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真幸院

―――――――――1556年3月16日 飯野城 赤塚真賢あかつかまさたか――――――――

「敵が引いていくぞ」

門の近くで槍をふるっていると誰かがそう叫んだ。そういえば太鼓が鳴っていたな。あれは伊東方のものであったか。近くを見ると殿も槍をふるって敵兵をなぎ倒していた。

「殿、追撃いたしますか」

「おぉ、追撃はせんでよいぞ。援軍が来るにはまだまだかかるよってな。休める時に休んでおけ」

「援軍はもう出立したようですぞ。もうすぐ来るでしょうな」

「そうだったか。そういったものは貞真に任していたせいでようわからんわ」

いやいや、それでよいのだろうか。まぁ殿は治より武という方であるからそれでよいのだろう。

「しかし伊東の雑兵には戦が始まる前の威勢はないな。始まる前は島津など竹竿で追い払ってやるなどと抜かしていたようだが7000もの兵がいてたった1000人ちょっとの城も落とすことができんか」

殿、わざわざそのことを言わなくてもよいのではないですか。敵が逆上してこちらに向かってきたらどうするのですか。・・・いや、わざと敵に聞こえるように言っているのか。逆上して向かってくるとしてもせいぜい伊東の直臣ぐらいで雑兵は来ないだろう。むしろ敵の指揮官を効率的に討ち取る機会を得ることができる。もしかしたら先程の援軍が来る来ないの話もわざと敵に聞かせるために言っていたのだろうか。

「よし、城に戻るぞ」

「はっ」



城に戻って数刻後に軍議を行うと集められた。皆、鎧は薄汚れて顔には疲れが見える。やはり敵の方が人数が多いせいでかなり無理をしているのだろうな。

「おぉ、皆そろっておるな。ではさっさと軍議を行うか。貞真、援軍はまだ来ないか」

「はっ。先日使者として来た多聞衆の話では13日に久留米城の御屋形様の元に伊東・肝付が攻めてきたとの情報がもたらされたそうです。そこから兵を集めてこちらに来るとなると援軍は明後日以降になるのではないかと思われます」

「明後日以降か。兵糧の方はどうなっている」

「問題ないでしょう。少なくとも1ヶ月は持ちこたえることができます」

兵糧は問題ない。あとは兵たちの士気だな。それがあれば援軍が来るまで持ちこたえることができるだろう。何とかなりそうだ。

「しかし一つ問題があります。どうやら今回の伊東・肝付の挙兵は大友が裏にいるのではないかと噂が流れているようです。もし御屋形様がそれを危惧して多くの兵を筑前・筑後に置いていた場合は飫肥と我らのどちらを優先するでしょうか」

「それは・・・」

「我らは所詮は外様。対して飫肥は譜代だな」

貞真殿の言葉に皆が不安そうにつぶやく。何でまた、士気の下がるようなことを。

「何、心配するな。必ず援軍は来る」

殿が自信ありげに声をあげられる。

「惟宗は伊東や肝付・大友より多くの兵を持っている。大友の備えに多くの兵を置いていたとしても数万は動かすことができるだろう。皆が心配するようなことはない」

「だとよいのですが」

殿は自信があるようだがほかの家臣たちは不安げだ。あと数日もすれば分かるだろうがそれまでこの城が持つだろうか。


む、何やら外が騒がしいな。まさかまた伊東が攻めてきたか。

「申し上げます」

どたばたと城兵が入ってきた。

「惟宗より援軍が参りました。その数は1万以上。現在伊東の本陣を攻めておりまする」

皆がざわめく。これほど早く惟宗の援軍が来たことにも驚いたがまさか1万以上もの兵を連れてくるとは。

「ほら、言ったであろう。すぐに城からうってでるぞ」


――――――――――――――――同日 鉄山――――――――――――――――

「御屋形様、城から島津勢が出てきました」

「そうか、ここで伊東義祐を討ち取るつもりで攻めさせよ。一応阿蘇らに伊東領を攻めさせているとはいえここで討ち取った方が楽だ」

「はっ」

勝良が一礼して伝令を走らせようとする。しかしうまく背後をつくことができたな。他の隊もうまくいっているといいな。


今回は大友に備えながら伊東・肝付を潰すので隊を本隊と三つの別働隊の4つに分けた。一つは2万の兵が筑前・筑後にとどまり大友の裏切りに備える。この隊は康正と康正の傅役たちと康興に任せている。大友が攻めてきた場合はすぐに反撃して豊前を攻め取る、余裕があれば豊後の日田郡まで攻めるよう指示している。一つは8000の兵を率いて肝付に攻められている飫肥の救援だ。この隊は盛廉が率いている。自分の弟が攻められているからか、かなり急いで行っていたな。本隊は15000の兵を率いて島津忠平が守る真幸院の救援。最後の別働隊は7000の兵を率いて土持領を通り伊東領を攻める。この隊は阿蘇の当主の阿蘇惟豊あそこれとよが率いている。甲斐宗運がいるからたぶん大丈夫だと思うけど念のため時忠・斉時兄弟を付けておいた。あの二人がいるからそう滅多なことはないだろう。


おそらく義鎮が俺を攻めると言ったら重臣たちは一部を除いて反対するだろう。反対された義鎮はどうするかな。やめにするか反対した重臣たちを押し切って出陣するか。たぶん後者だろう。そうなると碌な将が参加しないことになる。まぁ、調略してそうなるように仕向けたんだけどな。そんな大友なら十分勝てるだろう。あとは伊東・肝付討伐が終わってからだ。ようやく九州統一の終盤戦だな。しっかり気を引き締めていかないと。

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