第29歩:TRUTH-6
『神々の墓守』――
通称『フラグメント(断片)』。『ベルワナ』と並ぶ、いやそれ以上の実力を持つとされた最も権威のある魔術集団。知らない人間などおそらくこの世にいない。その割には目立った活動もしていない不思議な人々。分かっているのは構成員数人の二つ名のみ。
最強の騎士『理由なき剣』。
役目無しの『断罪の血族』。
人形師『フェイカー』。
堕天使『ファースト』。
『フラグメント』の宗主にして、『神々の墓守』が有名になった理由、現存する数少ない魔法使い『ギフト』。
世間に知られている情報といえばその程度だ。
その『神々の墓守』がこの人たちだというのか。あり得ない。年齢的にも人数的にも。
「それ、本当ですか?」
「そんな疑いのまなざしで見ないでも……」
話を終えた和湖さんはまた笑顔を作ってくれた。もう恐怖は感じない。と言うより恐怖を感じるような仮面としての笑顔がはがれ落ち、本当に自然な笑顔になった所為だろう。
さっきのが仕事をしている和湖さんなら、これが素の和湖さんだ。
ところで和湖さんの二つ名は何だろう。騎士って感じじゃないし、一番古株なのに役目がないはずもない。人形師って言うよりは、ポーカーフェイスな役者だ。堕天使ならば人ではないしシックリくる。もしかしたら知られていない名なのかも知れない。
気になったので僕は当然のように聞いてみた。良くも悪くもストレートに。
「和湖さんって堕天使ですか?」
ポカンとされたよ。何かすごく痛いキャラみたいですからやめてほしい。
「いや、私はさっき言ったとおりヴァンパイアですよ」
そりゃそうだ。
テレパスでもない限り話が通じるはずがない。確かにこんなことを前触れなく聞けば痛いキャラだ。
と言うわけで訂正。
「あ、そうじゃなくて、和湖さんの二つ名は堕天使『ファースト』ですか?」
「いいえ、ちがいますよ」
即答された。しかも否定。
そして、淡い笑みで続けた。
「さ、私が言うのはこれで終わりです。後は夏雪さんや時雨君にでも聞いてください。私はここで本を読みますから」
急かすように屋根をたたされ、黒塗りの瓦屋根を歩いて半ば無理矢理家に戻された。
まだ太陽低く、空は青い。
結局聞けたのは『神々の墓守』のことだけ。まぁ、それが目的だったからいいか。
次は誰から真実を聞こうか。




