第一章 旅立ち
はじめましての方もそうでないかたも、この度は当作品をご覧頂きありがとうございます。
さて、この話は童話祭提出作品というわけで、童話……というか御伽噺をテーマにしております。とはいいましても、「童話」がテーマなら解釈は自由であるように企画説明を見るかぎり判断させていただきましたので、今回の話は15人の若者が魔王を倒しに旅立ったその結末の話と、それが後の夜に御伽噺として伝えられた際の、物語の表と裏をテーマとした一風変わった作品にしてみました。
御伽噺サイドは後世に『彼ら』の冒険が脚色と創作を加えて伝えられたならこうなるだろうという話ですので、御伽噺サイドと彼ら中心サイドでは一部台詞なども(別の人間が言ったはずの台詞が別の人間の台詞とされていたり)変更され、かなり御伽噺サイドは美化が施された仕様となっておりますが、そんなところを含め、お楽しみいただけましたら本望に思っております。
尚、この話を投稿している時点で最終話のみ今だ書き上がっていない状況でして、締め切り前日か当日の朝に最終話は上がる予定ですので、もしも童話祭の受付締切期間過ぎても最終話が上げられない際は「冬童話2014」タグは外させていただきます。その際はご迷惑おかけしますが、宜しくお願いします。
「では此処に、剣の国、弓の国、魔法の国3国の永久同盟を締結する」
――――――カラン、カランと福音の鐘が鳴り響く。
其れは祝福のように。
……まるで呪いのように。
「おめでとう」
そうして司祭の言葉を合図に、民衆は声を上げる。
「トルネス国王陛下万歳!」
「リヴァル国王陛下万歳!」
「アヴェリーネ女王陛下万歳!」
3人の英雄を、自分たちの希望を喜ばしいと、そう無邪気な笑顔で彼らは告げる。
それに、弓女王となった女は、美しく流麗なドレスを身に纏い、彼らの望む慈母の微笑みを浮かべながら、ああ、戻れないのだとそうただ再び思い知らされた。
……祝福は呪いであり、呪縛である。
真実はいつだって綺麗じゃない。世界はいつだって自分の見たいものだけを見る。
本当は自分たちは英雄などと呼べるものじゃなかったのだと、そんなことは死んでいった彼ら12人の為にも口が裂けても言えなかったけれど。
これから8年、国は平和が訪れる。
しかし、それがモラトリウムでしかないことくらい、3英雄と名付けられた彼らは知っていた。
だからこそ、生き残ったものの義務として、こうして国を造り、王となり、同盟を締結したのだから。何1つ問題が解決していないことを民衆だけが理解していなかった。
けど、きっとそれでいいのだろう。それを考えるのは民の役目ではないのだ。
……生き延びた自分たちに自由などありはしない。
それでも美しいドレスを纏い、民に向かって周囲の望む笑みで手を振りながら女王となった女は夢想する。
嗚呼、あの頃に戻れたらと。何も知らなかったお転婆な少女時代に。まだ、自分がアヴェリーネと呼ばれていなかったあの頃に。ただ無邪気に未来は希望に満ちていると信じられた頃に。
「3国に光有れ!」
……そうして神歴428年、3国の同盟は締結された。
* * *
これはむかしむかし、悪魔の住まう魔界と人間が住む魔の大陸が融合して間もない頃のお話です。
それまで魔界とマディウムは全く別の土地で人々も魔族もそれぞれ幸せに暮らしていました。
けれどあるとき起きた大地震で魔界とマディウムの次元の壁が破れ、その2つは融合してしまいました。
それに、人間も悪魔達も驚きました。
自分たちの楽園に、違うものがまざったのです。
彼らは言いました。
『ここはおれたちの土地だ。おまえたちは出て行け』
それに、魔族、悪魔と名付けられた翼有る民はこう反論しました。
『何を言う。ここはわれらが先祖が決死の想いをかけて1から創り上げた子孫のための楽園だぞ。おまえたち人間こそでていけ』
そうして人間と悪魔は争うようになりました。
歳月を経るごとに、魔界と大陸は境がわからなくなっていく一方で、ますますふたつの争いはひどくなる一方です。
魔族は人間より数はすくなかったですが、後に魔法と名付けられる不思議の力をもち、人間の10倍近く寿命もながく、ひとりひとりがとても強力でした。
そうして魔族との戦いで多くのひとが死にました。
多くのひとが嘆きました。
けれど、成果がなかったわけではありません。
魔界と融合してからの50年、ひとびとはその間に精霊とコンタクトをとるすべを手に入れたのです。魔界との融合により、精霊を通じて魔法を使う手段を得たのです。
人々は反撃に出る事にしました。
人間には王がいます。王様が死ぬとたいへんです。
そして、悪魔達にも王様がいました。
魔族は人間のようにおおぜいの王様がいるわけではありません。捕まえ尋問にかけた悪魔がいうには、魔族の王は一時代に1人だけだそうです。そして魔王だけがすべての悪魔たちへの影響力をもっているとのことでした。
それを聞いた領主や部族長、王様はこう考えました。
『そうだ、魔王を倒せばいいのだ』
幸いなことに、手に入った情報によると、魔王はここ数年ひとりでいることが多いとのことでした。
魔王を倒すまたとないチャンスです。
王様たちはお触れを出しました。
『魔王を倒すための勇者を求める』
と。
* * *
――――――神歴425年、春。
「うわあ、すっご~い」
自分たちと同じくその城下にある広場に集まった人々の光景を見ながら、明るい菖蒲色の髪を2つに結った少女は、その大きな翡翠の瞳をぱちくりさせながら周囲をキョロキョロと見渡していた。
そこに集うのは少女と同じ年頃か、それよりやや年長の人、人、人。
見渡す限りの戦士達。彼女同様、女性もいないわけでもないし、戦闘にむかない体つきにフードを身に纏ったもの……まあ、おそらくは魔法使いだろう、もいたが、原則としてはやはり年頃の男の戦士が大半だ。人種も多様であり、彼女には見覚えのない部族だって多くいる。
こんなに人が集まっているのを見るのはじめてだ。
彼女の出身であるヴァレンティア一族は全部で総勢120人くらいの部族であったし、それでも結構多いほうだと思っていたが、ここにこうして集まっている戦士達の数は200人はいるのではないだろうか?
流石は1500の民からなりそれを治めている『国』の城下だなあ、と妙に感心しつつ、彼女はそろりそろりと足を踏み出す。
「こら、アヴィーナ」
「きゃんっ」
急に名を呼ばれ、首根っこを掴まれ、アヴィーナと呼ばれた少女はそんな声を漏らして、今現在きっと呆れた顔をして自分を見ながら己の首根っこを掴んでいるのであろう青年に振り向いた。
そこにいたのは思った通りの姿だった。彼女と揃いの菖蒲色の髪を薄青色の布で止めた優しげな美しい青年。この前17歳を向かえ、妻子持ちの若き一児の父たる彼は、その優しげな細面に困ったような色を乗せながら、少女に向かい言った。
「私から離れたり、勝手に行動しないと約束しただろう」
「ご、ごめんなさい兄様」
そう彼はアヴィーナの兄だった。幼い頃からしっかりもので、ヴァレンティア一族の族長である父の自慢の息子でもあり、彼女にとっても自慢の長兄だ。名前はアークといい、意味は『森の声』。
そんな兄は見た目は優しげな落ち着いた青年だが、滅多に怒らないけど怒ると誰よりも怖く、弓の腕は一族で1番優れている弓の名手だった。自慢だが、アヴィーナ自身の弓の腕もまた兄の扱きのおかげで、一族の女の中では1番である。そんな彼女は兄のアークには全く頭があがらなかった。
「本当に反省しているのかい?」
「本当、本当、してます。も、大丈夫よ! 兄様から離れるつもりなんてこれっぽっちも欠片もなかったんだから」
そういって慌てるように弁明をする妹を前に、ふぅと菖蒲色の髪の青年は肩口まで伸びている横髪をかき上げながら言った。
「本当は私としては、今すぐにでもアヴィーナには帰ってほしいのだがね」
そうしてため息交じりに吐き出された兄の言葉にむっとしながらツインテールを靡かせた少女は、じと目で兄を見上げつつ強い調子でこう告げた。
「兄様……あたし、何度も言ったけど、帰らないからね」
「アヴィーナ……」
「兄様1人で行くつもりだっていうのもそうはいかないんだから。そりゃ兄様にはまだ敵わないかもしれないけど、あたしだってヴァレンティアの女よ。弓の腕なら兄様以外の誰にだって負ける気はない。それに義姉様と約束したもの。兄様ときっと一緒に名誉を成し遂げて帰るって。1人で行こうなんてそうはいかないんだからね」
「危険……といってもやっぱり聞く気ないんだね」
「危険が何よ、こちとら13の歳には大熊射止めてんのよ! 今更魔王の1つや2つでびびったりしないわ!」
そう彼女は啖呵を切った。
それは紛う無き少女アヴィーナの本心であった。
そう、この場に集まったものたちの目的はそれだ。「魔王」を倒す。そして英雄となり故郷に錦を飾る。それが此処に集まったものたちの願いであり目的であった。それをどれぐらい重く考えているのか、は人によってまちまちであったが。
「は、熊と魔王を一緒にするとか、とんだ嬢ちゃんだな、おい」
と、その時、そんな心底馬鹿にするような声が少女の耳朶を打った。
むっとしながら彼女は振り返る。
そこに立っていたのは瑠璃色の髪を1つに纏めた中々流麗な顔立ちの青年だった。
歳や背丈は兄と同じくらいであろうか。立派な青碧色の鎧を着ており、長剣を腰に差している剣士らしき青年だ。顔立ちはわりと格好いいように思えたが、言動とこちらを馬鹿にするかのような切れ長のアメジスト色をした瞳がなんというか最悪だ。
「つか、とんだ跳ねっ返りみたいだが、お前さんみたいなのは早死にするのがオチだ。とっとと帰ってクソして寝な」
「なっ、誰がお嬢ちゃんよ! もう月が二巡りもすれば、あたしは15歳になるのよ! それに初対面のあんたにそんなこと言われる筋合いないわ」
「ほう? 俺と1歳半しか変わらないと? そりゃ失礼したな。けど、どっちにしろお前さんはこの場には不似合いだよ。魔王との戦いは遊びじゃねえんだ……そんなお遊戯気分のやつにいられるとそれだけで迷惑なんだよ。……って、余計な世話か。どうせ、お前さんみたいなお嬢ちゃんは試験で落とされるか、こりゃ失敬、失敬」
「ぬぁんですってえええ!?」
そういって男はカラカラと笑った。そんな底意地の悪い笑みを浮かべる男を前に、アヴィーナはギリギリと歯ぎしりを立てながら低く唸る。
この場に集まった人間は、全員が魔王討伐のために集められた人材ではあるが、当然だが全員が討伐隊に選ばれるというわけではない。
何故なら下手に人数を揃えれば、その中には却って足手まといとなろうものも出てこようし、人数が多ければ多いほど食料問題もまた深刻になってくる。なにせ、この行軍は魔族の治める土地の中を誰からの援助もなく行わねばならないし、食料も現地調達するしかないのだ。下手に人数がいたところで1人1人の配給が減り餓死者が続出するだけである。更にいえば、大体このあたりという目星があるだけで魔王の居城がどこにあるのかすら、知るものは誰もいなかった。
そのため、生き残る力をメインとした試験を行い、それに合格したものだけが魔王討伐隊の栄誉を賜れる、そういう仕組みとなっていた。
最終的な合格人数は決まっていないが、まあ、いいとこ10人から20人くらいがせいぜいだろうと言われている。故に8割の人間は落とされることとなるだろう。そのため、男のこのからかいはつまり、お前じゃ試験を突破なんて出来ねえよばーか夢は家で見てろと言ったも同然であり、弓使いとして秀でた実力の持ち主だという自負のあるアヴィーナとしては、自身の矜持を傷つけられた発言だといっていい。
(ムカツク、ムカツク! 何この青髪男!?)
そう思い、よしこいつぶっ飛ばす! と彼女が決意しかけたその寸前で、すっと彼女と同じ髪色の青年がその間に割り込んできた。
「兄様?」
もしかして助けてくれた? と期待した彼女の気持ちは次の瞬間出された兄の言葉を前にしぼむこととなる。
「そこまでだ。まあ、貴殿の言っていることも気持ちもわからぬわけではないし、この子がちょっとお馬鹿なのは兄である私も認めるところではあるが、それでもこの子は大切な私の妹でね、それ以上の侮辱は聞き流せない。君も大人なら引いてはもらえないだろうか?」
「……兄様」
それ庇えてない。寧ろそれ貶してる。そう思い、大好きな兄にトドメをさされる形になった彼女はズンと沈んだ。しかしそんな妹の様子を歯牙にもかけず、友好的な態度でアークは言った。
「私は、ヴァレンティア一族の族長ボーウンドが長子アークという。こちらの子は妹のアヴィーナ。君の名前を尋ねてもいいかい?」
そしてアークはその言葉と同時に、柔らかな微笑みを湛えて、すっと右手を瑠璃髪の男に向かって差し出した。
握手を求めているのは明白だ。
それを見ながら涼しげな顔にほんの少しだけの困惑を浮かべつつ、男は言葉を零す。
「おいおい……俺はあんたの妹をぼろくそに貶した男だぜ? いいのか」
「おや、私の見たところ、君のあれはどちらかといえば親切心から出た警告だと見たのだが違うのかな?」
そういってアークはにっこりと笑った。隙のない笑みは時に攻撃に勝る。それを見ながら剣士らしき男は戸惑いがちに言葉を返す。
「……いや、それは好意解釈過ぎだろ」
「あはは、そうかもしれない。でも私はこういう時は自分の直感を信じることにしていてね。それに、これから共に魔王対峙に行く旅の仲間だ、仲良くするにこしたことはないだろう。違うかい?」
「……俺はリーヴだ。ドンウィルドの族長の甥に当たる。まあ、試験を突破したときはよろしくしてやらんでもない」
そういってリーヴと名乗った男は、アークの手を取った。
* * *
『魔王を倒すための勇者を求める』
そのお触れを前に数多くの人達が集まりました。
けれど、全員が魔王退治の勇者隊に選ばれたわけではありません。
なにしろ相手は魔王です。どんな力をもっているかもわかりません。
本当に倒せるのかも、しっているひとはだれもいないのです。
なので、王様や領主様たちは、試験をおこなうことにしました。
バランスがいいパーティーになるように、剣に優れたもの、弓に優れたもの、星読みに優れたもの、治療に優れたもの、魔法に優れたもの。それぞれにおいて、長けたものが選ばれていきました。
その中には、剣聖のリヴァル、聖弓のアヴェリーネ、大賢人トルネスという3英雄も含まれていました。
* * *
「ゲッ!」
第一の試験も終わり、明日行われるという第二の試験について考え込みながら、食事を取っていたアヴィーナは、木陰の向こう側からやってくる見覚えのある男の顔を前に思いっきり顔を顰めた。
「あ、なんだ、嬢ちゃん。あんたも残ったのか」
そう言いながらやってきたのは、昨日アヴィーナをぼろくそに貶したリーヴとかいう瑠璃髪の剣士だった。手には昼食らしいリンゴと干し肉を抱えており、食事の場を探していたようだ。
男はアヴィーナの姿を確認すると、ハンッと馬鹿にしたような声で次のように言った。
「嬢ちゃんみたいな甘ったれた小娘でも突破出来るとはな。この試験、甘いんじゃねえの?」
そういいながら、ドッカリとアヴィーナの斜め向かいへと男は腰を落とした。
(む、やっぱこいつ、ムカツク~!)
アヴィーナはそんな男の言動や行動に腹を立てながら、威嚇するような声音と表情で言葉を返す。
「は、そっちこそあんたみたいなのが残るようじゃ、どうやらよっぽど剣士部門の人手は不足しているようね! 大体何あたしの正面陣取ってんのよ。あっちいきなさいよね、ほら、しっし!」
そんな険悪なモードを隠しもせずに、手を振る少女を前に、リーヴは全くの平坦な声でこう返した。
「あ? 別にどこで俺が飯を食おうが別にいいだろ。大体ここはお前んちじゃねえんだ。文句言われる筋合いはねぇな」
「なんですって!」
「アヴィーナ、何を騒いでるんだい」
そういって後ろから現れたのは、彼女の兄であるアークだった。その両手には水袋とリンゴが2つ握られており、どうやら水とリンゴの調達にいっていたらしい。
「兄様っ」
そして兄が現れるなり、美少女台無しの顰め顔からぱっと華やかに表情を変える少女を前に、おーおーすごい変化、女ってこえーなどと至極どうでも良さそうに零しつつ、リーヴは干し肉にかじりつく。
そんな男にキッと鋭い視線を向けつつ、それでも大好きな兄を前に嬉しそうな顔を向けるアヴィーナであったが、アークは彼女の正面にいる人物を気付くと、妹である彼女を置いておいて、昨日知り合ったばかりの男に話しかけた。
「リーヴじゃないか。君も勝ち残ったんだね、おめでとう」
「そっちこそ。噂に聞いたぜ? 百発百中だったんだって?」
にっこりと笑いながらアークがそう瑠璃髪の剣士に尋ねれば、彼もまた妹相手にしているときと違って比較的落ち着いた態度でそう返す。それにアヴィーナはむっとしながら、兄の袖を引っ張りつつ言う。
「兄様! そんなやつと仲良くしないでよ。そいつ、酷いことばっかり言う無礼者なんだから」
「無礼? いつ俺がそんなの働いたんだ? 俺は正当な評価しか下してねえぜ」
「なんですってえ?」
口元に馬鹿にしたような笑みを加えつつそう返す男を前に、アヴィーナが眉を釣り上げた。どうやらこの2人は昨日といい今日といい、そりが合わないらしい。
そんな妹とそれに対する男に対して、アークは仕方ないなあといわんばかりのため息を1つ落としてから、2人に向かい合い言った。
「リーヴ、からかうのがいくら楽しいからってあまりうちの妹で遊ばないでくれよ。純真な子だから真に受けてしまうんだ。それからアヴィーナ、君もすぐに人と喧嘩するようじゃ、やっぱりこの旅には連れていけないな」
「だって……兄様」
「私の言っていること、わかるね?」
「はい……」
「それじゃあ仲直りの握手をしておいで」
そういって、アークはポンポンと自身の妹の髪を撫でた。それに少しだけ気分を浮上させつつも、これからすることを思えばうんざりするような気持ちで、アヴィーナは瑠璃髪の剣士の前にまで進み、キッと翡翠の瞳で男を睨みつつ言った。
「……言っとくけど、兄様の命令でもなきゃ絶対にあんたなんかと仲良くしたりはしないんだからね」
「それが友好を結ぼうとしている相手にいう台詞と態度か?」
「煩いっての。その台詞あんたにだけは言われたくないわ。……ヴァレンティアのアヴィーナよ。もし万が一あんたがこの先の試練も残ったらせいぜい表面上は仲良くしましょう」
「仲良く云々はともかく、足ひっぱんなよ」
「どっちが」
「お前が」
* * *
そうして最終的に決まったのは15人の若者でした。
その中には魔法に長けた双子や、大柄な槍兵、竜殺しであったと言われている女剣士に獣使いもなどもいたそうです。
* * *
勇者の選定から1週間後、軍資金を元にしっかりと体調を整えたアヴィーナはドキドキしながら其の日を過ごしていた。なにせ、今日の午後にはもう出発だ。
全部で自分や兄を合わせて、今回の討伐隊には15人が選ばれたという。……今更だが、責任が重くのしかかる。自分たちはなんとしてもこの旅で、魔王を討たねばならないのだ。
なにせ、魔王の存在が知られてから約40年の月日が流れるが、魔王が1人になるようになったのはここ数年間だという。いつまた群れだすかわからないし、チャンスはそうあるとは思えないし、成し遂げれなければきっと……自分も兄も死ぬ。
朝食後の城下での集まりで、はじめて自分たち討伐隊は全員と顔を合わせることとなっているが、上手くやっていけるかも少し心配でもある。
(いえ、こんなマイナス思考いけないわ。やれない場合を考えるんじゃない、やるの!)
そう思って、気合いを入れる意味を込めて自分の頬をパンと叩いた。
(装備オーケー、髪オーケー、魔除けオーケー、弓と弦オーケー。うん、ばっちり)
「アヴィーナ、そろそろ行くよ」
そういってひょっこりと顔を見せたのは、先ほどまで備品の最終チェックを行っていた兄のアークだった。その優しげな兄のいつもの微笑みにほっとして、アヴィーナは「うん、今行く」と答え、駆けた。
そうして宿を後にして、集まりに近づいた時、見覚えのある瑠璃色を前に、思わずアヴィーナは「げっ」とまたも淑女らしからぬ言葉を吐き、ピタリとその動きを止めた。
そんな妹の様子に気付いているのか……まあ、おそらくは気付いている上で問題無しと判断しているのであろうが、アークは、ここ数週間ですっかり顔見知りとなった男に向かって、にこやかに挨拶を投げかけた。
「やぁ、リーヴ。やはり君も選ばれていたんだね」
「ああ、そういうお前もやっぱり試験突破していたのか。納得だ。しかしまあ、そこの嬢ちゃんまで突破してるとは思ってなかったがな。……こりゃ不正した審査員でもいるんじゃねえか?」
そういってアメジストの瞳に少々苛立っているようにも見える色を乗せて、口元に皮肉気な笑みを乗せながら、男は少女を見やった。
(うわ、本当こいつ本気でムカツク!)
「ふん、おあいにく、あたしはこれでも実力派なの! あんたはコネなのかもしれないけどね」
「あ? どういう意味だ」
暫し互いに険悪なムードが流れる。しかし今回はこの2人を止めたのは少女の兄ではなく、聞き覚えのない声の青年だった。
「はいはい、君たち、知り合いなのはわかったから、こんなところで喧嘩はやめたまえ」
そういって手をパンパンとはたきながら出てきたのは、なんだか酷く苦労性な香りのする剣士らしき短髪の青年だった。背は高く、右頬と右の額に傷が残っており、年齢は20歳前後だろうか。平均寿命が30代半ばなこの時代においてはわりと年嵩であるように思われる。両腰に異なる剣を差しているあたり、双剣使いなのかもしれない。
その男がリーダーシップを発揮して、大きな声で周囲に聞こえるようこう告げた。
「さて、みんな集合してくれ。出発前に自己紹介を行おう。なにせ僕らは互いに互いのことを知らないからね。何が得意かわからないと戦術や役割分担もわけるのが困難になる。よって反論は受け付けない。……とはいえ、人から名乗らせるのは失礼だ。僕から名乗ろう」
そういって短髪の双剣使いらしき青年は名乗った。
「僕の名前はカズ。アマニエの一族出身だ。武器は双剣。干し肉造りはわりと得意だ。次、えーと君」
そういってカズという青年はテキパキと司会を進行させるべく、隣にいた女性に話題を振った。
「えっと……ワタシは……針使いの、マリリンです……。アシリンナ一族からきました……戦闘には役に立ちませんが、薬草や毒草の知識と針治療が行えマスので……その、お役には…………立てるのではないかと……」
ボソボソと小さな声でわかりにくかったが、どうやら治癒師として派遣されたらしい。小柄で顔立ちもぱっとしない、この場に似付かわしくない少女だったが、医学を知るものが1人でもいれば、病気が発生したさいにも生き残れる確率が高まる。そういう意味では必須の人材だった。
「あ、はいはい、おれおれ! おれはメリックってんだ! ボウガン使いで、こう見えてもベルーシの一族じゃ1番の使い手だったんだぜ? 木登りとかも得意だし、結構目いいんだぜ、おれ!」
そういって元気いっぱいに答えたのは、翠の髪を頭上で結い上げた悪戯そうな少年だった。歳は12か13歳くらいだろうか。とても若く、森に溶け込むような軽装をしているソバカスが印象的な少年だった。
「へえ、結構オイラと名前似てんなあ、気に入ったぜ。オイラ、縄使いのチェリックってんだ。ルーイエの一族出身で、縄の扱いと身軽さなら誰にも負けねーだ。トラップ作りも得意だべよ。みんな、よろすくな!」
そういってにっこり笑ったのは、焦げ茶色の巻き毛とメリック以上にソバカスだらけの顔をした小柄な少年だった。年の頃は15前後か。外見はそこまで似てはいないが、名前と雰囲気が似ているせいかメリックと並ぶと兄弟のようだった。
「オ……オラは……ベスト……。その魔王さ、退治いってけろ、言われ、送り出されただ……ポロピエの一族出身で、えと……その……槍使い……だ。頑丈さしか……取り柄ないだが、よろしくだ……」
次におずおずとそう自己を紹介したのは190㎝はあろうかという大男だった。体格は良くがっちりしており、鍛えられた体躯は頼りになりそうな印象だというのに、性格はどうやら弱気で自分に自信がないタイプのようらしい。もしかすると自主的に討伐隊に希望したのではなく、この様子では一族に言いくるめられて送られただけなのかもしれない。
そんな気弱なベストの自己紹介を聞いて、鼻で笑うようにしながら、ベストの次にこの中では最も体格の良いであろう青年が自己紹介をした。
「俺ぁ斧使いのオーグ様よ! こっちのこいつはただの臆病デカブツのようだけどよぉ、俺様は違うぜ! なにせ、魔王を倒すのは誰でもない俺様だからな! それがアマスク族族長の息子たる主人公の俺様の役割だからな、がっはっは」
その自己提示欲塗れの自己紹介を前に、少し鬱陶しそうな顔をしながら、女剣士が口を開いた。
「……ヴェレーネ一族のリジィだ。剣士をしている。獲物を捌くのは得意だ」
そう、褐色の肌にサーモンピンクの髪をした女性は短く締めくくった。女性とはいえ、剣士というだけあるのか、一般男子の体格に負けぬほど体つきはガッシリしており、鎧の隙間から垣間見える二の腕も腹筋も男の戦士と遜色がないほどであった。古傷だらけの体は先ほどのオーグよりも余程歴戦の戦士を思わせる。ただ、それでも頭上で結い上げた、手入れの行き届いた髪だけが彼女の女性部分を匂わせていた。
そんなリジィと名乗った女性を見て、クスリと小さく笑みながら、長い髪とソバカスが素朴な優しげな女性が次に口を開き自身を紹介した。
「わたくしはミアンナと申します。カズ様と同じくアマニエの一族出身です。わたくしの能力はまあ……獣使い、とでも申しましょうか。動物と意志の疎通を図り、斥候や野営などに尽力させていただくことになるかと思います。他にも陽動なども行えますが、皆様どうぞよろしゅうお願いします」
そういってペコリと彼女は頭を下げた。
「えっと、次は……」
そういって、短髪の双剣使いは次に話を送ろうとして、困惑をした。
というのもそこにいたのはこの平均寿命30代半ばの時代においても、紛う事なき子供だったからだ。歳は10歳前後といったところか。
それでも、カズの声で次は自分の番だと気付いたのだろう。全く同じ格好をしたよく似た顔立ちの2人は、短く告げた。
「ラル」
「カル」
どうやら釣り目の無表情な子供が「ラル」で、垂れ目の笑みを浮かべている子供が「カル」らしいが、それだけでは彼らがどういった存在なのかはわからない。なので困ったように質問をしようとしたカズを前に、その2人の背後に保護者のようにつきそうフードを目深に被った男が、問われるより先に謝罪しながら、次のようなことを口にする。
「すみません、この子達は人と話すことがあまり得意ではないものでしてな。この子達はパライソ一族の出身で、今は儂の弟子をしております、双子魔道士のラルとカルです。ラルは重力と雷の魔法、カルは草と土の魔法の使い手です。子供ではあるが、魔法使いとしての能力は並の大人より余程ある故、戦力としては安心召されよ」
「えっと、失礼ですが、あなたは?」
そういってカズが訊ねると、フードを目深に被った男は、少しだけおかしげに笑いを漏らしてから答えた。
「これは失礼を……儂はトルネスという、しがない魔法使いよ」
「トルネスって……賢人トルネス!?」
その男の名乗りにどよめきが沸き上がる。
そんな周囲のざわめきを前に、アヴィーナはこっそりと隣にいる兄にそれを訊ねた。
「兄様、トルネスって? 有名人なの?」
「ああ……そうだな。有名人だよ。火・水・風・闇・時の五種の魔法を操り、そのカード占いは100発100中だという。最初に魔法という理論を組み上げ、定めた人とも言われている」
「そしてそのフードの下を見たものはいないってな。……しかし解せんな……なんでまた賢人トルネスなんて大物が出てくるんだ? 噂じゃ30越えたジジイだって聞いたが」
「さあ? それはしらないけど、どちらにせよ心強い味方には違いない」
気付けば話の輪にはリーヴも加わっていた。確かに話をふったのは自分ではあるが、気に入らない男が兄と自分の話に割って入ってきたことに少しだけむっとしながらも、アヴィーナもまた考える。
魔法については以前少しだけ父からその概要を聞いた事はあった。
先天的に才のあるものだけが結べる精霊との契約。精霊から出される試験に打ち勝ったもののみが使役出来る術。それが魔法だという。
そして……たとえ精霊との契約には至らず魔法使いとしての素質を持ち合わせておらずとも、それでも人は人として生まれた時点で、11の属性のうち必ず何がしかの適正属性と反属性を持ち得ているのだという。そしてそれは悪魔とて例外ではない……寧ろ属性により受ける恩恵も被害も人間より顕著なのだと。
それが本当ならば……果たして、魔族を統べるといわれている魔王の反属性は何なのだろうか?
「……バードくん、ね。そうか、君は短槍使いね」
そんな思考に没頭しているうちに次の自己紹介に移っていたらしい。アヴィーナがはっとして視線を上げると、兄が自己紹介を開始していた。よく聞いていなかったが、どうやら兄の横に立っている小柄で無口そうで無愛想そうな少年がどうやらバードという名前の持ち主のようだ。そうこう確認しているうちに自分の番になった。
「君は?」
「あたしはアーク兄様の妹のアヴィーナよ。ヴァレンティア一族でも弓の腕は兄様の次に上だったんだから、戦闘ではどんと頼りにしなさいよね。よろしく!」
「いや、1番取ってから言えよ、それ」
「うるさい」
茶々を入れてくる瑠璃髪男を睨み付けて、アヴィーナはツーンとそっぽを向くと、全くしょうがねえ嬢ちゃんだ、と言わんばかりの態度を取って最後にリーヴもまた己の名を語った。
「リーヴ。ドンウィルド一族出身で見ての通り剣士だ。まあ、長い付き合いになるか短い付き合いになるかは知らんが、出来れば長い付き合いでありたいもんだ」
* * *
そうして国と民に送り出され15人の勇者達は旅立ちました。
こうして彼らの冒険が幕を開けたのです。
続く




