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15.

 声を掛けるべきか背を向けて逃げ出すべきか。相反する二つの行動が脳内でせめぎ合っている。

 ――が、先に動いたのはぐったりと蹲っていたフリオだった。

 ギョッとして固まった珠希を飛び越えた背後を睨み付けるように見つめている。が、やがてふらりと立ち上がった。覚束無い足取りではあるが、一歩こちらへ足を踏み出す。


「――チッ」


 漏らしたのは舌打ち。そんな彼の頭には先程まで髪に埋もれて全く分からなかった三角形の獣のような耳が立っている。犬や猫が音を拾った時のように耳の向きが二度、三度と変わった後、フリオは唐突にくるりと踵を返し、珠希を放置したまま木々の隙間へと消えて行った。

 ――え、えー……、行っちゃったよ。今からどうすれば良いんだ私は。

 危機を脱したが、か弱い女子高生である自分はこの状況だと遭難して一生を終える事になりかねない。どうにかしてイーヴァ達と再会したいが、どこをどう走って来たのかも不明。どちらへ行けば仲間達と合流出来るだろうか。


「おや、逃げられてしまったか」

「うわっ!?」


 全く唐突に右肩に何か触れた上、頭上から聞き覚えのある声が鼓膜を叩いた。見上げればフェイロンがフリオの走り去って行った方向を凝視している。イーヴァとダリルの姿は見当たらなかった。


「し、死ぬかと思った……!」

「今回ばかりは俺も肝を冷やしたぞ、珠希よ。しかし、音を立てずに近付いたつもりだったが逃げられてしまったか」

「厚かましいお願いかもしれないけど、私の事見つけたならもっと早く助けに来て欲しかった」


 俺もそう思ったのだがな、とフェイロンは軽い溜息を吐く。


「途中までは全力で走っていたのだが、あの混血が急に足を止めたのでな。どうせなら、捕縛しようと思った故、不意討ちを狙ったのだが――気付かれてしまったようだ!はっはっは!」

「何か急に具合悪そうになって……持病とかあったのかな。悪い事したなあ」

「平和ボケも良いが、あのまま攫われていればどうなったか分からぬぞ。あと、奴は主のルーツを知っている可能性があった。捕らえる事に成功していれば、帰れたやもしれぬのに」

「た、確かに!そこまでは考えてなかった!」


 そもそも、誘拐犯を逆に誘拐しようなどという発想は現代人には無いだろう。完全に発想の転換。恐らく自分には逆立ちしたって思いつかないアイディアである。


「あれ、ダリルさんとイーヴァは?」

「ロイを見ておる。女の方がどこへ行ったか特定出来なかったからな、一人だけ放置するわけにはいかなかった。まあ、ダリル殿はこの場所での戦闘は分が悪いだろうし、いてもいなくても変わらん」


 確かに木々が立ち並ぶこのフィールドであの死ぬ程嵩張りそうな大剣を振り回すのは無理がある気もする。

 それにしても――フリオが急に具合を悪くしたのは何故だろう。持病という線が一番強い気もするが、それ以前にこっちはタックルを繰り出している。まさか、頭突きが人体の思わぬ部分に思わぬダメージを与えた、なんて事は無いだろうか。それとも、まさか、超能力の一種?そうなら気をつけて使わないと、いつか人を怪我させてしまう事になりかねない。


「イーヴァ達と合流するぞ、珠希。一応聞くが、その擦り剥いた膝はどうする?」

「どうもこうも……どうしようもないね、こんなの」


 今まで気付かなかったが、膝小僧をガッツリ擦り剥いている。盛大に膝を突いたり、フリオに一瞬とは言え引き摺られたから、その時だろう。


「治してやっても構わんぞ?どうする?」

「え、そんな事出来るの?いやでも、私よりロイくんを先に治してあげた方が良いんじゃない?」

「ロイは頭を深く切っているようでな、そもそも俺は魔法向きではないし、手の施しようがない」


 万能ではないらしい。興味もあるし、風呂に入った時しみそうなので治せるのならお願いしたいものだ。


「じゃあ、お願いします」


 言葉を言い終わるや否や、目に優しい緑色の光を帯びたフェイロンの左手が患部に触れる。カサブタが出来た時の痛痒いような感覚。しかし、それも数十秒で消え失せる。1分が経つ頃には膝小僧の擦り傷は綺麗に消えていた。


「おおおお!?マジか!くっそ便利じゃん!」

「……うむ、イーヴァが主に魔法の類を見せると良い反応をすると言っていたが、ちょっと引くな」

「引かないでよ!日本人にこれやってみ?みんなこのくらいのリアクションするって多分!」


 無駄に感動しながら立ち上がる。勿論、治して貰った膝は当然の如く全く痛まない。何て素晴らしい技術なんだ。超能力とか要らないから、これが出来るようになりたい。


「それって私でも出来る?」

「うん?まあ、人間のほとんどは無理であろうな。今の傷を癒すだけで、普通の魔力容量しか持たぬ人間は眩暈を訴えるぞ」

「コスパ悪い!」


 迷いのない足取りで木々の間を通り抜けて行くフェイロンの背を追い掛ける。そういえば、こんなアクティブに動いているフェイロンは出会って初めて見たかもしれない。


「それで、この後の話なのだがな。当初の予定通りルーナの街へ行き――まずは、ロイを診療所へ運ばねば」

「そうだね。というか、のんびりお喋りしてる場合じゃなくない……?」


 やはり300年生きているおじいちゃん。やっぱりどこか呑気なものだ。


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