少年
大変遅くなってしまいすいません。悲しみの蒼空の2話目です。感想、意見などをお待ちしています。
2025年 5月4日 午前8時55分
太平洋上空 訓練空域
合同軍事演習1日目
見上げれば頭上には群青色の空間が広がっている。手を伸ばせば届きそうなくらい近くにある。その空間に時々太陽の光を反射し、煌めくものが見える。
「...こちらエンジェルリーダー」
「ターゲット確認。機数5」
「全機、C隊形」
「マスターアーム、オン」
隊長の合図により、一瞬で隊形が変化する。
「ニックとアルフは俺に続け。残りは援護だ!」
『了解!』
『おい、竜。ちっとは手加減してやれよ?相手は新米なんだからよ』
後席の少年がスイッチを操作しながら、呆れたような口調で竜という少年に話しかけた。
「手加減?奴等は素人じゃないんだ」
竜はそれに対し冷たい口調で返答する。
今日は合同演習1日目。初日の訓練は、アメリカ空軍部隊『ウルフズ』との空対空戦闘訓練である。ウルフズには、教育訓練過程を終了したばかりの少年達が所属している。
その部隊を率いるのは、アメリカ空軍で第2位の腕を持つエースパイロット、ダニエル・ヘイデンだ。
「隊長!敵はファントムですよ!楽勝じゃないですか!」
「油断するな。奴は15歳で自衛隊のエースになった男だ。お前らが簡単に倒せる相手じゃない。」
「ファントムめ!俺が倒してやる!」
まだ訓練を受けたばかりの少年達は敵が旧式のファントムであることに油断していた。だが、ヘイデンは違っていた。
ヘイデンはレーダーで微かに1つの機影を捉えた。だが、はっきりとは映らない。そう、敵の少年のファントムには特殊な塗料『フェライト』が塗ってあるからだ。ヘイデンはそれをまだ知らなかった。しかし、長年の勘から気付いたヘイデンは戦闘開始の指示を送る。
「ウルフズ、これより戦闘を開始する。 Engage!」
「どうやら敵はステルスのようだ。油断するな」
敵は5機編隊であるという情報を受けていたが、1機しかレーダーに映らないため彼はステルス機であると気付く。
「さてと、楽しませてもらおうか」
彼はぽつりと呟いた。
†
「ターゲットインサイト!真正面から5機だ!」
正面から敵が突っ込んでくる。
「ヘッドオン!B隊形」
『了解』
「全機、ECM開始!」
各機体に搭載されたECMポッドの電源が入れられる。
「来るぞ!」
敵役のF-15C、4機が音速の2倍の速さで突っ込んでくる。4機のイーグルとF-4F改スーパーファントム、FR-02散花で編成された全5機のエンジェル隊がすれ違う。
少年はすれ違いざまに操縦幹に付けられたトリガーを引く。
カチッ
次の瞬間、機首下部に搭載されたM61バルカン砲が火を吹く。今回は実弾ではなく、当たると赤い塗料が付着するペイント弾を使用している。
すれ違いざまに放った砲弾は2機を正確に撃ち抜いた。弾が当たった敵機は赤く染まった。
「クソッ!ウルフ3被弾、空域を離脱します」
「ウルフ4、被弾。同じく離脱します」
被弾した機体は空域を離脱する。少年は機体を反転させ、機首をヘイデン達の方向に向ける。
「やったぜ!撃墜だ!」
エンジェル隊2番機のニックはアメリカ出身のエリートパイロットだ。だが、彼の過去は誰もわからない。わかっているのは両親がいないことだけだ。
「よし、ニック、アルフ挟み撃ちだ。行くぞ!」
「ラジャー」
ニックは挟み撃ちをするため、機体をヘイデン達から遠ざけていく。竜と言われる少年は囮となるためヘイデン達の前に出る。アルフはそのヘイデンを追う。囮の少年はヘイデン達をじわりじわりとニックとの合流ポイントへ導いて行く。少年は微かに笑っていた。
†
ヘイデンは目の前にいるファントムを一心不乱に追っていた。このファントムさえ落とせば自分は腕のいいのエースパイロットであるということ少年に思い知らせることができるし、こいつさえ落とせば、アメリカ空軍1のエースになれる。
「こいつさえ落とせば…俺は…」
目の前のファントムに釘付けになっていたヘイデンはレーダー映る機影に気づいていなかった。
目の前からファントムが一瞬で消える。
「なにっ!」
そして、ヘイデンの正面からニックの乗った散花が現れる。次の瞬間、機銃掃射。
ヘイデンのF-15Cのコクピット部分が真っ赤に染まる。撃墜だ。
「そんな…やられたなんて…そんな」
更に、アルフによって最後の1機が撃墜される。これで、ウルフズ全機が撃墜された。エンジェル隊の勝利だ。
「よし訓練終了だ。エンジェル隊、帰投するぞ」
『了解』
「今日も疲れたぜ…」
合同演習1日目、ウルフズとの空対空戦闘訓練はエンジェル隊の勝利で終了した。




