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春の風・ドリアン香る・松山に  作者: 明石竜


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第三話 パキュラモパパから予期せぬ報告 そして決戦へ

土曜の朝、十時頃。

三姉妹、パキュラモ、光帆、由隆の計六人は伊予鉄松山市駅付近へ集った。

「あっ、坊ちゃん列車だっ! また見れて嬉しい♪」

パキュラモが楽しそうに駅前の風景を眺めている時、

「ん?」

彼女の携帯の着信音が鳴り響く。

「パパからだ」

 パキュラモが嬉しそうに通話ボタンを押すと、

『パキュラモ、緊急事態だ。NIA団全員がもうまもなく日本に到着するみたいなんだ。ぼくの所にさっきメッセージが届いた』

 いきなりやや早口でこんなことを伝えられた。

「えっ! マジで。明日到着する予定だったのに」

『昨晩遅く、サイパン島付近で雷の直撃を食らったおかげで、潜水艦のスピードがかなり上がったそうだ。ポピュメをパクッた松山市民の住む松山市から、伊予の小京都・大洲の辺りにかけているやつらを困らせてやるから覚悟しとけと言っていたぞ』

「やっぱり松山とその周辺を狙うつもりなのね。やばいなぁ。今夜、より実践的な訓練をして決戦に備えるつもりだったのに」

『パキュラモ、頼もしい日本人の仲間達を揃えたんだろう。パキュラモ達だけできっと勝てるはずだ。頑張れ』

「ちょっとパパ、そんな暢気なこと言ってないで」

 パキュラモは困った様子で伝えるも、電話を切られてしまった。

 パキュラモも電話を切った後、この旨をみんなに伝える。

「もう来るのか。というか、雷食らっても壊れないってのが凄い」

 由隆は感心していた。

「私、怖いよぅ」

「千陽お姉ちゃん、道後温泉に現れたあのお姉ちゃんみたいなお兄ちゃんみたいな子どもばっかりみたいだから平気だよ」

「でも、集団だから手ごわいかも」

 千陽の不安は消えず。

「千陽さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、心構えていますよ」

「ワタシもーっ。武器は鞄に入っとるし。一回やってみたかったんだよね、こういうの」

「あたしも準備万端だよ。NIA団、早く現れないかなぁ」

 光帆と絵美理と麗菜は早く戦いたがっているようだ。

「あいつらが来るまでまだもうしばらくは大丈夫そうだな。松山に現れるまでちょっと待っておいた方がいいかも」

パキュラモがそう呟いた。次の瞬間、

「ん? なんか、ドリアン臭いよ」

「ドリアンのにおいそっくりだね」

「もろにドリアンだよな。この強烈なにおいは」

「くっさぁーい」

「このドリアンのにおい、どこがにおいの発生源なのかしら?」

 突如匂って来た異臭に絵美理達、

「うわっ、生ゴミ臭っ」「くっさっ!」「どこからにおって来たの?」「ドリアン?」

 以外の一般人もノックアウトされる。

松山市駅前周辺一帯がドリアン臭くなってしまったわけだ。

「こんな悪質なイタズラしたやつ、どこにいるんだ?」

 由隆は鼻と口を押さえながら、周囲をきょろきょろ見渡す。

「NIA団のやつら、ついに到着しちゃったようね。さっきバナナ型の飛行機がこの上空を低空飛行しながらドリアンの香りの霧を撒き散らしていったわ」

「飛行機が通ったの?」

 千陽が不思議そうに尋ねる。

「うん、ステルス機能で肉眼では見えないけど、この特殊な眼鏡を使えば」

 パキュラモはちゃっかり特殊な眼鏡をかけていた。他のみんなにも同じタイプの眼鏡を一つずつ手渡す。

「本当だ。はっきり見えるね」

「まるでミスト散布のようだな」

「北へ向かって、時速二〇キロくらいでまだ撒き散らしながら向かっていますね」

「一般人まで巻き込むなんて、許さんよ」

「パキュラモお姉ちゃん、あのバナナな飛行機早く追いかけよう!」

 由隆を先頭に、みんなで飛行機の後を追っていく。伊予鉄松山市駅前から路面電車沿いの通りを進んで地方裁判所の辺りまで、ずっとドリアン臭が漂っていた。

「松山市民ども、臭がってたね」

「ここで一句。【春の風 ドリアン香る 松山に】」 

「いい俳句だな。大勢の人が集まる松山まつりの開催中にやったらもっと面白いことになりそう」

「次は銀天街から大街道にかけてをドリアン臭に染めようよ。松山の秋葉原みたいだし」

「いいねえ、松山のアニヲタは環境に恵まれ過ぎだよな。猫の額ほどの広さしかないど田舎のくせしてアニヲタ向けの店いっぱいあるし、水樹奈々とかいう日本の人気トップ女性声優のライブも毎年のようにやってるようだし。まあイハマーニ王国の人口は松山市の人口の五分の一ほどしかいないがな」

「とりあえず作戦成功祝いにポピュメ踊ろうよ」

「ああ」

「へいへい、へい♪」

「よいよいよよい」

「掛け声も似てるし、野球拳おどりは本当にパクリ過ぎだよね。よぉよぉよよい♪」

 八歳から十歳くらいの男の子四人のNIA団員達は萬翠荘に通じる坂道で、民族舞踊ポピュメを踊りながら喜びを表す。

 そんな時、 

「おまえらのしわざか。本当にガキの集団だな」

 由隆達も到着。

「確かに野球拳おどりそっくりですね」

 光帆は彼らの踊りを見てにこにこ微笑む。

「たった百年足らずの歴史しかない野球拳おどりの方がパクリだろ。ポピュメの歴史は紀元前からあるんだぜ。それじゃ、またな。パクリ松山市民」

 団員の少年の一人が言いがかりをつけ、一瞬間を置いて別れの挨拶も告げる。

「早く逃げねえと」「みんな早く飛行機に」「早く、早く」

 他の団員の少年三人も、踊りをやめて飛行機に乗り込もうとした。

「こら待て」

 由隆はすばやく四人のうち二人を背後から捕まえる。

「逃げちゃダメだよー」

千陽もにこやかな表情で、残りの二人の少年の後ろ首襟をガシッと捕まえることに成功した。

「この子達、確保っ!」

 パキュラモは容赦なくこの悪ガキ四人のおでこをあのピコピコハンマーで叩いて五センチくらいのミニサイズにし、手でつかんだ。

「元に戻してぇー」「ぼく、反省してるから」「戻せ、戻せ」「パキュラモ姉さん、ドリアン攻撃はもうせぇへんから」

「ダーメ! 戻しません! っていうかあんた達のさっきの踊り、本家のポピュメをより一層野球拳おどりに似させたNIAおどりでしょっ!」

 これにて四人全員の退治に成功。

「小人さんだぁ」

 麗菜はくすくす笑う。

「パキュラモちゃん、ここまでするのはかわいそうな気が……」

 千陽がそう言うも、

「ちゃんといい子にしてたら後で元に戻すから」

 パキュラモの意思は変わらず。

「技術は高度だけど、子どもみたいな犯人なら捕まえるの簡単だな」

 由隆は得意げににっこり微笑む。

「すっごいかわいい! この男の子達はこのあとどうするの?」

 絵美理は楽しそうに眺める。

「この懺悔ハウスに強制収監よ」

 パキュラモはそう伝えて、リュックから三〇センチ立方くらいの大きさの、ミニチュアの萬翠荘のような形のものを取り出した。

「形は違うけど、リ○ちゃんハウスやシ○バニアファミリーハウスみたいだね」

「懐かしい。千陽お姉さんや由隆お兄さんと昔いっぱい遊んだね」

「俺は無理やり付き合わされた感じだけどな」

 由隆は苦笑する。嫌な思い出だったようだ。

「まさにそれらをモデルに開発されたものだそうですよ。きみたちは中でしっかり反省しなさい!」

「うわぁっ、やめてー」「やめろって」「あーん、ぼくもうとっくに反省してるのにぃ」「こらーっ、出せーっ」

煙突も付いており、パキュラモはその穴にミニサイズにした少年二人を容赦なく放り込んだ。

「豪華なおウチだけど、閉じ込めちゃったらすごくかわいそうだよ」

 千陽はさらに哀れむ。

「中は外から見た以上にとっても広くて快適だから。トイレも設備されてるし。中からは絶対に外へ出られないようになってるけどね」

 パキュラモは爽やかな笑顔でこう伝え、懺悔ハウスと名付けられたミニチュアハウスをリュックにしまう。

「持ち運んでも、中のやつら大丈夫なのか? けっこう揺れるだろ」

 由隆も少し心配してあげた。

「その点も問題ありません。外から強い衝撃を受けても中には全く影響ないように出来てるので。上下逆さまにしてもころころ転がしても中の人は全く気付きませんよ」

 パキュラモは自慢げに説明する。

「これもまたすごい技術だな」

「私、欲しくなって来ちゃった」

「あたしもすごく欲しい♪」

「ワタシもちょっと。ひとまずNIA団退治したけん、市駅前に戻ろう」

 絵美理がこう呟いた、その直後。

「うわっ、なんだこれ?」

 由隆は両サイドから白い雲状のものをぶっかけられた。とっさに両手で目を覆う。

「きゃっ!」

 千陽、

「何じゃこれ? 生クリームじゃないよね? バラエティ番組で罰ゲームされる時ブシャーッて吹き出る真っ白なドライアイスの霧とも違うっぽいし」

 絵美理、

「体中べたべただぁー」

 麗菜、

「これはひょっとして、綿飴かしら?」

 光帆、

「絶対そうね。この味は」

 パキュラモも巻き添えを食らった。

「どうだ。まいったか松山市民。これはぼくちん作の綿飴銃だよーん。この間の理科の授業で先生は竹鉄砲作れって言ってたのを無視して作ったんだ。綿飴はイハマーニ王国産のさとうきびから作られた砂糖を原料にしてるよん」

「綿飴って、雲みたいにふわふわした手触りかと思って触ったらべたべたする砂糖の塊なんだよな」

 手にライフルスコープのようなものを持った九歳くらいの少年二人組が、木蔭から現れたのだ。一人はメガネをかけ紫髪坊ちゃん刈り、もう一人はぼさっとした水色髪だった。

「あの、雲の正体は水蒸気なのでふわふわした手触りじゃないですよ」

 光帆は服にまとわりついた綿飴を手で取り除きながら一応伝えておく。

「あんた達、これくらいでアタシ達が怯むと思った?」

「べたべたはするが、ダメージはないな」

 パキュラモと由隆は怒りの表情だ。

「にっ、逃げろ」「了解だよん」

 タタタッとやや急な坂道を萬翠荘へ向かって走り去る少年二人、

「麗菜、あれやるよ」 

「分かった。くらえっ!」

 絵美理と麗菜はリュックからすばやくお手玉を取り出すと、休まず少年二人に向かって断続的に十数個投げ付けた。

「あいてっ!」「ぎゃふんっ!」

 そのほとんどが少年二人の背中や後頭部やお尻、膝裏に命中し、彼らの動きが鈍る。

「麗菜、絵美理。お手玉を節分の豆みたいに使うのはよくないよ」

 絵美理は困惑顔で注意した。

「千陽ちゃん、緊急事態だから大目に見てやって」

 由隆は優しく説得。

「中の小豆はあとでわたし達が美味しくいただいた方がいいですね」

 光帆は苦笑いでこう意見した。

「イハマーニ王国製のお手玉の中身はコーヒー豆だよミツホさん。さてとっ、悪い子はお仕置きよっ!」

「ぼくちんももう二度とやらないよん」「オイラもさ」

「どうせ口だけでしょ。そりゃっ!」

 パキュラモは少年二人に向かってあやとりの紐を投げまとめて拘束したのち、容赦なくピコピコハンマーで少年二人の後頭部を叩いて五センチくらいのミニサイズに。

「中でしっかり反省しなさい!」

「ちょっと待ってぇぇぇー。オイラこれから道後温泉荒らしにいくつもりだったのに」

 一人ずつつまみ上げ、懺悔ハウスに放り込む。

「降参です。しかしぼくちんたちを倒したところで、今、ぼくちんの仲間たちは松山市内のアニメグッズ専門店で悪さしまくってるよーん」

 次につまみ上げられた眼鏡の少年がそう伝えると、

「なんじゃって! みんな、今すぐそこへ行こう!」

 絵美理は怒りを露にし、こう強く懇願する。

「そうね。情報ありがとう、ぼく」

「あのう、感謝状としてぼくちんだけは閉じ込めないで欲しいのですが……」

「ダーメ」

「やっぱりー。うぎゃぁっ」

パキュラモはにこっと笑って眼鏡の少年を容赦なく放り込むと、

「みんな、これに乗って。走るより速いよ」

 休まずリュックに片付けてコンパクトになった畳を取り出して、二メートル四方くらいの大きさにふくらませた。

 みんなそれに乗り込むと、すぐに出発。

「由隆くん、アラジンになった気分で楽しいでしょ?」

「俺は、なんか今にも落ちそうで怖いけどな」

「大丈夫ですよユタカさん、不安定なようでかなり安定していますから。例え天地ひっくりかえっても乗ってる人は落ちないようになってるの」

「そうなのか。というか、誰かに見られたらやばくないか?」

「大丈夫です。アタシ達以外の人達からはカラスが何羽か飛んでいるようにしか見えないようになってるので」

「それもすごい科学技術だな」

 由隆は深く感心する。

「それにしても服やお顔がべたべただよ。綿飴はすごく美味しいけど」

 千陽は自分にまとわりついた綿飴を美味しそうに頬張りつつ、不快な気分を伝える。

「それなら大丈夫です。イハマーニ王国製の掃除機で吸い取りますから。これさえあればマンゴスチンをぶつけられてもへっちゃらです」

 パキュラモはリュックから取り出すとさっそくスイッチを入れた。

「きれいに取れたね。風が気持ちいいよ」

「べたべた感がなくなったな」

「わたしもすっきりしたわ」

「ワタシもう少し食べたかったんじゃけど」

「あたしもーっ。日本の綿飴よりも美味しかったよ。掃除機の中、綿飴の塊が出来てるんじゃないの?」

「出来てるけど、食べない方がいいと思うよ。他のゴミも交じって衛生上良くないので」

みんなの周りにつむじ風のようなものが生じ、見事自分も含めみんなにまとわりついた綿飴の除去に成功。

「残念。パキュラモお姉ちゃんのリュックって、ド○えもんの四次元ポケットみたいに何でも入ってるね」

「このイハマーニ王国製のリュックは大きさ以上にたくさん入るようになってるの。取り出し易く重さも感じさせないような仕組みになってるよ」

 パキュラモは自慢げに伝える。

 こうしているうちにあっという間に松山市駅側、銀天街入口付近へ到着。みんな降りた後、空飛ぶ畳はパキュラモの手によってすぐさまコンパクトにされ再びリュックに。

「ナウケミカよりも賑やかだ」「これでも日本の県庁では田舎な方なんよ」「広島よりも田舎ですよ」「私は松山は程よい都会に感じるよ」「俺も」「あたしも住みやすい街だと思う」

みんなは銀天街を大街道方面へ向かって歩き進む。

「あーっ、くっそぉ。身分証明書がないと同人誌買えないとは残念ぞなもし」

 すると前方から、一二歳くらいのぶくぶく太った縮れ金髪の少年、

「せっかくおら達が一八歳以上に見られるように催眠術かけたのになぁ」

 八歳くらいのやや太った縮れ藍色髪の少年、

 ポリネシア系の顔立ちをしたこの二人に加えて、

「明らかなんだから売って欲しかったよね」

マレー系の、九歳くらいの痩せ細ったオレンジ髪坊ちゃん刈り&メガネの少年、合わせて三人がしょんぼりした様子で歩き近づいて来た。

「ひょっとして、きみ達、NIA団の子?」

 絵美理は近寄って問いかけてみた。

「そうぞなもし。さっきはメ○ブとら○んばんとア○メイトに寄ったぞなもし」

「ぼくらの住んでる街のアニメグッズ専門店、『アニメイハマーニ』よりグッズの種類がずっと豊富で、その点につきましては満足出来ました」

「なんだこの根暗っぽいブス、喪女は池袋にでも行ってろ」

 八歳くらいの少年が笑顔で言う。

「喪女とは失礼ね。池袋は松山からじゃと交通費かかり過ぎるけん、そうそう行けんのじゃ。それにワタシ、池袋よりはアキバの方が好きなんよ。そんなことよりあんた達、一八禁の同人誌買おうとしてたじゃろ?」

 絵美理はニカァッと笑ってそう主張し、顔を近づけ問い詰める。

「……そっ、そうだよ。伊予弁の喪女」

 八歳くらいの少年は怯えた様子で答えた。

「喪女言うな。あんた達、まだガキなんやけん矢○先生の『ToLov○る』で我慢しなさい! 下手な一八禁コミックよりもエロいんよ」

「そりゃそうだけどさぁ、おら達はスリルを味わいたくて」

「日本でそんなことしたら、お巡りさんに捕まるのよ」

「年齢制限はちゃんと守れ。ガキの頃からいかがわしいマンガやアニメばかり見てたら、俺の親友の慶作みたいになっちゃうぞ」

 パキュラモと由隆は協力して少年三人の頭をすばやくピコピコハンマーで叩き、五センチくらいのミニサイズにした。

「すごく太ったお兄ちゃんは、日本でお相撲さん目指したら? 史上初のイハマーニ王国人力士になれるよ」

 麗菜はしゃがみ込んで、こう勧めてみた。

「いや、おいら、力士なんて無理ぞなもし。稽古としきたりが厳し過ぎるようだし」

 一二歳くらいの太った少年は苦笑いしながら主張する。

「相撲は日本でそこそこ人気あるらしいが、ホモでマゾのスポーツだよな。裸でマワシ一枚で抱き合ってるし」

 八歳くらいの少年はこんな印象を持っているようだ。

「お相撲は紙相撲でやる方が楽しいよね。きみたちに忠告。ぼくらを倒したところで、ぼくらの仲間達は今、松山城と愛媛大学と、大洲へ向かって悪さしようとしてるからね」

 九歳くらいの少年はにやついた表情で伝えた。ひそかに麗菜のネコさん柄パンツを覗いていたのだ。

「NIA団のやつら、大洲にも向かってるのね。これは、アタシ達も手分けした方が良さそうね」

 パキュラモはこう提案した。

「わたし、愛大を担当するわっ!」

光帆は積極的に希望する。どこか嬉しそうだった。

「私は松山城がいいな」

「あたしは大洲がいい」

「ワタシも大洲担当しようかな」

「俺は、どこにしようかな?」

「では、チヒロさんとユタカさんとアタシは松山城、ミツホさんは愛大、エミリちゃんとレイナちゃんは大洲ってことで。レイナちゃんとエミリちゃんとミツホさんも、これを使ってね。最高時速百キロ出せるから、大洲でも三〇分足らずで着くよ」

 パキュラモはリュックから空飛ぶゴザを二枚取り出した。

「直線距離で行けるので、特急宇和海を使うよりも速いですね」 

「これは便利なアイテムじゃね」

「絵美理お姉ちゃん、早く大洲へ向かおう」

「おまえら楽しそうにして余裕だな。あっちで悪さしようとしてるやつらは、おら達よりずっと手ごわいぜ」

 八歳くらいの少年は自信たっぷりに言う。

「それはどうかしら? アタシ達だって手ごわいわよ。それじゃ、エロ坊やたち、中で反省しててね」

「やめてぇー」「わぁーん」「入れないでー」

 パキュラモは他に捕まえた団員達と同じようにそいつらを懺悔ハウスに放り込んだ。

「では、これでアタシがさっきやったように小さくして、この懺悔ハウスに閉じ込めてね。このタイプのは上部のふたを開ければ中に入れられるよ」

 それをリュックに仕舞うとピコピコハンマーを取り出し、麗菜、絵美理、光帆に手渡したのち小型の懺悔ハウス、愛媛県武道館型のを絵美理に、宇和海展望タワー型のを光帆に手渡す。

「光帆ちゃん、一人で大丈夫?」

「大丈夫ですよ千陽さん、では行って来ますね」

光帆は自信たっぷりに伝え、ゴザに飛び乗り愛媛大学の方へ向けて出発した。

「それじゃあ行って来るね。やっつけたら連絡するよ」

「どんな強敵が出てくるのかな? ワタシわくわくして来たぁーっ!」

 麗菜と絵美理もゴザに飛び乗り、大洲の方ヘ向けて出発。

「麗菜も絵美理も気をつけてね」

「肱川の鵜飼いが有名な大洲だけに、川鵜みたいな形のロボが暴れてたりして」

「ユタカさんの推測、当たってるかも」

千陽、由隆、パキュラモは空飛ぶ畳に乗って松山城へ向かっていく。

   ※

 光帆は愛媛大学構内へ辿り着くと、

「ここに来たの、二年振りくらいだわ」

 懐かしさに浸って歩きながら、携帯電話のカメラで楽しそうに講堂を撮影し始める。

 その最中だった。

「ここの大学のやつらに、アホゥになる催涙弾くらわしてやろうと思ったのに、愛大生の姿ほとんど見掛けないな」

「そりゃ今日は土曜日だもん。仕方ないよ」

「まあ愛大生といえども、イハマーニ王立大生の成績上位層よりはアホゥだろうな」

「絶対そうだよね」

 こんな話し声を聞いた。

(あの子達ねっ!)

 光帆は即確信する。一二歳くらいの男女二人組だった。少年の方は青髪七三分け、少女の方は朱色髪セミロングだった。二人とも水鉄砲のようなものを手に持っていた。

「愛大を荒らそうとしてるのは、あなた達ね」

 光帆はその二人のもとへ歩み寄り、話しかける。 

「おう、きみ、愛大生? いや、そのわりには幼いから愛大志望の子か?」

 少年の方が問いかける。

「いや、わたしは京大第一志望よ」

 光帆はきりっとした表情で答えた。

「そうか。おまえにとっては愛大はレベルが低過ぎるようだな」

「ねえ、この食パンみたいな顔の女、アホゥにしちゃおうよ」

「そうだな。おまえをアホゥにして京大合格の夢を断たせてやる」

「やっちゃえ!」

 二人は水鉄砲的な形の銃を向けた。そして休まず発射する。

「そうはいかないわ」

 光帆はすばやく手に持っていた日傘を広げて回避。

「バリアされた!」

「今度は当てるわよ」

 悔しがる少年少女。もう一度引き金を引こうとした。

「動作遅いわよ。それっ!」

光帆はポケットから取り出した石川五右衛門柄めんこを地面に叩きつける。

「うおっ!」

「きゃぁっ! パンツが」

 すると少年少女は風圧に負け、しりもちをついた。弾みで手に持っていた銃も遠くへ吹き飛ばされる。

「あー、くっそぉ」

「拾わなきゃ」

 少年少女、落ちた所まで拾いに行こうとする。

「さすがイハマーニ王国製のめんこね」

 得意げになる光帆。しかし次の瞬間、

「きゃぁっ!」

 背後から攻撃を食らわされてしまった。

「後ろにもいたのは気付けなかったようね」

 光帆の背後の立っていたのは、金髪ポニーテールの五歳くらいの少女だった。

「まさかもう一人いたなんて。不覚を取ったわ。このドロドロの半液体、くさーい。ドリアンのにおいだぁ」

 光帆は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「やったわっ!」

「まいったか?」

「わたちの存在に気付けないようじゃ、お姉ちゃんは京大生にはなれないね」

 NIA団三人組は大喜びする。

「もう、こんな幼稚なイタズラして。許さないわよ。きゃっ、きゃっ!」

 光帆は少年に近寄ろうとしたら、すてんっと転んでしりもちをついてしまった。

「いたたたぁー。これ、バナナの皮じゃない。わたしったら、昔のマンガみたいなことしちゃったよ」

 頬をほんのり赤らめて照れくさがる。

「イハマーニ王国産のバナナの皮は世界一滑りやすいからな。このお姉ちゃん、さくらんぼ柄のパンツを穿いてるな」

「こら、覗くのはやめなさい僕。きゃっ、きゃあっ!」

 光帆、今度は五歳くらいの少女に黄色っぽく、べっとりしたものをぶっ掛けられた。

「バナナ銃だよ。今度は熱々のココナッツミルク銃を食らわせてあげる。えいっ!」

 五歳くらいの少女は肩に掛けていた鞄の中に銃をたくさん隠し持っていた。

「きゃぁん。髪がべとべとー。食べ物を粗末にしちゃダメでしょ」

 光帆がピンチに陥っていたその頃、大洲では、 

グルルルゥ、グルルルウウウゥゥゥゥ!。

 おはなはん通りを、高さ五メートル以上はあると思われる巨大な鵜みたいな形のロボが大きな鳴き声を上げながら、羽をバサバサバタつかせ、のっしのっしと時速六キロくらいで闊歩していた。

「何だあれ?」「今日お祭り?」「でかっ」

 そこそこの数いた観光客は当然のように驚いていた。

「こいつは手ごわそう。水風船や水鉄砲じゃ絶対通じなさそうじゃ。鵜に見えるけど、パプアにいそうなカラフルな鳥も混じってるよね」

「恐竜みたいにも見えるね。そうだ! 地面におはじきとビー玉敷いて転ばせよう!」

「それはいいかもね。先回りしよう!」

 麗菜と絵美理は走って鵜もどき型ロボを追い抜かし、これから通ると思われるルートにおはじきとビー玉をばら撒く。

約三〇秒後、鵜もどき型ロボがその上を通りかかった結果、

グワッグワァァァァァッ! と、鳴きながらすてんっと転んでドシーッンとしりもちをついた。鵜もどき型ロボ、身動き出来ず制御不能に。

「やったぁ!」

「そういえばこれ、中の人いるのかな?」

 絵美理はふと気になった。次の瞬間、

「やるわね。こうなったら直接対決よ」

 鵜もどき型ロボの頭の部分がパカッと開いて中から人が。

出た来たのは、七歳くらいの浅紫色お団子頭の女の子だった。

鵜もどき型ロボは鼻の部分一押しで瞬く間に手のひらサイズに。

「中の人いたね。あたしが三秒で片付けてあげる」

「たいした自信ね。これならどうかしら」

「きゃあああああああっ! えっ、絵美理お姉ちゃあああああっん」

 麗菜はおばけもびっくりするような大声で叫び、絵美理の背中にぎゅっとしがみ付く。

七歳くらいの少女が手に持っていた銃を発射すると、矢の刺さった落武者の3D映像が現れたのだ。それは十秒ほどで姿を消した。 

「麗菜、さっきの落武者はホログラムよ」

 絵美理はくすっと笑う。

「あんた、ひょっとして今でも夜中に一人でおトイレに行けないとか?」

 少女にもくすくす笑われてしまった。

「そんなことないよぅぅぅ」

 麗菜が震えた声で即否定した。

「麗菜、服が伸びるけん、あんまり強く引っ張らないで欲しいんじゃけど」

 絵美理はちょっぴり迷惑がった。

「ごめんなさい、絵美理お姉ちゃぁん」

 麗菜は今にも泣き出してしまいそうな表情で謝る。

「麗菜のしぐさ、とってもかわいいよ」

絵美理はにこにこ微笑みながら眺めていた。

「それそれそれーっ!」

 少女がさらに続けて銃を発射すると、

「ぎゃぁっ、のっぺらぼうだ。火の玉だぁ」

 麗菜はますます怖がって逃げてしまう。

その後も提灯おばけ、牛鬼、からかさ小僧、砂かけ婆、山姥、一反木綿などなど和風おばけ達の3Dホログラムがおどろおどろしい効果音と共に現れ十秒ほどで姿を消した。 

「あたちの勝ちね。あれれ? もう弾が切れちゃった」

 少女、予想外の事態に戸惑う。

「もう! 絶対に許さないもん」

 麗菜はプラスチック製ヨーヨーで反撃開始。

「んぎゃっ!」

 見事少女のお顔に直撃。

「ごめんね、痛かった?」

 麗菜は爽やかな表情で謝る。

「ものすごーく痛かったわ。仕返ししてるぅ!」

 少女はうるっとした表情を浮かべ、懐からなわとびを取り出した。

「鞭打ちの刑よ。必殺、肱川あらしっ! えいっ、えいっ、えいっ!」

 そしてパチンッ! パチンッ! パチンッ!と地面に何度も叩き付けつつ麗菜を追い掛け回す。ヒュンヒュンヒュンヒュン風の切る音も聞こえて来た。

「絵美理お姉ちゃん、助けてーっ」

 麗菜、ちょっぴり焦る。

「はいはーい」

 絵美理は余裕の表情を浮かべながらピコピコハンマーを取り出し、少女を追いかける。あっという間に追いつくと後頭部を軽く叩き、ミニサイズに。

「しまった。この眼鏡の和風なお姉さんの方にも注意すべきだったぁ」

 少女、がっくり肩を落とす。

「あたしの勝ちだね」

 麗菜はピースサインをとった。

「ちっちゃくなってすっごいかわいいよ」

 絵美理はにっこり微笑む。

「二度とこんなイタズラしちゃダメだよ」

「はーい」

少女は麗菜の手によってすみやかに愛媛県武道館型懺悔ハウスに強制収監。

「お腹すいて来た。絵美理お姉ちゃん、そろそろお昼ごはん食べよう」

「ほうじゃね。ワタシもお腹すいて来たよ」

 麗菜と絵美理、こう打ち合わせたその頃、松山市上空百メートル付近では一人用の小型飛行機がぐるぐる旋回していた。 

「松山城の中くまなく探してもいないと思ったら、上空かよ。あの飛行機、なんか砂と霧みたいなもの撒いてるな」

「あんなことしたら、天守閣からの景色が見えにくくなってる違いにないよ」

「これはかなり悪質なイタズラね」

 空飛ぶ畳に乗った、由隆と千陽とパキュラモはその飛行機にどんどん近づいていく。

「今日は景色悪いなぁ」「めっちゃ霧かかってるし、黄砂も混じってるわ」「晴れてるからもっときれいに見えるはずなのにね」「損した」「あら、急に見えにくくなったぞ」

 千陽の推測通り松山城天守閣や、いよてつ髙島屋屋上の大観覧車くるりんから松山の街並みの景色が見えにくくなっていた。そこにいる人々は口々に不満を漏らす。

「どうだ日本人。人工霧とマイントピア別子の砂金が入ってるかもしれねえ砂のコンボで視界が悪くなっただろ?」

乗っている一三歳くらいの少年は、楽しそうにこんなことを呟いた。

「こらーっ! やめなさーい!」

「中の男の子、そんなことしちゃダメだよ」

「松山城来て景色が悪かった時のがっかり感はけっこうでかいぞ」

 パキュラモ達は空飛ぶ畳に乗った状態で注意する。

「うるせえ、これでもくらえ日本人とパキュラモ」

 少年は飛行機から、ミサイルのようなものを発射して来た。

「まずいわこれは。きゃっ、きゃあっ!」

 パキュラモは慌てて方向転換しようとした。

「きゃあああっ、落ちる、落ちるぅぅぅ!」

「千陽ちゃん、俺の腕にしっかり捕まって」

 しかし間に合わず。畳の裏側にドゥゥゥーンッと直撃し、さらに中央付近を貫通させられ、制御不能になってしまった。

「チヒロさん、ユタカさん、床にしっかり手を突いて下さいね。そうすれば安全ですので」

 空飛ぶ畳はふらふら中を舞いながら、地上へ向かって落ちていく。

「あいつの乗った飛行機、砂埃と霧に隠れて見えないわ。一か八か」

 パキュラモは砂埃と霧に覆われた任意の場所へ向けて、Y字型のパチンコに石を当てて打ってみた。すると、カツーンという金属音が聞こえて来た。どうやら当たったらしい。

「あれだけじゃダメージ受けるはずはないから、これも使うわ」

 パキュラモはリュックから昨晩折った折り紙の数々が入った袋と、孫の手も取り出す。

「えいっ!」

 袋に向けて孫の手を振りかざすと、中の折り紙は羽ばたき飛行機の方へ飛んでいった。

「うわっ、折り紙で前見えねえ。ハンドルも言うこと聞かねえ。やっべ」

 機体やエンジンにまとわりつかれ、飛行機の方も制御不能になったようだ。ふらふら漂いながら、どんどん地上へ向かって落ちていく。

「よぉし! お仕置き成功♪ 折り紙も戦力になったでしょ?」

 パキュラモはにこりと笑う。

「確かに。下は民家やビルだらけだし、落ちたらやばくないか?」

「中の男の子も無事じゃないよね?」

 由隆と千陽はしっかり捕まりながら、飛行機と操縦していた少年を心配する。

「大丈夫ですよ。イハマーニ王国製の飛行機は、墜落しても壊れずに操縦者にも衝撃が行かないように出来てるので」

 パキュラモが伝えたその直後に、空飛ぶ畳は城山公園堀之内やすらぎ広場の地面に激突した。それでも由隆、千陽、パキュラモは全くの無傷だった。

「けっこうなスピードで落ちてったのに、全く衝撃なかったな」

「さすがイハマーニ王国製の空飛ぶ畳だね。民家やビルや線路や人の上に落ちなくて良かったよ」

 由隆と千陽はほとほと感心する。

「これは偶然じゃなくて、制御不能になっても自動的に安全な場所へ墜落してくれるような仕組みになってるの」

 パキュラモは自慢げに伝えた。

 飛行機もまもなく、由隆達のいる五メートルほど手前の地面に激突した。

 これもまた全く衝撃がなく、飛行機も、

「やるなぁ、パキュラモ」

 操縦していた少年も全くの無傷だった。

「そこのハーレム的環境の少年、おいらと地上で対決しようぜ」

 そいつは地面に降り立つや、宣戦布告。由隆よりも顔つきは幼いが、背丈は一七五センチほどあり、体格も由隆よりは良かったが、

「ああ、いいぜ。望むところだ」

 由隆は快く勝負に乗った。

 こうして由隆達三人も畳から降り、地面に降り立った。

「由隆くん、頑張って」「ユタカさん、健闘を祈りますよ」

 千陽とパキュラモは固唾を呑んで見守る。

「くらえ! 日本人死ね死ねスーパーキーック!」

 一三歳くらいの少年は、小学生が五秒で考えたようなネーミングの蹴りを、由隆のわき腹目掛けて食らわして来た。

「速ぁっ!」

 由隆は寸でのところでかわす。

「ユタカさん、日頃からジャングルを駆け回り海や川で泳いでるイハマーニ王国民は、日本人よりも身体能力高いから気をつけてね」

 パキュラモは爽やかな笑顔で伝えた。

「そうか。ってことは、体も柔らかいってことか?」

「その通りだぜ少年」

「それじゃ、証拠見せてくれないか?」

「分かった。おいらの柔らかさを見せてやる。驚くなよ」

 少年はそう言うや、足を伸ばしたまま背中を曲げ腕を地面に付かせる。

「隙ありっ」

 由隆はその隙に少年の背中を押さえ込み前のめりに転ばせ、

「うぉっ!」

 身動きが取れないように地面に押さえつけた。

「由隆くん、余裕だったね」

「ユタカさんの作戦勝ちでしたね」

 千陽とパキュラモはにっこり笑顔で褒める。

「くっそ、おいらよりちっちゃいから勝てると思ったのに」

 少年は悔しそうに呟く。

「パキュラモちゃん、こいつを小さくしてやれ」

「了解♪」

 パキュラモはピコピコハンマーを手に持って少年の方に近寄っていく。

 しかしその時、

「日本人の少年、油断し過ぎ」

「うわっ! なっ、なんでだ?」

 少年に袖をつかまれた由隆の方が持ち上げられ、

「自在に馬鹿力の出る手袋のおかげさ。イハマーニ王国の科学技術力を思い知れ日本人」

投げ飛ばされてしまった。

「きゃぁん」

 パキュラモも巻き添えを食らう。由隆の体が当たってバランスを崩し、しりもちをつく。

「ごめんパキュラモちゃ、ぐぁっ!」

「さっきまでの威勢はどうした? 日本人の少年」

少年は由隆の腹に蹴りを食らわす。彼は由隆に地面に押さえつけられた時、手袋をポケットから取り出して右手にはめたのだ。

「そんなの使うなんて卑怯よ」

 パキュラモは弾みで側に落ちたピコピコハンマーを拾おうとしたが、

「こいつを使う方がよっぽど卑怯だろ」

 少年に手袋をはめた右手で先に拾われ五〇メートルほど先まで放り投げられてしまった。

「あーん、あんなに遠くまで飛ばしちゃって」

 パキュラモが悔しそうに呟いた。その直後、

「ん?」

「よぉし、捕まえた」

 少年は由隆に背後から抱きつかれ、両腕を固められてしまった。

「由隆くん、すごい」

「ユタカさん、ナイス」

 賞賛する千陽とパキュラモ、ところが、

「甘いな少年」

「そんなっ、ぐぉっ!」

 簡単に振りほどかれ、由隆は右手で突き飛ばされてしまう。

「日本人の少年、起き上がれるものなら起き上がってみろ」

「なんてパワーだ。全然動けない」

 さらにみぞおちの辺りを右手で押さえつけられる。

「このままじゃ由隆くんが負けちゃうぅぅ」

 千陽は心配そうに見守る。

「ここはチヒロさんも協力してあげないと。こんなこともあろうかと、チヒロさんのお部屋からいいものを持って来ましたよ。じゃ~ん」

 ピコピコハンマーをあの間に拾いに行って来たパキュラモは、トートバッグからヴァイオリンを取り出した。

「パキュラモちゃん、それも持って来てたんだ」

「さあチヒロさん、早く何か演奏してあげて下さい」

「分かった。じゃあ、『南の島のハメハメハ大王』を弾こう」

 千陽はさっそくヴァイオリンでその曲を弾き始める。

「なんだこれ、し○かちゃんのヴァイオリンみたいな酷い音だな」

 少年は思わず両手で耳をふさいだ。

「ユタカさん、今よ」

 パキュラモはピコピコハンマーを投げ渡す。

「ああ! ありがとう千陽ちゃん、パキュラモちゃん」

 相手が怯んだ隙に、由隆はすばやくそいつのおでこをピコピコハンマーで叩いた。

「しまった」

 少年は焦るが、まもなくミニサイズに。

「どうだ! これで俺の勝ちは決まりだな」

 由隆はにこっと笑う。

「くっそぅ。油断した」

「チヒロさんの演奏攻撃、堪えたでしょ?」

「ああ、かなりな」

「中でしっかり反省してね」

 パキュラモは悔しがる少年を指でつまみ上げ、懺悔ハウスへポイッ。

「あの、よく考えたらさっきの、俺に投げ渡さずにパキュラモちゃんが直接叩いてもよかったような」

「それだとユタカさんに見せ場がないじゃないですか」

 パキュラモは由隆に向かってパチッとウィンク。

「べつにいらなかったんだけど」

 由隆は照れ笑い。

「なんか、複雑な気分だけど、由隆くん、おめでとう!」

 千陽が嬉しそうに由隆の健闘を称えていた。

その最中だった。

「姉ちゃん、こいつをくらえ」

 どこからか別の少年の声がして、

「きゃっ、きゃあっ!」

 千陽は大きな悲鳴を上げる。

 日本では見かけないカラフルな昆虫が多数、千陽のまわりをまとわりついていた。

「大丈夫か? 千陽ちゃん?」

 由隆は慌てて千陽の方へ駆け寄っていく。

 その途中で、

「よそ見してていいのかな?」

「ぐわぁっ!」

 由隆、わき腹に飛び蹴りを一発食らわされた。

「やぁ、昨日振りだね、パキュラモ。この少年の方ははじめましてだね」

 現れたのは、昨日道後温泉に現れた少女っぽい風貌の少年だった。

「由隆くーん、大丈夫?」

 千陽は昆虫を振り払おうとゆさゆさ体や両手を揺さぶりながら心配する。

「チヒロさん、アタシが助けますよっ! もう一人隠れていたとは」

 パキュラモは千陽の元へ駆け寄っていくが、

「きゃぁんっ! 冷たぁっ!」

 途中で背後から何者かに水鉄砲で顔を攻撃されてしまった。

「しまった。さらにもう一人いたのね?」

 振り向いた次の瞬間、

「えっ! 嘘?」

パキュラモは五センチくらいのミニサイズに。パキュラモ自身も驚く。

「パキュラモちゃん、大丈夫? きゃぁぁぁ~。冷たぁいっ!」

千陽も背後から何者かにおしりを水鉄砲で攻撃され、五センチくらいのミニサイズにされてしまった。

「うちの存在に気付けないなんて灯台下暗しね。これはド○えもんのひみつ道具、『さいぼうしゅ○小き』を参考に作ったうちの自作水鉄砲よ」

こんな声がして、木の裏側から一人の少女が現れた。

「捕獲成功♪ うちらの仲間を虫みたいに捕獲した仕返しよ」

 その子はすばやくミニサイズのパキュラモと千陽をつまみ上げる。

「由隆くぅぅぅぅぅぅぅん、たーすーけーてー」

「予想以上に手ごわかったです、NIA団」

「きゃぁっ! 蛾が襲って来たぁ。イナゴさんにヤスデさんにゲジゲジさんに、ヤモリさんまでいるよぅ。大蛇と恐竜に見えるよう」

「チヒロさん、安心して下さい。アタシがけん玉とヨーヨーの二玩具流で退治しますから」

 千陽とパキュラモは通常サイズの日本の昆虫や節足類、爬虫類達が蠢き飛び交うガラス水槽の中に入れられてしまった。

「ハーレムボーイのお兄さん、うち、NIA団団長のプムチャナよ。ちなみに一二歳の中学一年生。ついこの間までランドセル背負った小学生だったよ」

 プムチャナと名乗った少女はホホホッと口元を押さえながら言う。背丈は一四〇センチに届かないくらい。黒髪三つ編み。まっすぐ伸びた細めの一文字眉。丸っこいお顔でぱっちりとした茶色い瞳。お肌も白く普通の日本人以上に日本人っぽかった。

「団長って女か。おまえじゃなかったのか?」

 由隆が問いかけると、

「昨日変わった。オレは副団長に降格した」

 少年は苦笑いを浮かべて言う。

「だって日本視察で役に立たなかったんだもん」

 プムチャナはふくれっ面で言った。

「まあそんなことはどうでもいい。おまえら、よくも千陽ちゃんとパキュラモちゃんを」

「きみの彼女を返して欲しかったら、とべ動物園まで来なさい」

「楽しみに待ってるよ、少年」

 プムチャナと副団長の少年はそう伝え、千陽とパキュラモを閉じ込めた水槽を持って空飛ぶゴザに乗り、空高く舞い上がってしまった。

「ごめんなさいユタカさん、アタシの空飛ぶ畳は、破けて使い物にならなくなっちゃいました」

「由隆くーん、絶対助けに来てねーっ!」

 ミニサイズのパキュラモと千陽は懸命に叫ぶ。

「とべ動物園ならここからそんなに遠くはない。バスですぐに行けるな」

 由隆は松山市駅前バス停へ向かって走りながら、光帆と麗菜と絵美理の携帯に、千陽ちゃんとパキュラモちゃんがさらわれたとの旨のメールを同時送信した。

同じ頃、愛大構内の人目につきにくい場所。

「あーん、眼鏡までべとべとー」

「ナンプラー攻撃も効いたみたいだな。催涙弾が全く効果なかったのは誤算だが、べとべとになったおまえの姿を見れておれは満足だぜ」

「ねえ、この子やっつけたら坊っちゃんスタジアム行って、野球試合をめちゃくちゃにしに行きましょう」

「そりゃいいな。レーザービームで目くらましして、ボールの軌道も孫の手で操ろうぜ」

「こら、ダメですよそんな妨害行為したら」

「お姉ちゃん、とどめだ。タピオカ銃ぅ!」

「きゃっ! パンツの中狙わないで」

 光帆、尚も苦戦中。三人組から何度も銃撃される。

 そんな時、

「んぬ、二宮さんではあ~りませんか。はてさていったいなぜこういう状況に?」

 なんと、慶作が近くに現れてくれた。

「あっ、慶作さん! ちょうどいい所に。わたしを助けて」

「えっ、えええ」

 動揺する慶作。

「こいつ、おまえの彼氏か?」

 少年に質問され、

「違うって。クラスメートよ」

 光帆は慌ててこう伝える。

「あの、二宮さん、今日は凄まじく臭いですね。夏コミ会場以上の悪臭ですよん。なんか1,プロパンチオール臭が……まさに腐女子ですね」

 慶作は思わず手で鼻を押さえつけた。

「この子達にドリアンのくさい果汁ぶっ掛けられたの」

「そうでしたかぁ。ところでこれは、いったいどういう状況なのでしょうか?」

「愛大の学生祭でやるヒーローショーの練習よ。わたし、ボランティアで参加することになったの。今、ヒーロー役のわたしが、敵役のこの子達に襲われてピンチに陥ってるって状況で」

 光帆は慶作が極力混乱しないように、こう嘘の内容を伝えておいた。

「そうなのですか?……」

 慶作はぽかーんとなる。

「そういうわけで、わたしを助けて欲しいの」

「いや、なんか、よく分からないのですがぁ」

「とにかく、このピコピコハンマーであの子達を叩いて欲しいの。軽くでいいから」

 光帆はそう伝えて慶作に投げ渡す。

「えー、その、あの」

 慶作、まだ状況が把握出来ず。

「こいつ弱そう。まさに“うらなり“って感じの風貌だな」

「でもめちゃくちゃ賢そうだね。次はこいつをやっちゃおう」

「ねえお兄ちゃん、わたちといっしょに数学クイズで遊ぼう」

「えっ、えっ、えっと、その、僕は、愛大医学部も、一応志望校の範囲内に入っているので、ふらりとキャンパス見学しに来ただけでして……」

 たじろぎ困惑する慶作。果たして勝負の行方はいかに?

     ※

 由隆がとべ動物園内へ辿り着いた時、

「シロクマちゃん、かっわいい! イハマーニ王国の動物園でもシロクマちゃん飼育して欲しいよぅ」 

「プムチャナ、生シロクマ、やっぱいいよね」

 プムチャナと副団長の少年はシロクマをうっとり眺めていた。

 ミニパキュラモとミニ千陽を閉じ込めた水槽はすぐ横に置いて。

「おい、おまえら」

 由隆はゼェゼェ息を切らしながら、呆れ気味に話しかける。

「あっ、ハーレムボーイ、よく来たわね」

「話があるならもう少し待って。オレ、これからシロクマを写真に収めるんだ」

「待てるか。千陽ちゃんとパキュラモちゃんを早く解放してやれ」

「うちとチャンバラ勝負して、勝てたら解放してあげるわ。ここじゃ人目につくから、場所を変えましょう」

「なんでそんなガキの遊びしなきゃいけないんだよ?」

「きみ、うちに勝つ自信がないのね。うちよりずっと体格のいい男の子のくせに情けないなぁ。武士国家の子とは思えないな」

 プムチャナはくすっと笑う。

「日本が武士国家なのは江戸時代までの話だろ……しょうがない、勝負してやる」

 由隆は不満そうにしながらも癪なので乗ってあげた。

 由隆達はとべ動物園から出て、隣接する総合運動公園の人目につきにくい場所へ。

「由隆くん、早くやっつけちゃって」「ユタカさんならきっと勝てるはずよ」

 ミニパキュラモとミニ千陽は、熱い眼差しで応援してくれた。

「任せて千陽ちゃん、パキュラモちゃん、俺は絶対勝つから」

 由隆はその二人の方を向いて真顔で宣言する。

「かなりの自信ね。さあ勝負よ。うち、この服装でやるわ。身軽になるし、うち、シロクマ大好きなの♪」

 プムチャナは上着を一枚脱いだ。するとシロクマさんの刺繍が施されたTシャツ姿に。

「案外かわいらしいな」

 由隆はやや呆れる。ともあれ決戦開始。

「くらいなさい! ハーレムボーイ」

「ハーレムボーイとか言うな」

 由隆は呆れた様子でチャンバラ棒をプムチャナの脇腹めがけてすばやく振りかざす。

「あぁんっ、いったぁい!」

 直撃し、プムチャナは甘い声を漏らした。

「ユタカさん、いい振りですね。乗り気なようで嬉しいです」

「私とパキュラモちゃんを救うために、本気になってくれてるね」

 パキュラモと千陽は賞賛する。

「大丈夫か?」

 由隆は心配してあげた。

「敵に情けをかけるなんて、日本人らしくないわね。まあチャンバラじゃ勝てそうにないな。お相撲勝負に急遽変更よ」

 プムチャナは自分のチャンバラ棒を投げ捨て、由隆の体にガバッと抱きついた。そして彼のジーンズの裾を両手でがっちり掴む。

「やったぁっ! いい形だプムチャナ」

 副団長の少年はガッツポーズを取った。

「プムチャナちゃんちっちゃいし、これくらいで俺を投げ飛ばせるとは思えないな」

 由隆は余裕の表情だ。彼もチャンバラ棒を投げ捨てる。

「それはどうかしら? そりゃぁっ!」

「うわっ、嘘だろ」

「驚いてるね、ハーレムボーイ」

 プムチャナは由隆に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。

「うっ、動けねえ。重いっ。俺より小柄なのに、なんてパワーだ」

「体重が重くなるシールを特殊なお尻に貼ってるから。うちのパンツ脱がぜばシールを外せるよ。やってみてね♪」

「……」

 由隆は対応に困ってしまう。

「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」

 副団長の少年はにこにこ顔で呟いた。

「由隆くーん、この子のおしりペンペンしてお仕置きしてあげて」

「ユタカさん、遠慮せずにやっちゃって下さい。泣かしてもけっこうですよ」

 千陽とパキュラモからそう言われるも、

「それは、ちょっとな……」

 由隆は何も出来なかった。

「紳士ね、ハーレムボーイ。それっ、縦四方固」

 プムチャナは柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。

「いってててぇーっ!」

 苦しがる由隆。

「そろそろ参ったって言った方がいいんじゃないかしら? きみの体、めんこみたいにぺっちゃんこになっちゃうよ。きみについてる二つのスーパーボールも潰れちゃうよ。きゃはっ♪」

 プムチャナは嘲笑う。その時だった。

「由隆お兄ちゃんをいじめちゃダメーッ!」

「由隆お兄さん、華奢な女の子に力負けしてしまってますね」

 麗菜と絵美理が駆けつけてくれた。

「こいつ、ケツに体重が重くなる特殊なシール貼ってるらしいからなんだ。いてててっ!」

 由隆は必死に言い訳する。

「そういうことか」

 絵美理はすぐに納得してくれたようだ。

「そこのお嬢さん二人は、オレと勝負しようぜ」

「あっ、あなたはこの間の男の娘!」

 絵美理は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ああそうだ。この間はよくもやってくれたな。根暗っぽい姉ちゃん、くらえーっ!」

 副団長の少年はそう言うや絵美理に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。

「こっ、こら。おっぱい揉まないで。力抜けちゃうけん」

 予想以上のすばやい動きだったため、絵美理はちょっぴり動揺してしまった。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、絵美理お姉ちゃんのおっぱい触っても楽しくないよ」

 麗菜は少年の背中をぺちぺち叩く。

「おまえのはまだぺったんこだから触りがいがないんだ。あと三年は待ってくれ」

 少年は尚も絵美理へのおっぱい揉みをやめてくれない。

「みんな頑張れーっ!」

「アタシ、期待してるよ」

 ミニサイズの千陽とパキュラモは檻の中から温かいエールを送ってくれた。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、その言い方失礼だよ。くらえっ! 水風船爆弾っ!」

 麗菜は手提げ鞄から水風船を取り出し、少年の背中に向かって何個も投げつける。

「ぎゃっ、うわっ、卑怯だぞおまえ」

 怯む少年、

「卑怯じゃないもん」

 麗菜は続いて水鉄砲を取出し、少年の顔面目掛けて発射。

「うおっ!」

 少年、とっさに右手で顔を覆う。

「次はこれだよ」

 麗菜、今度はシャボン玉を吹いた。女の子退治後、近くのファミレスで食べたお子様ランチについて来たやつだ。 

「ちょっと待て、シャボン玉液が目に入るだろっ!」

少年、顔の周りに多数のシャボン玉をまとわされ両手で目を覆う。ついに怒って絵美理の体から離れ、麗菜に襲いかかる。

「エッチな男の娘ね。さてと、あなたのパンツは、ワタシが脱がしてやるわっ!」

 解放された絵美理は尚も由隆に圧し掛かり続けるプムチャナの側へ駆け寄り、スカートを捲った。

「あんっ、やっ、やめてぇ~」

 プムチャナ、足をバタバタさせ必死に抵抗。

「シロクマちゃん柄パンツかぁ」

 けれども敵わず。絵美理にショーツを捕まれずるりと脱がされてお尻丸出しにしまう。

「なかなかきれいなお尻してるじゃん。手触りもいい」

「あーんもう、ぷにぷに触らないで。このお兄さんに剥がしてもらいたかったのにぃ」

「シールもシロクマ柄かぁ。相当なシロクマ大好きなのね」

絵美理はにやりと笑い、プムチャナのぷりんっとしたお尻に貼られていた、直径五センチくらいの丸っこいシロクマさんのお顔柄シールをべりっと剥がす。

「いったぁ~い。もっとゆっくり剥がしてよ」

 プムチャナは涙目に。剥がした部分がほんのり赤く染まっていた。

「剥がしたわ由隆お兄さん」

「ありがとう絵美理ちゃん、急に軽くなった。これで動ける」

 由隆はプムチャナの両肩をぽんっと押す。

「きゃんっ」

 プムチャナの体は簡単に由隆の体から弾き飛ばされ、尻餅をついた。

「うわっ!」

 由隆は気まずい面持ちでプムチャナから顔を背けた。

「ぃやーんもう、見ないで!」

プムチャナはとっさに露にされた箇所を両手で覆い隠す。

「俺は見てないって」

「絶対見たぁっ!」

「見てないから」

 由隆とプムチャナ、押し問答。

「まだ生えてなかったね。ってことはアノ日もまだ迎えてないっぽいね」

絵美理はくすっと笑う。

「女の子に見られたのはもっと屈辱だよう」

 プムチャナは涙目に。

「由隆お兄さん、プムチャナちゃんのお尻の汗が染み込んだこのシールいる?」

「いらねえ、そんな汚いの。絵美理ちゃん、手、洗った方がいいよ」

「お兄さぁん、失礼よ。うち、これ貼る前にハイビスカスの香りの石鹸で念入りに洗ったんだからね」

 プムチャナ、ますます悲しむ。

 そんな中、麗菜と副団長の少年が戦闘中。

「どうだ。オレのグァバ銃とマンゴスチン銃の威力は」

「あーん、服がべとべとぅ真っ赤っ赤。よそ行きのお洋服なのにママに叱られちゃうぅ」

 麗菜はけっこう苦戦しているようだ。

「麗菜ちゃん、俺が助けてやるからな」

 由隆は副団長の少年を取り押さえようと近づいていく。

「由隆くん、後ろ危ない」「ユタカさん、後ろ、後ろ!」

 千陽とパキュラモからこんな警告が。

「ん? ぐわっ!」

 由隆が振り返った瞬間に、細い紐に体中を巻きつけられてしまった。

「どうよ、必殺あやとり縛り♪」

 技のかけたのはプムチャナだ。得意げに笑う。

「身動きとれねえ。うわっ」

 由隆、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。

「こらーっ、アタシの編み出した技パクらないで。著作権の侵害よっ!」

 パキュラモは怒り心頭だ。

「由隆お兄さん、ワタシがほどきますよ」

「あたしも手伝うぅ」

 絵美理と麗菜は由隆の側へ駆け寄っていくが、

「あやとりはまだあと二本あるのよ。それぇっ!」

「きゃぁっ!」

「しまった。油断したわ」

 プムチャナに由隆と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。

「これで攻撃し放題だな」 

 副団長の少年、にやりと笑う。

「うち、絵美理っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい」

「いいぜプムチャナ」

「やったぁ! うちのお尻までばっちり見られた仕返ししてやるぅっ!」

 プムチャナはにやにや笑いながら絵美理の方へ近づいていく。

「くっそ、紐さえほどければ」

「ワタシ達、大ピンチだよ」 

「誰か助けてーっ」

 由隆、絵美理、麗菜。自分で紐をほどこうとするがほどけず。

「由隆くん、麗菜ぁ、絵美理ぃ。助けてあげられなくてごめんねー」

「アタシ、何も出来ないのが甚だ悔しいです」

 千陽とパキュラモは心配そうに水槽越しに見守る。

 そんな時、

「皆さん、お待たせしました」

 光帆もようやく駆けつけてくれた。愛大キャンパスから空飛ぶゴザに乗ってここまで来たのだ。

「光帆お姉ちゃんだっ!」

「おう! 光帆お姉さん。ボロボロだけど、大丈夫?」

「うん、かなり苦戦したけど、偶然通りかかってくれた慶作さんのおかげで助かったわ」

 降り立った光帆は嬉しそうに伝える。

「あら、まだ仲間がいたのね。でも弱そう」

 プムチャナは余裕の表情だ。

「そこの姉ちゃん、今日は思う存分揉ませてもらうぜ」

 少年は光帆に襲い掛かってくる。

「今日はくらわないわよ」

「それはどうかな?」

「きゃっ!」

 光帆はあっさりつかまえられ、押し倒されてしまった。

「アハハッ、弱ぁっ。あの子、まるでヤ○チャね。絵美理って子、生尻を拝見させてもらうわよ。それだけじゃつまらないな。あんたのきちゃないお尻にヤムイモとう○い棒ドリアン味プスッて突っ込んでやろうかしら。ちょうど持ってることだし。それからなわとびの鞭で十発くらい叩こうかな?」

 プムチャナはにやにやしながら絵美理の側でしゃがみ込む。

「あーん、屈辱だぁ」

 絵美理は照れ笑いする。

「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃない。ひょっとしてあなた、マゾ?」

「いやぁ、嬉しくはないって」

「本当かしら? さてと、まず手始めにあんたのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないじゃない」

 プムチャナはそのことにたった今気付いたようだ。

「プムチャナちゃんったら、ドジッ娘ね」

 絵美理はくすっと笑った。

「こうなったら、スカートの周りだけ紐外してやるぅっ!」

 プムチャナはスカートポケットから刃が変わった形をしたハサミを取り出した。

「あんたの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」

「おーい、俺の尻見たって何も特しないぞ」

 由隆は呆れた表情で主張した。

「ワタシも由隆お兄さんの生尻見たい! プムチャナちゃん、ワタシにも見せてね」

「いいわよ。まずうちが拝見してからね」

「よっしゃぁ!」

「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」

 由隆はいらっとした表情を浮かべていた。

「あたしは由隆お兄ちゃんのお尻、一昨日見たばっかりだよ。今までにも何度も見たことがあるよ。しょっちゅうお風呂いっしょに入ってるもん」

 麗菜はにこにこ顔で伝える。

「麗菜ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」

 由隆は穴があったら入りたい気分だった。

「羨ましい! どんな感じだった?」

 プムチャナは興奮気味に質問する。

「パパのお尻よりは小さかった」

 麗菜はにこにこ顔のまま答えた。

「そっか。まだ成長途中だもんね」

「ワタシが最後に由隆お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかな?」

 絵美理はにやついた表情で呟く。

「おまえら、いい加減にしてくれ」

 由隆、ますます居た堪れない気分に陥る。

「絵美理って子も見たことあるのかよ。ますます許せなくなったわ。こちらの麗菜っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげる♪」

 プムチャナはそう伝えてパチッとウィンクした。

「ええーっ、それは嫌だなぁ」

 麗菜は苦笑い。

「絵美理って子、大人しくしてなさい! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鋏はヤシガニの前肢から出来ててめっちゃ切れ味良いからね」

 プムチャナは絵美理のスカートに接している紐の結び目部分をチョキンッ、チョキンッ、チョキンッと三箇所切る。

「これでスカートずらせるわ」

 プムチャナがにやついた表情でそう呟くや、

「スカートずらせるだけじゃないよ、プムチャナちゃん」

 絵美理はガバッと立ち上がった。

「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」

 唖然とするプムチャナ。

「そうみたい。プムチャナちゃん、やっぱドシッ娘ね。これぞ真のヤシガニ事件♪」

 絵美理はにっこり微笑む。

「絵美理お姉ちゃん、自由になれたね」

「プムチャナちゃん、自滅したな」

 由隆と麗菜は安堵の表情を浮かべた。

「こうなったら、実力で」

 プムチャナは絵美理に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして絵美理のお腹にパンチを食らわそうとしたが、

「ワタシとケンカして勝てると思ってるの?」

 絵美理は余裕でプムチャナの体にガバッと抱きついた。

「よっと」

「あーん、おーろーしーてー」

 そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま麗菜のもとへ。

「麗菜、じっとしててね」

「うん」

もう片方の手で地面に落ちたヤシガニ鋏を拾い、麗菜の体に接している紐の結び目を何箇所か切る。これで麗菜の体は自由になった。絵美理は同じ要領で由隆の体に接している紐も、

「この格好のままの由隆お兄さんもなんか萌えるから、そのままに」

「こらこら絵美理ちゃん。早く切れって」

「絵美理、由隆くんで遊んじゃダメだよ」

「絵美理お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」

「冗談、冗談。ごめんね由隆お兄さん」

 一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。

「絵美理ちゃん、ありがとな」

「どういたしまして」

「さてと、あいつをなんとかしないとな」

 由隆はピコピコハンマーを持って、

「きみ、髪の毛の感触も良いね」

「あぁーん、やめて下さぁい」

尚も馬乗りで光帆を襲う少年に背後からそーっと近寄っていく。

「ちょっと後ろ、後ろ!」

 プムチャナは少年に注意を促す。

「えっ!」

 少年はくるっと振り返って反応したが間に合わず。

「あいたぁっ!」

 ピコピコハンマー、おでこに直撃。少年は瞬く間にミニサイズに。

「あ~、また負けちゃった」

 少年、悔しがる。

「よぉし、上手くいった」

 由隆はにこりと微笑む。

「由隆さん、処女喪失の危機にあったわたしを救って下さり誠にありがとうございました」

「いや、礼なら絵美理ちゃんの方に言って」

 光帆に満面の笑みで礼を言われ、由隆はけっこう照れてしまう。

「由隆お兄さんったら、謙遜しちゃって」

「あいてっ」

 絵美理に背中をパシッと叩かれてしまった。

「プムチャナちゃん、もう降参した方がいいんじゃない?」

 絵美理はにやけ顔で問い詰める。

「この状況じゃ、勝てそうにないわ。降参」

 プムチャナはしょんぼりした様子でそう告げた。

 しかしその直後、

「……なーんて言うと思った? これでも食らいなさい!」

 プムチャナはにやりと笑い、ポケットから棘棘した物を取り出して地面に叩き付けた。

 ボォォォーンと音を立て破裂する。瞬く間に辺りに強烈なにおいが立ち込めた。

「どうよ。必殺ドリアンボム。日本人にはこの香り耐えられないでしょう?」

 プムチャナは得意げにほくそ笑んだ。

「ナイス、プムチャナ。普通の日本人なら臭過ぎて気絶するだろうな」

 ちっちゃくなった副団長もほくそ笑む。

「プムチャナちゃん、ワタシがその程度で怯むと思った?」

 しかし最も至近距離で食らった絵美理を始め、

「臭いけど、まあなんともないな」

「わたしもかなり臭いですが我慢は出来ます」

「あたしはいい匂いに感じるよ」

 他のみんなも平然としていた。

「あれ? なんで耐えられるの?」「うっ、嘘だろ?」

 プムチャナと副団長は口を大きく開け、唖然とする。

「みんな、修行の成果がありましたね」

「おめでとう! 私もいい匂いに感じれたよ」

 パキュラモと千陽の所まで匂ってくるも、二人とも嬉しそうに微笑んだ。

「さあどうする? プムチャナちゃん」

 絵美理は再び問い詰めた。

「降参よ、降参。うちを痛めつけるのはやめて、お願い」

 プムチャナはやや怯えた様子であっさり負けを認めたようだ。 

「はい、はい。もう悪さしちゃダメよ」

 絵美理はプムチャナをそっと地面に下ろしてあげた。

「おまえもそんなかわいい顔で悪さするのは勿体無いぞ」

「分かった、分かった」

 由隆は副団長を元のサイズに戻してあげる。その直後、

「この水槽、ふたに鍵がかかって開かないよーっ!」

 麗菜が叫んで伝える。

「プムチャナちゃんか女っぽい少年、早く千陽ちゃんとパキュラモちゃんを解放してやれ」

 由隆が命令すると、

「分かりましたわ」

 プムチャナは素直にスカートポケットから鍵を取り出して水槽のふたを開け、中から出してあげた。ちなみにいっしょにいた昆虫や節足類や爬虫類達はパキュラモの攻撃によって気絶させられ、隅っこに積み上げられていた。

「これは由隆お兄さんがやってあげた方がいいじゃろ。好感度的に」

「俺がやるのか?」

ミニサイズの千陽とパキュラモは、由隆にピコピコハンマーでそっと叩かれ無事、元のサイズへ。

「由隆くん、ありがとう」「ユタカさん、サンキューです」

 千陽とパキュラモは由隆の手をぎゅっと握り締めた。

「いや、べつに当たり前のことをしただけだから」

 由隆は慌て気味に主張する。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、由隆の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。

「由隆お兄さん照れてる照れてる。ともあれワタシ達の勝ち決定じゃね」

「これでNIA団全員やっつけたね」

 絵美理と麗菜は満面の笑みを浮かべる。

「安心するのはまだ早いわ。じつはね、まだあとNIA団の残り二人が今頃対岸の広島市内を荒らしてるはずよ」

 プムチャナは得意げな表情で伝える。

「まだ残ってたのね。今から退治しに行かなきゃ」

 パキュラモはやや険しい表情でそう呟いてほどなく、

「プムっちぃ」「プムプム、聞いて聞いて」

 二人の少女が菱餅のような形の飛行物体に乗って、近寄って来た。二人ともプムチャナと同い年くらいに見えたが、派手な服装でギャルっぽい雰囲気の子だった。

(あのケバケバした風貌、慶作が一番嫌いなタイプだって言ってたな。まあ彼女らもオタクっぽい風貌のやつは一番嫌いなタイプなんだろうけど)

 由隆は心の中でこう思う。

「ウチら、怖いお兄さんにからまれちゃったよう」

「広島怖かったよぅ。もうイハマーニ王国へ帰りたぁーい」

 二人の少女は震えた声でこんなことを伝えてくる。

「あーんもう。まあうちも日本人に結局負けちゃったし、人のこといえないけどね」

 プムチャナはてへっと笑った。

「これで完全に俺達の勝ちってことでいいな?」

 由隆が確認を取ると、

「うん、うちらNIA団の負けや」「オレ達の負けでいいよ」

 プムチャナと副団長の少年はあっさり負けを認めた。

「あなた達の乗って来た潜水艦はどこにあるの? 教えなさい!」

 パキュラモが問い詰めると、

「ふたみシーサイド公園沖に沈めてあるわ。うちらのあと付いて来て」

 プムチャナがすぐに答えてくれた。彼女は空飛ぶゴザに副団長の少年といっしょに乗り、少女二人組も菱餅的な飛行物体に乗って、そこへ向けて飛び立っていく。

「空飛ぶ畳壊されちゃったから、エミリちゃん達のに乗せてもらうね」

「パキュラモさん、この空飛ぶゴザは、最大何人まで乗れるのかしら?」

「四人よ」

「それじゃ、わたしもこっちに乗るわ。由隆さんと千陽さんは二人きりで乗ってね」

「光帆お姉さんナイス提案♪」

「えっ!」

 戸惑う由隆。

「操縦出来るかな?」

 千陽は気まずいと思う気持ちはなく、このことが心配なようだ。

「自動運転なので全く問題ないですよ。ではお先に」

 パキュラモ、光帆、絵美理、麗菜の乗った空飛ぶゴザは、先に出発。

「……それじゃ、俺達も行こう」

「そうだね」

 由隆と千陽、ちょっぴりぎこちない様子で空飛ぶゴザに飛び乗り、少し遅れて出発した。数十秒でパキュラモ達の乗ったゴザに追いつく。プムチャナ他三名のNIA団員はそのさらに二〇メートルほど先を飛んでいた。

「ミツホさん、レイナちゃん、きれいにしますね」

「ありがとうございます」

「ありがとうパキュラモお姉ちゃん、これでママに叱られずに済むよ」

飛行中に、パキュラモはあの掃除機で光帆と麗菜の服や体にまとわりついたべとべとした汚れをきれいに吸い取ってあげた。

  ☆

「この場所よ」

夏は多くの海水浴客で賑わう、ふたみシーサイド公園に辿り着くと、プムチャナはリモコンボタンを押した。浮かび上がって来た物体に、

「姫だるまさんだぁっ!」「これまたユニークな形の潜水艦だな」「巨大姫だるまだね。私、乗ってみたいな」「本当にあれ、潜水艦なのでしょうか?」「他にそれっぽいの無いけん、きっとそうじゃろ。入口どこなんじゃろ?」

 由隆達日本人五人はあっと驚く。それは砂浜と接するように浮かんでおり、高さは三メートルくらいあった。

「イハマーニ王国で造られた飛行機や船は工芸品や民芸品、動物、食べ物型がほとんどよ」

 パキュラモが伝えた。

「ちなみにあの潜水艦は三十人乗りなの。見かけではそんなに乗れそうにないけど中はかなり広いわよ。雷に直撃されない限り最高時速が六〇キロしか出せないのは不満だけど」

 プムチャナは説明を加える。

「やっと解放されたー」「暑かったぞなもし」「みんなやられたのか」「日本人人強いな」

パキュラモは三つの懺悔ハウスから、収監したNIA団員達を出してあげ、元のサイズに戻してあげた。

「日本人の強さが分かってもらえたでしょ。みんな、今すぐNIA団を解散しなさい!」

 そのあとNIA団員みんなに厳しく命令する。

「分かったよ。オレ達じゃ日本や日本人を困らせることなんて、何も出来そうにないし。日本は広かった」

「うち、もうやらないって。日本人は手ごわかったわ」

 副団長も団長も、

「おいらももう日本でイタズラするの、金輪際やめる」「おらもだ。怖い思いはもうしたくねえ」「ぼくちんももう日本征服作戦はこりごり」

 他の団員達もみんなすっかり反省しているようだ。

「本当にそうしてね」

 パキュラモはにこっと笑って念を押す。その直後、

「こらぁっ! 金之助ぇっ、母ちゃんにナイショで日本へ行ってイタズラしてたのね」

 海の方からこんな怒声がこだました。

「かっ、母ちゃんっ!!」

 副団長は途端にお顔が蒼ざめた。

 こいつの本名、ついに判明である。少女っぽい容姿だが名前はしっかり男だった。

「まったくあんたって子は、学校サボってこんなバカなことして」

「かっ、母ちゃん。オレが悪かったって。ぎゃぁっ! ひどいよ母ちゃん」

 副団長の少年はドリアン型の蒸気船から降り立った、三〇代後半くらいで恰幅のいい紫色ロールヘアの母ちゃんにサッと担ぎ上げられショートパンツとトランクスをずるりと脱がされ、お尻ペンペンされる。

「この男の子、金之助くんっていうんだね」

「めっちゃ日本人名じゃん。生尻きれいじゃ。しっかり目に焼付けとこ」

「お姉ちゃんみたいなのに、夏目漱石の本名と同じ名前だね」

「なかなかいいお尻の叩き方ですね」

「外国人って感じが全くしないな」

「イハマーニ王国民は日本人名の子も多いよ」

 千陽達は思わず笑ってしまう。

「日本人の皆様、うちの金之助が多大なご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。二度と勝手に日本へ行かないよう、しっかり注意しときますので。これ、お詫びの品です。皆様で分けて下さいませ。五月いっぱいまで持ちますよ」

「あっ、どうも。重ぉっ」

 金之助くんの母ちゃんは由隆に、トロピカルなデザインの手提げ紙袋を手渡して来た。

 中を見てみると、パッケージにドリアンの果実と、中身が黄色く詰まったチョコレートの写真が付いた、ドリアンチョコが合計十箱。ちなみに一箱四〇個入りだった。

「これもイハマーニ王国自慢の名産品よ」

 パキュラモは笑顔で伝える。

「パキュラモ、金之助を日本へ来させてしまってごめんね。ほら、金之助も謝りな」

「いっ、て、て、てぇ。ごめんパキュラモ」

 金之助くんの母ちゃんはパキュラモに向かって深々と頭を下げて謝罪。金之助くんも無理やり下げさせられていた。

「いえいえ。アタシ全然気にしてないので」

 パキュラモは苦笑いを浮かべる。金之助くんのことを少しかわいそうに思ったようだ。

「ほら金之助、帰るよ」

「痛いよ母ちゃん、耳引っ張るなって」

「金之助ぇ、帰ったらしっかり父さんに厳しく叱ってもらいますからねっ!」

 金之助くんは母ちゃんにドリアン型蒸気船に無理やり乗せられ、一足先にイハマーニ王国へ帰らされた。

他の元NIA団員達も姫だるま型潜水艦に、胴体部分に設けられた横開き自動扉を通ってぞろぞろ乗り込んでいく。

「あなた達、二度と日本に攻めてくるようなことはしちゃダメよ。来るなら観光か留学目当てにしなさいね」

 パキュラモはさらに念を押して注意。

「分かった。日本のみんな、今度は普通に観光しに来るよ。ほな、おおきに」「それでは日本の皆様、グッバイ!」「日本人、またいつかお会いしましょう。ぼくちんのことも忘れないでね」「また来るぜ」「また松山に行くぞなもし」「ぼくは今度来る時は、雪遊びがしたいなぁ」「日本の皆様。またいつかお伺い致しますね」

 元NIA団員達は窓になっている目玉や口の部分から由隆達に向かって別れの言葉を告げる。彼らの乗った潜水艦は、窓が閉じられたのち動き出し、美しく輝く夕日に照らされながら徐々に沈んでいった。 

「あたし、NIA団とまた戦いたいなぁ」

「ワタシもーっ。NIA団のみんな、そんなに悪そうな感じじゃなかったね。平和な国の悪ガキ集団やけん、日本の悪ガキ集団と比べたら大人しいじゃろ」

「そうだな。金之助ってやつが母さんに引っ張れて行く無様な姿は笑えた」

「私、戦いはしたくないな。お友達になりたいよ」

「わたしも同じく」

「あいつら口では反省してるように言ってたけど、また襲ってくる可能性は無きにしも非ずだと思うわ。指揮を執るはずのアタシが一番足手まといになってしまって申し訳ない。みんな本当にありがとう。みんなのおかげで日本の平和は守られました」

 パキュラモは深く感謝の言葉を述べる。

「いやいや、俺はパキュラモちゃんが一番活躍してたと思う」

「そんなことないですよユタカさん。危険な目に遭わせてしまって申し訳ないです」

「気にしないでパキュラモちゃん。俺、今回の戦いけっこう楽しかったよ」

「わたしもヒーローショーに出れたみたいで、すごく楽しかったです」

「私も、けっこう楽しめたよ」

由隆と光帆と千陽は満足そうに伝えた。

「あたしはもっと戦い楽しみたかったな」

「ワタシももっと激闘を繰り広げたかったよ」

 麗菜と絵美理はちょっぴり名残惜しそうにする。

「あの、ユタカさん、チヒロさん、この場所は恋人の聖地ということなので、あそこの恋人岬で今いるあのカップルのように、腕を組み合って海を眺めてみてくれませんか?」

「パキュラモちゃん、人に見られるから、それはちょっと恥ずかしいな」

「あの、夜遅くなっちゃうし、みんな早く帰ろう」

千陽と由隆の躊躇いのしぐさを、他のみんなは微笑ましく眺めた。

「海水浴シーズン以外にここ来たの初めてじゃけど、やっぱ夕日がきれいじゃね」「そうですね」「パキュラモお姉ちゃん、ここはみかん味の夕焼けソフトクリームが有名だよ」「そうなんだ。一度食べてみたいな」「今から買いに行こう。とっても美味しいよ。私も大好き」「俺は夕日丼のが好きだな」

みんなはこの後ここを少し散策してから再び空飛ぶゴザに乗り、それぞれのおウチへ。

目的を果たせたパキュラモも、まだイハマーニ王国へは帰らずに、当初の予定通り今夜も越智宅でお世話になることにした。

      ☆

 三姉妹とパキュラモが帰宅した午後七時頃には、すでに夕食が出来上がっていた。

「おう、鯛めしにじゃこ天だぁ! それに、お刺身もいっぱい♪ あの愛媛名物だという、ポンジュースで炊いたご飯まであるぅ!」

 パキュラモは並べられていたメニューの数々に目を奪われ、大喜びする。

「パキュラモちゃんと明日お別れだから、今夜は少し豪勢にしたわよ」

「ありがとうございます。おば様、おじ様。この度は大変お世話になりました」

「いえいえ、そんな」

「ぼくの方こそ、パキュラモちゃんに感謝すべきだと思う。貴重な体験が出来たし」

 両親は謙遜気味だ。

「麗菜と絵美理と千陽は、パキュラモちゃんとお別れの挨拶しなくていいの?」

 母ににっこり笑顔で問われると、

「だって月曜に普通に学校で会えるし」

「私も学校行く途中で会えるから」

「あたしは下校途中で会えるよ」

 三姉妹は爽やかな笑顔で嘘を伝えておく。

「そっか。そういえば今朝十時頃、松山市駅周辺一帯で異臭騒ぎがあったみたいだけど、みんな大丈夫だった? 夕方の県内ニュースでやってたわよ」

 母に次にこんな質問をされると、

「そんなのがあったの?」

「ワタシ知らないよ」

「あたしもーっ。もう伊予鉄に乗ってたもんね」

 三姉妹は一応知らないふりをしておいた。

    ※

 午後八時頃。由隆の自室。

「駆け回ろうよ動物の国3、すごく面白いですね。イハマーニ王国のゲームショップでももう売られてるかな?」

「パキュラモさんにも楽しんでもらえて光栄です。おそらく今週の売り上げトップになること間違い無しの日本で大人気のテレビゲームですよ」

「ワタシと同じ部活の子にももう持ってる子が何人かいたよ」

「あたしのお友達も嵌ってる子が多いよ。3DS版もめちゃくちゃ面白いよ」

「由隆くんはこのゲーム、あまり興味なさそうだね」

「だってこれ、女の子向けだろ。あの、みんな、俺の部屋でやらなくても……」

 パキュラモ日本滞在最後の夜ということで、由隆と三姉妹とパキュラモと光帆、みんなで集まりテレビゲームなどをして楽しむ。頂いたドリアンチョコを時折口にしながら。

「あっ、ママから電話だ」

 その最中パキュラモの携帯の着信音が鳴ると、パキュラモはすぐに通話ボタンを押した。

『パキュラモ、NIA団退治、よく頑張ったね』

「うん、ほとんど日本人のお友達のおかげだけど。ママ、日本時間換算で明日の夜にはそっちへ着くように帰るね」

『いや、帰らなくてもいいのよ』

「えっ!?」

 予想外の返答に、ぽかーんとなるパキュラモ。

そのあとママから衝撃発言。

『ママとパパも、日本へ引っ越すことにしたから。パキュラモには言わなかったけど前々から計画してて、別荘のような感じだけど新居ももう決まってるの』

「えっ!! イハマーニ王国でお仕事あるでしょ?」

『それなら心配ないわ。最高時速一万キロ出せる最新式の超高速ジェット機を、イハマーニ王立大学院の理工学研究者に造ってもらったから、すぐに行き来出来るし』

「そっ、そうなんだ。新居って日本のどこ?」

『住所は愛媛県松山市の……』 

「そこって、アタシがお泊りさせてもらったここの近くじゃ」

「地区名同じだし、番地も近い。俺んちからけっこう近いぞ」

「由隆くんちから四軒隣のあのおウチじゃないかな?」

 由隆と千陽の耳にも届いたようだ。

「そういえば、そこ、入居者募集中って看板があったな。あそこか?」

「ってことは、ワタシと同じ中学に通うってこと?」

 絵美理も反応する。

「ママ、それじゃ、アタシの通う学校は?」

市立城浦じょううら中学よ。明後日月曜から通えるよう、もう留学手続きは済ませてあるの。制服その他学用品の用意も出来てるわよ』

「あっ、そっ、そう?」

 突然の予想外の報告に、当然のように動揺するパキュラモ。

「やっぱ同じ中学じゃん! やったぁ!」

「ということは、私達と近くで過ごせるってことだね」

「いっしょに学校も通えるね。パキュラモお姉ちゃん、これからもよろしくね」

「パキュラモさん、嘘から出たまことになったね」

 三姉妹と光帆は大喜びする。

「まさかこんなことになるとはな」

 由隆はちょっぴり気まずい心境だ。

『パキュラモ、明日直接迎えに行くわ。今いる場所の座標を教えてくれない?』

「分かった。ちょっと調べるね。えっと、東経一三二度四十……」

 パキュラモが携帯電話を眺めながら経度・緯度をミリ秒単位まで詳しく伝えると、

『あら、新居とほとんど同じ場所なのね。経度で一秒ちょっとしか違わないじゃない。緯度は秒単位まで同じだし』

 母は少し驚いた様子だった。

三姉妹はこの事実は、両親にはパキュラモちゃんの家族が、ちょっと遠い場所にあるマンションからこのすぐ近くの一軒家に引っ越してくるというように伝えたのであった。

     ☆

 午後十一時半頃、白石宅。

「ピコピコハンマーで叩いたら小人になった、二宮さんがゴザっぽいのに乗って飛び立った。あの昼間の出来事は夢でありますよね? あんな魔法少女アニメ世界のような現象、現実世界では物理学的に考えて起こるわけがないしぃ。僕はきっと白昼夢を見ていたのでしょうね」

 慶作は自室のベッドに寝転がり、今日買ったコミックを読みながら自問自答していた。


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