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第35歩:FACE-2

今回は七割方セリフです。あえてそういう使用にしてあります。決して手を抜いたわけではないですよ。

 向き合い僕らは語り合う。まずは取るに足らない話から。


「何で、そんなにも性格にギャップがあるんですか?個人的には今の方がいいんですけど、いまいち落ち着かなくて。疑問が払拭されないのは居心地が悪くて仕方ありません」


 僕は言う。


「ん?あぁ、あれね。やっぱ、最初っつーのはインパクトいるじゃん?それにさ、あそこで誰か反論しとかないと不格好だし無覚悟に話が進むだろう。大地以外に反論できそうないし、その張本人も賛成ときた。こりゃ、反論するしかないだろ、ん?それに、」


 時雨さんはシニカルに笑い、


「そうした方が面白いだろ?」


 とだけ言った。

 本当に楽しそうに、一片の哀切もなく愉快に、声を踊らせる。言ってることは自分本位で、やってることも自分本位、それなのにどこか他人を巻き込んだ口調。


「はい、次っ!聞きたいことが山ほどあるなら、ちゃっちゃと聞け。俺は誰かさんの所為で忙しいんだ。いや、忙しかったと言うべきか。いや、忙しくなると言うべきか……」


 視線を逸らしブツブツとつぶやく時雨さん。だけど、意味が分からない。時間的にめちゃくちゃだ。そんなことはどうでも良いとして、ぼやくほど忙しいならわざわざこんなとこ居るんだろ?居なくなられたら居なくなられたで困るけど、何ともお人好しとしか考えられない。

 大地さんも、和湖さんも、夏雪さんも――なんかみんながみんなお人好しだ。

 時雨さんに言われた通り、僕は問う。


「じゃあ、二つ目の質問です。何であなたはここに居るんか?恥ずかしい話ですが、僕の記憶力はかなり薄弱です。僕は夏雪さんとここにいた記憶はあるはあるんですが、僕がここに寝ていた覚えも、あなたが居る理由も分かりません。ある程度推測はできますが、根拠がないので確証がもてないんです。知っていたら是非教えて下さい」


 あくまで静かに、無感情に僕は問う。

 時雨さんは僕に目線を会わせ、また皮肉った笑みを浮かべて、饒舌に話し出す。


「いちいち話しが長いんだよ。理屈っぽくひねくれやがってっ!長い文は無駄無駄無駄。はっ!記憶力が薄弱ぅ?推測はできるが根拠がないぃ?度々そんな言い訳、言ってんじゃねーよ。不要だな、無意味だな、無意義だな、存在価値ゼロだな。それに、知ってたら教えて下さい、だ?こっちは聞きたいことがあったら聞けっつってんのに、何で今更再確認とってんだよ。ウザいな、片腹痛いな、滑稽だな、笑止千万だな」


 うわ、酷い言われようだ。完膚無きまでに、隅から隅まで駄目だしされた。

 今思ったんだけど、時雨さんの言葉も十分長い。絶対口にしないけど。


「あー、何だっけ?あぁ、そうそう『俺が何でここにいて、何で夏雪がいないのか』だったな。ふん、いちいちどうでも良いことを聞きたがるな、お前は。まぁ、質問されたからには疑問の欠片が欠片も残らないよう欠片を組み立てて答えてやろう。まずは俺がここにいる理由だ。根拠無くてもできる推測だろう、こんなの。誰かの替わりに誰かが居るって事の理由は二つ。偶然通りかかって猫のようによって来たか、必然的に誰かに頼まれ犬のように待っていたか、の二つ。

俺さっき忙しいっつったよな。

誰が猫みたくいちいちよってくか。

自分をそっちのけでそんなのやる奴は朝熊か大地、和湖、夏雪、明、麻紀、鏡、そして由愈ぐらいだ。あぁ、榎凪もしそうだし、あのちっこい二人もやるな。ってこれ、全員じゃん!?俺ってそんな冷徹人間かっ!?つーか何でいちいち一人漫才せにゃならん!話しを戻すと、俺がここにいるのは夏雪に頼まれたから、分かったかっ!薄弱なお前の脳細胞に焼き付けたかっ!」


 思い切り僕に人差し指を向けて、怒鳴る。怒鳴ると言うより叫ぶか、これ。

 かなりテンション重視な時雨さんの発言の仕方だ。もう、第一印象なんて木っ端微塵に砕かれてしまった。

 時雨さんはなおも喋ることを止めない。


「お前それなりに戦えるんだろ?榎凪にくっついて回ってるって事は。あいつは馬鹿だからな。いや、阿呆と言うべきか。まぁ、大した意味の差はないからどっちでもいいんだけどさ、あいつってかなり自由奔放で強欲で自己中じゃん?無理ばっかするから敵味方含めて人間が山のように集まってくる。生まれつき因果が多いんだろうな。そんな奴の近くにいて生きてるなんて相当なもんだ。でだ、そんなおまえが倒れてたんだろ?って事はさ、不意打ちとかじゃなく真っ正面からやられたわけだ。つまり夏雪に熨されちまったってこと。それはまぁ、あっさりと。夏雪は結構期待してたろうな。それが蓋を開けてみりゃ、この様だ。あまりの弱さに落胆し、呆れてどっか行っちまった。その途中でたまたま俺を捕まえて、お前の介抱に向かわせたんだ。俺って不運だな。そのときのあいつの目と来たら怖くて怖くて……」


 すげぇショック。余りにズバズバ言われて、もう立ち直りが効かないぐらい。そこまで僕は弱いですか、そこまで僕はカスですか。榎凪と居るだけなのに知らない間に期待されていた、だからってそんなものに僕は答えないといけないのか?んなもん、知るかってんだ。

 でも、榎凪の件については否定できない。

だけど肯定もできない。確かに榎凪は自由奔放で強欲で自己中だけど、それでも颯爽としていて格好良くて優しくて――良い面の方が多いくらいだ。悪い面だけ取り上げて言われるのを黙って聞いていられたこと、自分がなにより驚いている。ギリギリまで我慢した。でも、もう我慢が持たない。僕が口を開いた瞬間、


「冗談だけどな」


 と時雨さんが冷笑をかました。

 本当は時雨れさん、悪意に満ちて僕と会話してるのかもしれないと思わせるほどの嘘だった。この程度の冗談なら榎凪から何度もうけているから慣れてるけど。


「どこら辺から冗談かというと、落胆して呆れてどっか行ったぐらいからだ。あっさり熨されちゃったのは本当。まぁ、無理もないけどな。経験の長さが違う。お前なんて良くて三年程度。夏雪は十年ぐらいいってんじゃないか?つまり、そんだけ差があるって事。埋まらない絶対差だ。そんな差があるのにお前は驚くべき快挙を成し遂げたんだ。それさえも記憶にないなんて前代未聞だな。

うん、前代未聞。

そろそろもったいぶらずにサクサクいこう。

お前は夏雪に熨されて意識がなくなった瞬間、いや、なくなる直前かもしれないが今は些細なことだ。

覚えていないのだからな。

とにかくその瞬間、お前は木刀で夏雪に不安定な体勢で打ち込んだんだ。絶対差がある中こんな事をできた時点でかなり希なケース、滅多にみれない。だがそれだけではいちいち話に取り上げる程の事でもない。驚くべきなのはこれからだ。お前は不安定な体勢で打ち込んだのに一瞬で二、三発、しかも『骨を折るような重い打撃』をだ。もちろん木刀でな」


 そこまで聞いて僕は首を振り、もういいです、と口でそれより先を聞くのを拒否した。いくら鈍感な僕でも分かる。つまり僕が夏雪さんの腕を折ってしまった。簡単なことだ。単純なことだ。ここに夏雪さんがいないのは治療中で、替わりに時雨さんが僕が起きるのを待ってくれていたのか。


「お前、後で夏雪に謝るなり何なりしておけよ。自分を傷つけたことで落ち込んで欲しくないらしく、なにも言わないでくれと言ってきやがった。だが、ここで言わないのは筋道としておかしい気がしてならなくてな。だから一応言っておく。夏雪に言われたとおり落ち込むなよ。お前を熨した後に気を抜いた夏雪にも非がある。お前がここに来て一日二日で悪い記憶を残させたくない夏雪の行為を仮初めにするんじゃないぞ。それに目の前で落ち込まれたら目障りだ」


 時雨さんは相変わらずシニカルに僕に笑いかける。その奥に隠されている真実は読みとれない。演技でもしているかのように無色透明で淡泊な瞳。夢と現し世の境界がこの人には見えている。と言うかこの人には現実しかない。だから、こんな風にいつでも悪意と皮肉に満ちた冷笑を浮かべて入れるんだろう。


「他にも聞きたいことはありますが、これで最後にしておきます。ここは彼の有名な『神々の墓守』の本拠地なのは和湖さんから聞きました。そこで一つ質問です。最強の騎士『理由なき剣』、役目無しの『断罪の血族』、人形師『フェイカー』、堕天使『ファースト』、魔法使い『ギフト』――あなたは何ですか?」


 僕は時雨さんみたいにうまくはできないが、可能な限りシニカルに笑い、時雨さんに遊びのつもりで聞いてみた。

 時雨さんはそんな僕を鼻で笑い、悪意のない笑顔で僕に答える。


「したいのにしないなんて、ほんと欲のない奴だな。榎凪の連れとは考えられない。それに今度の質疑応答は実に簡単に終わりそうだな。だから実におもしろい」


 時雨さんはおもむろにサバイバルナイフをポケットから取り出し、宙に放った。

 ゆるりと回転しながら弧を描き、僕と時雨さんのちょうど中程まで来た所で動きを止めた。もちろん空中で。

 時雨さんはまたシニカルな笑みに戻り、


「俺は魔法使い『ギフト』だ」


 とだけ言った。


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