隊を任せることにした。調親は大喜びで年末年始も鉄砲に明け暮れていたよ。
反乱を抑えることはできたがまだ家中には将盛の影響力が残っていたらしく一部で俺に敵対する勢力が出てきた。もちろんこれらはすぐにつぶした。壱岐や松浦攻めの時に裏切られるよりかはましだ。これを片付けるにはそれなりに時間がかかったが今では対馬は完全に俺の支配下にある。これで背後の心配をしないで外に侵略できる。
今壱岐を支配しているのは波多氏というところらしい。当主は波多下野守興。松浦郡の東側に勢力を張る一族で最近は大内氏と同盟を結び、平戸の松浦氏や島原の有馬氏と婚姻などで友好関係を保っている。一応大内に邪魔されないよう偽書などを使って戦に出てこないようにしているが手間取ると援軍を送ってくるかもしれないから早い段階で波多氏を降伏させないといけないな。
「熊太郎様。皆が揃いました」
自室でこれからの流れを1人で確認しているといつもの小姓が俺を呼びに来た。どうやらこの小姓は爺の甥にあたるらしい。爺には子供がいないから相当可愛がっているとか。この前爺の弟の佐須盛円が愚痴ってたよ。
評定の間に着くと皆が鎧を身につけて頭を下げていた。
「面をあげよ」
「「「「「はっ」」」」」
「では、これより軍議を行う」
――――――――1538年8月5日 壱岐 波多下野守興――――――――
「殿!お待ちしておりました」
「うむ、出迎え御苦労」
儂が船から降りると日高資が出迎えに来ていた。
「しかし500もの援軍を連れてくるとは思いませんでした」
「もう少し連れてきたかったのだがな。時期が悪かったわ」
「仕方ありません。そろそろ収穫の時期ですので無理はできません。そのような時期に戦を仕掛けてくる愚か者もおりますが」
「宗熊太郎か・・・。しかし本当に宗は戦を仕掛けてくるのか。時期も悪いしまだ当主も幼いだろう。確かまだ七歳ではなかったか」
それともほかのものが実権を握っているのか。一番可能性は高いがそれだと余計この時期に戦を仕掛けてこなさそうなものだが。
「しかし某の配下に送ってきた手紙には八月に戦を仕掛けるとありましたので間違いないかと」
「そうか。それで例の場所におびき寄せることはできそうか」
「はい。立石に送られてきた手紙を見る限り大丈夫かと」
「ならば問題あるまい。すぐに追い払えよう」
壱岐に置いている兵は1000。わしが連れてきた兵を合わせれば1500。対して宗は1000ほど連れてくると言っていたらしい。十分すぎるくらいだな。
「そろそろ城に参りましょう。皆が待っております」
――――――――――壱岐 右城城――――――――――
「では、牧山舎人・下條将監・立石三河守・牧山善右衛門・下條掃部・松本右近・石志三九郎は戦に出ることはできないということか」
「はい。最近この周辺で妙な倭寇が出ておりまして・・・。退治しようとしたところを逆にやられてしまいその時のけがが治っていないとのことです」
「そのようなことがあったのか。それでは仕方あるまい。しっかり養生するよう伝えといてくれ」
「はっ。それと今回の戦が終わり次第その海賊どもを追い払っていただけないでしょうか。どうも我らの手に余るようでして」
「お主の程のものでもか。分かった、宗を追い払った後その海賊どもを追い払うとしよう」
しかし日高でも抑えられないとは・・・。いったいどこのものだろうか。宗像のものか宇久のものか。どちらも強力な水軍を持っている。しかし宗像は大内の配下、宇久は平戸松浦と誼を通じている。どちらも我らを襲うとは考えにくい。もしかすると宗との戦より手間取るかもしれんな。
「それより下條らが抜けるとなると兵が減ってしまいますな」
「それは問題なかろう。減ると言ってもせいぜい300ほどだろう。まだこちらの方が兵は多いうえに奇襲を仕掛けることができるのだ。万に一つも負けることはあるまい」
「左様ですな。しかしいつもながら殿の策はまこと素晴らしいですな。殿がいる右城城に裏切りによって火が放たれる。好機と見て攻め入ると突然の襲撃。さぞかし敵は驚くことでしょうな」
「ここまで我らの思い通りになるといささか敵が哀れではあるがの。この戦我らの勝ちよ」
次話は来週の金曜日に投稿予定です。今後ともよろしくお願いいたします。




