第22歩:TRUST
2006/02/23(木)にて第一〜二十歩の修正が終わりましたのでよろしかったらどうぞ。同時に勝手ながらサブタイトルも変更しまし戸惑わせたのを深くお詫びいたします。
一応ある程度解決したので各々ごとに部屋を出ていく。
まず時雨さんが不機嫌そうに退室し、それにぴったりくっつく様に由愈が出ていった。端から見ると仲の良い兄弟みたいで微笑ましい。
次に麻紀さんと明さんが榎凪と葵、茜を連行していった。榎凪はかなり反抗しそうな気がしたが案外あっさりついていった。茜と葵も楽しそうで良かった。
その後幾分かして夏雪さんが部屋から出ていく。だが出ていった直後に扉をまた開け鏡を連れ出した。夏雪さんは退室前に大地さんと少し話し何回かうなずいていたが距離があって何を話しているかは分からなかった。
そして朝熊さん。唯一この家に滞在していない人間故に一言だけ挨拶してから家に帰っていく。
最後に和湖さん。皆が部屋を個人個人で出ていく中、たった一人で手の届く範囲の本棚の本をさっと見てから一冊だけとって出ていった。出ていくときもにっこり笑ったままで音も発さず部屋から消えていった。
また二人になった。
ただ二人になった。
特に何も出来ることが無く取り残された僕と椅子に座ったまま僕と目線を意識せず交わす大地さんだけ。
腰を浮かせないまま目の光を少しだけ強めた大地さんは僕にそっと語りかけてきた。あまりの唐突さに少しだけ驚いたが表面には出さない。
「どうだ、感想は?」
すぐに何のことか分かった。此処の住人たちの異常さについて。平均年齢が二十歳より下であるというのに平気で死を賭した戦いを承諾する。そして何より一体何故その人々たちが集まっているのか。
「確かに外見から見れば戦力にならないかもしれないが」
回答など答える必要ないほどに僕はよまれている。
大地さんは落ち着き払った顔で姿勢をかけらも崩さない。細胞一つ一つが完璧。完全無欠とはこの人に与えられた代名詞なのだろう。
「おまえも麻紀から実感させられたように本当に強い」
力強い眼差しで、
信頼した口調で、
自然体の清音で、
曇る事無き顔で、
断言した。それ以外のことを完膚無きまでに否定。それでも尚、全く動かない。
昨日のことはすでに大地さんの耳に届いているようだ。
それも含めて、経験したことを総て考慮して言えることはたった一つ。
「信用は―――できません」
どうにも引っかかる。何かが引っかかっていて落ち着かない。
だから僕の答えはこうなったのだ。それで今回の手助けの件を白紙にされるかもしれないと言う危惧はあったが言わないよりは遙かにマシ。
だが返答はあっさりとしていた。
「だろうな」
椅子にさらに深くかけ直し薄くため息をはいた。予想をしてはいたもののそれ以外を期待していた様子。
その状況をすぐに立て直しまた元通り凛とした大地さんに戻る。
「無知に信じれる人間は少ない」
悲しそうに、哀れむように大地さんは目を伏せた。
そんな大地さんは体が受け付けようとしない。止めてほしかった。自分がとても愚かに見えて直視できず目をそらした。
「だから」
そのままの格好で紡がれる大地さんと僕を繋ぐ免罪符。世界の総てを許す断罪の言葉。
「もっと知ってほしい、俺たちのことを」
僕が顔を前へと戻すと同時に大地さんも顔を上げた。
交錯する視線が暖かい。和らいだその人の笑顔は別人のようで凄く落ち着く。
どこに行けばいいかという漠然とした不安も、いつまで悲しいこの世界が続くかという途方もない絶望もこの人となら忘れられた。
「じゃあ教えてください」
感情に浸るのはこれぐらいにして許しが出たのなら信用が出来るまで聞こう。
「大地さん―――貴方達は一体何なんですか?」
僕はまどろっこしいことはせず、ストレートに確信を尋ねた。
すると大地さんは困ったように目を伏せ、やがてゆっくり口を開いた。
「俺ではうまく答えられない。たが……」
言葉を切り眉間にしわを寄せる。自分自身が出した回答に未だ迷いがあって言い出せないらしい。時間はあるのだからゆっくりしてもらっても僕としては構わないのだが。
だが不思議だ。中枢にいると思われる大地さんが喋れない。大地さんは話が下手なわけではないようだし。他に何が理由となりうるだろう。
「和湖に聞くといい。部屋を出てすぐの階段を上ればいるはずだ」
考えは大地さんの言葉により途中で切れた。
和湖さんか。
あまりあの人に好印象を持っていない僕としてはやりずらいが大地さんがいうならば間違いない。
「分かりました」
短く返事をした僕を見て不思議がる大地さん。不思議がる大地さんの方がよほど不思議な気がするがそれは置いておこう。
「何故すぐ返事ができる?」
大地さんの疑問はもっともだ。この人は真実を知って聞いているのかもしれない。
僕は立ち上がり戸まで行ったところでキザっぽく答える。最後に見栄を張ってみた。
「あなただけは信用してるからですよ」
戸を開けて廊下にでた。返答はない。
僕の目に最後に映るのは肩口まで伸びた長く細微な白髪が頬をくすぐっている大地さんの切なげな表情だった。




