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第57歩:ギフト8

 

「どこが無人だっつーの!むしろ多いって!」

 

 そんなことを嘆きつつも、《失敗作》は現状を理解もせず、鵜呑みにして、対応を始める。そんな《失敗作》に標的を絞って、会話をする六人の希崎 時雨。

 

「よう」「数日振りだな」「元気してたか?」

「お前の所為で元気がなくなったつーの」

 

 わざわざ面倒くさいことに、一言一言喋る人間を変える希崎 時雨。話しているのはたった《一人》分の言葉なのに、会話を畳み掛けられているような気分になる。

 いや……この希崎 時雨を《一人》分と括ってしまっても良いものだろうか?肉体的ではなく、精神的に。そもそも、こんなものを、人間と定義してしまっていいのだろうか?

 

「それは」「悪いことを」「したな」

「んなら、とっとと消えてくれ」

 

 統御された希崎 時雨の動き。こんなにも統御された言葉の紡ぎ方をしている希崎 時雨には確かにここの意思なんてないだろう。でも、だからといって、六人が六人、まったく同じ思考をしているからといって《一人》と見なしても良いのだろうか?

 

「いや」「出来れば俺も」「消えたいけど」「そいつになんかされると」「俺が榎凪に」「何されるかわからねぇし」

「なこと、知らねーよ」

 

 これらはどちらかと言えば、《一群》と見なしてしまうべきではないだろうか?例えば、国のように。億万の人間がいるにもかかわらず、国の意思とされるのは一握りの政府が決定しているような、そんな話。この内の一人が代表として意思となんている、それだけの話で、《一群》と括るのが一番良いのではないだろうか?

 

「んじゃ」「知っとけ」「何にせよ」「俺は」「お前を」「止めなきゃならん」

「お前って、そんな熱血だっけ?」

 

 そんな括りがあろうがなかろうが、《失敗作》が六人分の体を持った希崎 時雨という集団を相手にしなければならないのは事実。

 

「いや」「熱血じゃないが」「俺も少しばかり」「変わったっつーか」「何っつーか」「少なくとも怒ってんだよ」

「あー、そういえば、お前、殺してんだよな、俺」

 

 まぁ、うすうす気付いていたことではあるが、やはり間宮 和湖と希崎 時雨を殺したのは《失敗作》だったようだ。

 別にこんなことで怒ったりは、しない。僕にとっては、もう如何でもいいこと、だから。

 

「殺した?」「殺された?」「死んだ?」「死なされた?」「何言ってんだ」「テメェ」

 

 日常の会話のように、六者六様におどけながら、笑ってみせる。

 狂気だ。狂喜している。希崎 時雨の異常性が、僕の中に流れ込んでくる。キモチワルイ。こんなのは、人と定義していいはずがない。生命と定義していいかすら危ういほどに、自分が殺されたと聞いて、狂喜している。異常だ。間違いなく、希崎 時雨は異常だ。

 

「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」

 

 笑い声が木霊する。異常な笑い声が木霊する。そこらじゅうから、気持ちの悪い笑い声が、木霊する。

 

「テメェ」「俺が誰だかわかって」「それ言ってんのか?」「だとしたら」「救いようのない」「馬鹿だな」

 

 希崎 時雨は笑うのをやめ、《失敗作》を小馬鹿にするような、嘲笑とともに、喋る。

 

「お前ら二人にわかるように丁寧に説明してやるから!」

「耳の穴かっぽじって聞きやがれ!」

「俺は、『神々の墓守』にの副長にして!」

史上最悪しじょうさいあく絲状災厄(しじょうさいやく)をもたらすと謳われた!」

「魔法使いをも凌駕する古今独歩の最強凡人!」

 

 そこでニタリと、《失敗作》なんて比ではない気味の悪い笑みを浮かべて、名乗りを上げる。

 

「人形師『フェイカー』とは俺のこと!」

 

 そこでまた、異常な狂的な笑いを木霊させる、人形師(きざきしぐれ)。今すぐにでも、《失敗作》が破壊できそうなほどな、強力な殺気と、戦慄が僕にまで伝わってくる。

 

「俺は」「嘘吐きでね」「自分が死んだって」「嘘ついたら」「面白いぐらい」「お前は引っかかってくれたな」

 

 なんという生命だろう。自分の死亡さえも偽るなんて、狂気の沙汰としか思えないことを、平然とやってのけた。

 ありえないとしか思えない。

 あの駅前で死んでいた、ばらばらな希崎 時雨は一体なんだというのだろうか?

 この山の中で死んでいる、僕に寄りかかった希崎 時雨は一体なんだというのだろうか?

 

「さぁて」「口頭説明はおわったし」「リベンジマッチといこうか」「それにつきまして」「お前にゃ退場してもらうぞ」「じゃあな」

 

 え、と声を上げる暇もなく、僕は後ろに引っ張られるような感覚とともに、吹き飛ばされた。自分の重ささえ感じないように、軽々と飛ぶように。

 流れるような景色のなか、希崎 時雨が見えた。

 僕の後方に向かって手を振り上げるような動作をしている希崎 時雨六人。

 僕という支えをなくして地面に伏せた、希崎 時雨の死体。

 後見えたものといえば、金色の瞳で声も出さずに見送る《失敗作》。

 それと、もう一人、誰か、いるはずのないもう一人の誰かが、見えた気がした。

 僕はそれが確かめられないまま、乱暴に投げられたので木に激突し、受身も取れなかったので、あっけなく、本当にあっけなく、何も見届けないままに、視界をかすませ、意識をブラックアウトさせた。

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