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神々のディストピア  作者: カブヤン
人の国篇 序章 神殺しの槍
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第21話 回る車輪

 大きな声だった。何重にも重なる大きな大きな声だった。


 歓声だった。人々の歓声だった。


 たくさんの人がいた。誰もが煌びやかな服装をして、綺麗な靴を履いて、綺麗な装飾品をつけて。


 彼らは王都の民だった。皆一斉に歓声を上げている。彼らの眼下にあるのは半裸の二人の男。


 男たちは戦っていた。右手には戦斧。左手には盾。男たちは斧を振り下ろし、斧を防ぎ、必死に戦っていた。必死に。必死に。


 斧が盾に叩き付けられる毎に、歓声があがる。そこは巨大な闘技場だった。


 大きな大きな闘技場、数万の人が一堂に会することができる円形の観客席。その中心で、闘士たちは戦っていた。


 一人の男が叫んだ。もう一人の男も叫んだ。


 一人は斧を振りかぶった。もう一人は盾を突き出した。


 盾に押され倒れる男。倒れた瞬間にその男は悟ったのか、眼を閉じた。


 振り下ろされる戦斧。容赦なくそれは倒れた男の頭に突き刺さる。


 飛び散る脳漿。飛び散る血。


 観客たちは立ち上がり、叫んだ。大きな声で叫んだ。歓声と言うよりもそれは、絶叫だった。


 王都の民は上級の民である。国民たちによって支えられる上級の民である。


 彼らは飢えていた。生きることに飽きていた。あまりにも恵まれていて、あまりにも幸せだったから、彼らは生きていることを忘れてしまっていた。


 生を感じたかった。だから彼らは、人の死を見に来た。闘技場に足を運んで、人が死ぬのを見に来ていた。


 だから彼らは、勝者に対し賛美の言葉を送ることはない。観客たちは誰一人、勝者を見ることはない。



 ――そこにいる人々は誰しもが他人の血を見て、生を感じたいのだ。 



「あはははは! 凄い凄い! 盾をあんな風に使うなんて! ねぇあの勝者の名前は!?」


「戦士ラギルダです。身体も大きく、知能も高い。剣闘士の中で今最も脂がのっている男です」


「へぇー! 凄い凄い! ねぇ、彼についてもっと教えて!」


「はい。彼は元テンプルの騎士でしたが、訓練時に謝って仲間を殺してしまい、剣闘士にまで落ちた男です。闘技場成績は現在まで12戦全勝。今の闘技場で最も強いとされている男です王女様」


「騎士! 最強の騎士! まぁ素敵! まるで物語の主人公ですわ!」


「ははは。王女様は剣闘が本当に好きですな」


「だってこんなに楽しい事他にないんですもの! ああもっと、もっとすごい戦いが見てみたい! もっと、もっと! はははは!」


 高笑いが響き渡る。今日もまた始まったと、人々は苦笑する。


 闘技場に立つ男が戦斧を高く掲げた。笑う赤髪の王女に向かって、勝者は高らかに吠える。


 血に飢えた人々。爛々と輝く瞳。



 ――生を感じるために死を感じる。それもまた、人の罪。



 同刻、王都から遠く離れた街道で。


 回っている。車輪が回っている。カラカラとカラカラと、車輪が回っている。


 広がる草原。揺れる木々。舞う鳥。


 日の光を浴びながら、馬車が走っている。馬車を引くのは巨大な白い馬。


 よく見ればその馬には片方だけ翼がある。それは巨大な天馬だった。巨大な天馬が大きな馬車を引いていた。


 カラカラと、車輪が回る。天馬の手綱は誰も持っておらず――――


「あのぉアルクァードさん……手綱ほっといていいんですか? ずんずん進んでますけど……」


「いいんだよ。どうせ一本道だ。アガト大丈夫だよな?」


「ブルルル」


「ほら、大丈夫だとさ」


「えぇ……首横に振ってますけど……」


 少年リオンは、不安そうに馬車の天幕から天馬アガトの背を見ていた。馬車に繋いではや半日。アガトは手綱の操作を受けず独りでに馬車を引いて歩いていた。


 道は真っ直ぐ。どこまでもどこまでも続いている。途中すれ違う旅人は、その巨大な天馬を見て自ずから身を躱していた。


 遠くで天馬を指さす者がいた。その顔は驚きと、喜びで溢れていた。


「リオン」


「え? どうしたのミラちゃん」


「パン。あと一個だから」


「あ、うん、ありがとう」


 ミラは相変わらず凍ったままの表情をして、リオンに半分に割ったパンを渡した。もう半分は自分の手の中。


 もそもそと二人はパンを食べる。決しておいしいパンではなかったが、それでも二人は口に入れていった。


 食べれるときにしっかり食べる。どんなに不味くてもしっかり食べる。農村で農奴として生きてきた二人にとってそれは当たり前のこと。子供ながらに身についた、性。


 その姿を微笑ましく見ている者がいた。青髪の女。聖女を辞めたユーフォリア。嬉しそうに、楽しそうに、彼女は笑っていた。


「ねぇアルク」


「ああ? どうした?」


「楽しいね」


「何だって?」


「ううん、独り言」


 腰を少し浮かして、ユーフォリアはアルクァードの傍に腰を寄せた。アルクは何も言わずそれを受け入れる。


 肩を並べて二人。アルクは傍に置いてあった火砲を手に取り引鉄を引いた。かちりと手元で音が鳴った。


 日が傾いてきたのだろうか。西へ向かう馬車に暖かい日差しが差し込んで来た。太陽に照らされて、ユーフォリアはアルクの足に手を置いた。


 もう一度、火砲の引鉄が引かれ金属音が鳴った。


「あなたたちさぁ……そういう仲?」


 大槍を抱えるメナスが呆れたような顔をしてそう言った。ユーフォリアがふと顔を赤らめ、手をアルクの足からおろした。


「飽きれた。見損なったわアルク。この浮気者」


「てめぇ関係ねぇだろうが。そんなんじゃねぇよ」


 火砲を床に置いて、アルクは脚を伸ばしその場に横になった。大きな体格の彼が横になったことで、馬車はかなり狭くなった。


 ユーフォリアが不満そうに小さな声でアルクの耳元で呟いた。


「あのさぁアルク……あの人、誰? 銀髪に赤目って、あんな人種この辺ではみたことないんだけど、どこの人……? 助けてもらってなんだけどなんか馴れ馴れしくない……?」


「聞こえてますよー欲求不満の聖女様。ごめんねぇー馴れ馴れしくて。性格なの」


「うっ」


 居心地が悪そうに、座り直すユーフォリア。アルクはそれを聞いて、苦笑していた。


「メナスはアルカディナの姉さんだ」


「え……? も、もう一回お願いアルク」


「軍神の子。神の剣メナス。紛れもなく本物だぜ。まぁ、アルカディナにほぼ全殺しにされて神器まで壊されて、未だに死にかけだけどなこいつ」


「傷は治ってるからそんな風に言わないの。お姉さん泣いちゃうぞ」


「は? え……ええ!?」


 馬車の中にユーフォリアの声が響いた。ポトリとリオンのパンが落ちる。ミラは構わずパンを口に入れ水を飲んでいる。


 寝転がってその反応を楽しむアルク。メナスが大きく溜息をついた。


「ちょ、ちょっと待ってメナスってあのメナスなの!? 七神の長メナス!? あ、違うメナス様!? 何でここにいるの!?」


「いやぁそのーいろいろありまして。はははー……まぁ隠すようなことじゃないけどさぁ。もうちょっともったいぶってよアルク」


「うるせぇよ。そんなもったいぶることじゃねぇだろうが」


「ちょっと……ど、どういうこと? 説明、説明してよアルク!」


「ああ? 面倒くせぇな……おいメナス説明してやれ」


「えぇ……うーん……まぁいいけど……えーっとねぇー……」


 メナスは大槍を床に置くと、その槍の穂先を軽くこつんと叩いた。金属音ではない、何とも言えない甲高い音が馬車の中に響き渡った。


 床に落ちたパンを拾い、息を吹きかけてから噛り付くリオン。アルクにもたれかかって座っていたユーフォリアはしっかりと座り直し、緊張した面持ちでメナスをみた。


「天界にいた全能神が老衰で死んで、魔神がラッキーって感じで天界統一するために暴れ出して、軍神と戦争になって、やばいっていうんで全然帰ってこないアルカディナを迎えに来たら大喧嘩になって殺されかけて、っていうか殺されて、天馬と神器無くして帰れなくなりました。以上」


「おい。もうちょっと詳細を」


「全能神はこの星が産まれる時に産まれた神で。星そのもので。背がお城ぐらい大きくて。指一本で大陸を割ることができて。すごーく強い神だったけどでも歳には勝てなくて、享年50億と7000万……」


「そこじゃねぇよ。もっと後ろ。何千年前の話なんてどうでもいいんだよ」


「天界ナンバー2の魔神が全能神が死んだことで喜んじゃってさぁ。大体千年前かなぁ。私たちの領域に進攻しだしてさ。天界統一だーって。三柱で保っていた天界のバランスがぁー」


「ちっ……もういい面倒くせぇ」


「ふふ、まぁそういうこと。簡単に言えばね。わかった聖女様」


「は、はぁ……あと私聖女じゃないのでもう……ユーフォリアでいいですメナス様……」


「メナスでいいって。どうせ神格も無くしたし、身体の強さもあなたたちとそう変わらないから……はぁ……いきなり落ち込んできた……ああ私の神器……私の剣……何分の一よ今の私……」


 膝を抱えて馬車の隅に移動するメナス。その背からは黒い影が見えるかのようだった。


「アルクって、誰彼構わず神様見たら襲い掛かるんじゃないんだ……」


「狂犬か俺は。まぁ否定はしねぇが。こいつはもういいんだよ。俺が殺したいのは、あの一撃を撃った奴だ」


「一撃……?」


「まぁ、そのうちな……さぁてぇ……」


 起き上がるアルク。そしてアルクは、真正面に見える太陽を見た。もう空は赤く染まり始めている。夜が訪れる。


「数日あればじじいのいる場所だ。テンプル騎士団は神の配下。とりあえず、そこからだな。探り入れるのは」


「うん。王都も気になるけど、まずはテンプルかな。あんなに無茶する集団じゃなかったし、何が起こっているのか確かめないと」


「今度こそ神に会いたいもんだ。ちゃんとした、神にな」


 馬車は進む。車輪は回る。カラカラと、カラカラと、石を弾いて土を弾いて、彼らは進む。


 進む。目的地に向かって。ゆっくりと着実に進む。


 進む先にある夕日は、彼らを赤く染めていた。

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