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08.

「やはり、何かを消費して得ている力ではないのか」


 難しい顔をしていたフェイロンが不意に呟いた。そこに同じ人外であるコルネリアもまた同意を示す。


「ハッキリしたな。珠希のこれは体力を使う物理的な行為でも、魔力を消費する魔法でもないって事だ。まあ、それが分かったからって何になるわけでも無いけれど」

「威力の程によっては、人間の頭蓋くらいならば握り潰せるのではないか?」

「本人にそんな度胸があればな」

「それもそうか」


 魔力だの体力だので不意に思い付いたが、そういえば確かに疲れにくくなっている。以前、現代日本にいた頃ならスライムの核を潰すなんていう、針の穴に糸を通すような作業なんて試みただけでどっと疲れていたはずだ。

 しかし、今はどうだろうか。目は遠くの小さい物を見すぎて少しばかり疲れているが、身体的或いは精神的な疲労感はほとんど無い。スプーン曲げ如きで息を切らしていたのが嘘のようだ。


 ――いい加減、いつまでここにいるのかも定かではないのだから、身を護るという意味でもどの程度自分の超能力が役立つのかを検証した方が良いのでは無いだろうか。


 脳内の片隅、酷く冷静で現実的な部分がそう囁く。

 恐らく、その冷静な自分が言っている事は至極正しい事なのだろう。けれど、現実を直視したくない感情的な部分が、不意に思い付いた正論に蓋をする。


「珠希? ちょっといい?」

「え? ああ、何、コルネリア」


 自称相棒は相も変わらず何か企んでいるような笑みを浮かべていた。それに一抹の不安を覚えつつも応じる。


「お前ちょっと、あたしを浮かせてみろよ。王都の図書館で、本を浮かせた時みたいに」

「ええ……? 嫌だよ、流石に疲れそうだし」

「あたしが負ぶって戻ってやるから安心しろって。忘れがちだが、あたしは魔族なんだから。そのくらいおやすい御用だ」


 その派手な色の爪を見れば嫌でも彼女が魔族である事は思い出すので、忘れた事は無い。まるで物忘れが激しいかのような誤解を生む発言は控えて欲しいものだ。


「それに、何でいきなり私の超能力検証?」

「いやだって、お前それ、普通に考えて上手い事使えたら便利だろ。逆に何でそんな便利な力を放っておくんだ」


 珠希は無言で手の平をコルネリアに向けた。先程のスライムで少しだけ力の使い方に関して、上手く調整出来るようになった気がする。


 ふわり、コルネリアの両脚が地面から浮いた。自分でやっておいて何だが、その事実に驚愕し、集中力が途切れる。途端、彼女の身体は重力に従って地面の上に着地した。


「よーしよし、やれば出来るな!」

「その辺で止めておけ、コルネリア。体調を崩したらどうする」

「いいじゃん。一度そうなるまで試してみれば。どの程度力を使ったら無理をしてる事になるのか、珠希には知る必要があるだろ」


 まだやる気なのか。

 あまり、こちらへ来て能力の質がアップした件に関しては触りたくなかったが、堪らず珠希は口を挟んだ。この実験じみた検証活動がこれ以上長引くのは精神衛生上よろしくない。


「ねぇ、あのさ。私、元の場所にいた頃は頻繁に力使ってたけど、疲れた時は動悸とか息切れとか、全力疾走した後みたいになってたよ。今は全然そんな事ないから、疲れるまでやってたらいつまで検証しなきゃいけないのか分からなくなると思う」


 フラッシュバックする。暑い光を放つ証明、何に使うのか皆目見当も付かない器具、大勢のスタッフ――そういえば、女子高生超能力者とか持て囃されていたな。ずっと遠い、昔の話のように思えるけど。


 フェイロンの双眸が鋭く細められた。若々しく見えはするが、やはり数百年を生きる長寿種族。不意に見せる老獪な表情は、外見とのギャップで心臓に悪い。あべこべで、ちぐはぐだからだろうか。


「アーティアに来て、力が落ちる事はあれど、力を逆に得たのか。謎よな、そのあたり」


 俺はよく分からないけどさあ、とダリルが冗談交じりに言葉を紡ぐ。


「俺は、珠希ちゃんは召喚事故でここに来たと思ってるんだけど、事故った時に何か変な物と混ざったとか? とはいっても、俺は召喚術なんて使えないけど」

「召喚事故という説はイーヴァがかなり否定していたな。かなり最初期にそれはあり得ない、などと言っていた気がする」

「だよな。まあ、俺の意見よりはイーヴァちゃんの意見の方が正しいと思うぞ」

「否、柔軟な思考回路が物を言う領域に踏み込んでいるのかもしれぬ。我々のような頭の堅い連中には到底思い付かぬ事情、そこに真実があるからこそ、理由がはっきりせぬのかもしれんな」


 事故にせよ、或いは計画的だったにせよ、動機を知り得なければ真実にはたどり着け無い。ダリルの言い分が正しいにしても、何故自分のような取り柄も無い女子高生を喚ぼうと思ったのか。


「深く考えたって無駄さ。人は単純な生き物じゃない。他人であるあたし達が想像しているより、ずっと多くの事を考えているものさ。その中から一つを掬い上げようだなんて、砂漠の中で一粒の砂金を探すようなものだ」

「道理だな。どのみち、故意に召喚されたのであれば、その召喚師に会う事にはなるであろうし、世界の枠組み事情であるのならばこのまま帰れぬかもしれん。ようはそれだけの事だ」

「それだけ、って……。私、帰れなかったら困るんだけど」

「そこはそれ。自然の摂理は一個人の主張を重んじぬ。災害に遭うようなものよ。諦める他ないであろうな。主が帰ろうとする意思は否定せぬが、先達である俺の言としてはそろそろ現実と向き合う事を勧めるぞ」


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