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イーディア・クロニクル~笛吹き男と女神の血涙~   作者: ミズノ・トトリ
2章 運命は交錯し
8/32

ネーポルの休日 

5月5日 午前10時45分

ネーポル市 北東の端 『ネーポル・ガレリア』


 マルフィ駅からシャトルバスで北へ20分、3つの小高い丘に囲まれた盆地に、市内最大規模のショッピングモール『ネーポル・ガレリア』はある。

 戦後の復興事業の一つとして設けられた、広さ10万㎢、屋上と地下を含め6階建ての複合商業施設だ。

 建物は、凹と凸に湾曲した2つの棟が東西に並び、凹方の東棟(イーストウィング)は衣食住の各種販売店が集う商業エリア、凸型の西棟(ウェストウィング)はフードコートやゲームセンター、催事場(さいじじょう)からなる娯楽エリア、という風に区分けが成されている。

 とは言いつつ、搬入路や屋上のヘリポートを除き、一般の出入り口は全て東側に集中しており、イベント目当てで来た客たちも、一度は商店の立ち並ぶ吹き抜けを通らざるを得ないという、ちゃっかりとした営業戦術が施されている。


 リコラに見送られ、ガレリアに到着したタキトとレナも、二重のガラス扉を抜けた直後、その集中砲火を浴びた。


『ネーポル・ガレリアよりお知らせです。本日15時より、人気番組『テルモピュ連隊スパルタン』ショーを、1階イベントホールにて……』

『新商品、カラー・スモークボール!接待ゴルフのお供にどうぞ!』

『本日のお買い得は、オーラシア産のツナ、シュリンプをふんだんに使ったパスタソース!熱湯5分、茹でるだけ……』

『……昨日発生したテロ事件の影響で、現在特別警戒が行われております。お客様にはご不便をおかけしますが……』


 左右両脇と天井。前3方向から来る音の洪水に、タキトはたじろぐ。


「あいっ変わらずうるせぇな」

「タキトは、何度か来たことがあるのですね」


 一見すると平気そうだが、若干顔を引きつらせたレナが、それをごまかすように訊く。


「ここ、良い工具が安く売ってる店があるんだ。交通費がえげつないから、滅多に来れないけど」

「工具というと、アクセサリーの?あ、先ほど河川敷に行ったとき、あなたの作品を見せてもらえばよかった!」

「いやいや、お嬢さんに気に入ってもらえるような物は、まだまだ……。あっ、この店だよ」


 ちょうど正面まで来た工具店を示したタキトは、そのままふらふらと寄せられるように、陳列棚の間へ入り込んでいく。

 レナは、おもちゃ屋を前にした子供のように目を輝かせた彼の後ろを、母性が見える笑みを浮かべてついていく。


 数分後、店から出てきたタキトの手には、いくつかの素材とカタログが入った袋がぶら下がっていた。


「すんません、お嬢さん。つい我慢しきれず……」


 タキトは苦笑しながら、レナに寄り道したことを詫びる。


「お詫びに、お嬢さんも買いたい物があったら言ってください。最後まで付き合いますよ」

「お気になさらず……と言うべきなのでしょうけど……」


 そうタキトに言いつつも、レナの心はすでに、吹き抜けを挟んだ斜向(はす)かいにあるブティックにがっちりと捕まっていた。

 少女の中で、煩悩と理性が格闘すること数秒、理性はジャイアントスウィングでどこかへ飛ばされ、レナは年相応な笑みを漏らすと、タキトの手を引いた。


「お言葉に甘えさせていただきますね。タキト」


*****

午後12時40分 

東棟の端


 結局、王族として制限の多い生活をしていたレナの欲求は服だけに収まるわけがなく、靴や帽子、化粧品や小物と、女性向けの店舗をほぼ一通り見て回ることになり、付き従ったタキトは、己の軽挙を内心で悔やむ事となった。

 

「(まぁ、女性と買い物に来るなんて経験、最初で最後かもしれないからなぁ)」


 一生に一度の幸運を得た対価だと割り切り、タキトは両手いっぱい、合計2ドラク相当の荷物と共に、レナが『花摘み』から戻ってくるのを待った。

 そしてふと、彼女の物言いが気になり呟く。


「……しっかし、本当にイイトコのお嬢様なんだなぁ。『お花摘み』なんて言い方、初めて聞いた」

「当たり前だ。帝国の全てを担う皇族の御一人なのだからな」

「!?」


 背中へ投げかけられた、凛々しくもとげとげしい言葉に、タキトは凍り付いた。

 ゆっくりと振り返ると、薔薇の如き紅を基調とした軍服を着た濃い茶髪の女性が、こちらを見下ろして仁王立ちしていた。


「えっとぉ……お嬢さんのお知り合い、ですかぁ……?(やばい、何がどうヤバいか解らないけどヤバい!というかあの服、イーディア軍人じゃねぇか!?)」

「うむ、イーディア帝国第一皇女付の近衛騎士、レアーレ・ボスコ。〝勝手に”一人旅に出ていかれた第二皇女様を連れ戻す任務を与えられている」

「だ、第二皇女っ……様、だったんですか!?」


 周りの視線を気にしつつ、タキトは自分がとんでもない御仁を連れまわしていた事に、恐れ(おのの)いた。

 そして、ちょうどそのとき、当の本人が何も気づいていない様子で、タキトの下へ戻ってきた。


「お待たせしました、タキト……えっレアーレ!?」

「まったく……。お待ちしておりました、レシーナ様」

 

 少女の休日は、こうして唐突に終わってしまった……かに思われた。


 ネーポルガレリアがテロリストに占拠され、タキトたちが人質となるまで、あと1時間。

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