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手紙

―――――――――――1557年2月1日 久留米城――――――――――――

「御屋形様、皆がそろいました」

部屋の外から相良万満丸が呼びに来た。万満丸は今年の正月から小姓として出仕することになった。頼安がしっかり教育してくれたようで正月の挨拶はきちんとできていた。こちらを睨んだりしていなかったし、少なくとも義鎮よりは惟宗や俺に対する嫌悪はないみたいだな。まぁ、人の心の中なんて分からないから本当のところは分からないけど。史実では優秀だったみたいだし離反なんてことにならなければいいけど。

「うむ、すぐに行く」

「はっ」

一礼して立ち去る気配がした。さて、手紙を片付けて早く軍議に向かうとするか。


机の上で広がっている手紙は二通だ。山科言継殿からの手紙と一条兼定からの手紙だ。山科卿の手紙には畿内やほかの地方の様子の詳細が書いてあった。朽木谷に逃げ込んだ大樹の事や京を実質支配している三好長慶の事、義理の叔母が嫁いでいる今川の様子。俺が頼んだこととはいえかなり詳しく書いてあったのには驚いたな。この時代は情報がどれだけあっても損はない。お礼にしっかり献金をしないとな。


それから早く結婚を纏めたいが帝の体調がよくない、場合によっては嫁ぐのはまた来年以降になるかもしれないと書いてあった。そういえば今の帝は後奈良天皇だったな。確か今年の9月ごろに亡くなられるはずだ。今のうちに崩御と践祚の費用の準備をして置いた方がいいかな。今の帝の践祚が行われるまで10年ぐらいかかったらしい。そんなに時間をかけたくないから山科卿もわざわざ手紙に帝の事を書いていたんだろう。あとで茂通に確認しておかないとな。


一条兼定からは大友から味方するよう手紙が来たが土佐一条家にはそのようなつもりはない。今後一切、大友に対して援軍を送るなどはもちろん間接的にも敵対するつもりはない、それ故琉球との交易などで土佐一条家が不利にならないようにしてもらいたいと書いてあった。たぶん土居宗珊か飛鳥井曽衣に言われて書いたんだろうな。兼定はまだ元服したばかりのはずだから交易にまで考えが及ぶとは思えないし母親の実家と敵対するという決断を15歳の少年がするのは難しいだろう。

ま、味方にならないでも敵対しないならそれでいいや。あとは適当に多聞衆を使って土佐一条家が惟宗に味方する、義鎮が豊後から出たら九州に上陸して大友館を攻め落とすつもりだと噂を流せばいい。この間の戦の時に譜代・国人たちが代理しか出さなかったことで懐疑心が強くなっているはずだからそう簡単には豊後を離れることができなくなるだろう。その間に豊前を攻め取る。この間の康正の敗戦で大友に戻ろうとするやつがいるかもしれないからここで惟宗の武威をしっかり見せつけないとな。


―――――――――1557年2月20日 大友館 奈多鑑基―――――――――

「父上」

御屋形様より緊急の軍議を行うと知らせがあり急いで向かおうとしていると倅が後ろから声をかけてきた。ええい、このような忙しいときにいったいなんだ。だいたいお主も呼ばれているはずだろうが。

「いかがした。御屋形様がなぜ皆を集められるのかであれば儂も知らんぞ」

「そうでしたか。父上であればもしやと思いましたが」

倅が残念そうに溜息をつく。そもそも知っておればここにはおらんわ。儂が知っているのは御屋形様が異教の神に祈っている頃に小姓が大慌てで御屋形様の下に向かっていたということぐらいだ。


「それより父上は最近流れている噂を知っていますか」

「噂だと?いや、知らんが」

「土佐一条家が惟宗に味方すると使者を出したという噂です」

「土佐一条家がだと?まさか」

あそこには御屋形様の妹君が嫁いでおられる。そう簡単に惟宗に付こうとはしないはずだ。

「もちろんただの噂だと思いますが。ただその噂を御屋形様がどこかでお聞きになったら」

「土佐一条の討伐をと言われるだろうな。さすがにそれは止めねばならんな」

御屋形様が鑑連殿に蟄居を命じたことで重臣と言われる方たちは時折、仮病を使ったりして出仕しないようになった。それはまだよい方で石宗殿は隠居を宣言されたな。それには御屋形様も驚いて止めようとされていたが石宗殿はそのまま隠居をなされた。

「ここであれこれ言っても仕方がない。さっさと御屋形様の下に行くぞ」

「はい」


部屋につくとすでにだいたいは揃っていた。遅参を詫びて座ると御屋形様は周りを見渡す。

「うむ、揃ったようだな」

おや?鑑相殿・鑑実殿親子と鑑生殿がいないようだが。今日の仮病はあの三人か。全盛期の大友であれば御屋形様はすぐにでも粛清されただろうが今は衰退していると言わざるを得ない。そのせいであまり強引なことはできない状態だ。それも御屋形様の苛立ちを助長している。惟宗を破るか何かして一定の評価を得れば以前の強い大友に戻れると思うのだが。

「鑑信、説明を」

「はっ」

鑑信殿が御屋形様に一礼してこちらを向く。鑑信殿は惟宗を破ったことで一気に御屋形様の信頼をいただき、今では大友の家臣の中でも大きな発言力を持っている。出世争いでは少し先を越されたような気がするがまだ我ら親子の方が有利のはずだ。


「先程、惟宗に出陣の準備をしていると放っておいた忍びより報告がありました。その数は少なくとも3万とのことです」

少なくとも3万!?それは大友の最大兵力の倍ではないか。他の皆もかなり驚いている。

「当然攻め込むのは大友領でしょう。忍びの報告では豊前を攻め取ろうとしているとの噂が流れているようです」

「援軍は出されるので?」

倅が鑑信殿に尋ねる。我ら奈多氏は豊前の旧宇佐神宮領を奈多宮が管理するという形で支配している。援軍を出すとなると我らが総大将に命じられる可能性が高い。


「もちろんです。総大将は不肖ながら某が務めさせていただきまする」

良かった。とてもではないが儂や倅では勝つことはできんだろう。他の家臣たちも厳しい戦になると思っているはずだ。その証拠に鑑信殿が総大将を務めると言った時に皆が安心したような表情をしていた。

「しかし多くの兵を連れていくことはできません。今回集められている兵は肥前・筑前・筑後の兵だけです。あまり多くの兵を連れていくと肥後や日向より攻められる可能性があります。ですので連れていく援軍は5000だけとさせていただきます」

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