第28歩:TRUTH-5
何で和湖さんはあんなにもつらそうに言葉を並べるのだろう。
僕はただ答えが知りたかっただけなのに。
僕はただ真実が知りたかっただけなのに。
そんな顔で返されたら聞けなくなる。答えと真実を理解してはいけない気がしてくる。
笑いの仮面をかぶって喋って欲しい。それが答えを知りたがっている僕の免罪符なのだから。和湖さんの笑顔が怖かった訳じゃない。和湖さんの笑顔が無くなる時が一番怖いと本能的に理解していた。理性的に誤認していただけ。
だから……笑っていて和湖さん。
そんな小さな僕の願いは脆くも崩れた。
和湖さんは笑わない。顔の断片さえも、顔の欠片さえも顔の緩みなき無表情で語る。
「『神』は人間と変わりません」
話を聞くだけの余裕が僕から欠落し始めた。
今は和湖さんの笑顔が欲しい。なぜ笑ってくれないんですか。誰でもいいから教えてください。
「これで分かりますね」
和湖さんが僕の目を見ながら語る。
僕は和湖さんの目を見ながら聴く。
木枯らしの吹く冬の日、緑の匂いがない空気、日の当たる黒塗りの瓦の上で僕らは初めてちゃんと視線を交わした。
目から伝わる口よりも鋭利でストレートな感情。
和湖さんの目は悲しげに口ではなすことを拒んでいる。
答えは自分で察するしかないようだ。和湖さんの笑顔のためにも、自分自身の安定のためにも真理は自分で模索し立証するしかない。前のようにネガティブにではなく、もっとポジティブに真実を編み上げよう。
世界には『神』がいる。
『神』は輪廻する。
輪廻で『零』になる。
『零』は赤子になること。
『神』は人間の類似形。
導き出される答えは一つ。
繋いでいけばどうとでもなる。鎖のようにいつかどこかにたどり着くはず。僕がある居ているのは螺旋階段ではなく人よりも少しでこぼこしていて曲がった道なだけだ。
僕はひたすら思考する。
『神』が輪廻し、赤ちゃんになる。それは人間も同じ。人間の場合はただ両親がいて、場合によっては兄弟がいる。たったそれだけの違い。
それだけ?
類似形なのだからそれ以外は同一と仮定しよう。ならば……そういうことか。
僕は思わず気づき目を見開いた。そして、自分の愚鈍さに失望した。
それを察し和湖さんは答えを綺麗な声で言葉を結った。
「私たちは『零』になった『神』を育てる為の集団」
僕の考えた回答は正解のようだ。
和湖さんは少しだけ付け加えるように囁く。
「私らは神々の死に立ち会い、生と向き合う。故に付いた名は『神々の墓守』」
たったそれだけいって互いに口を閉じた。




